48 / 116
第二章「戦い続ける男」
第四十八話「成長する者たち」
しおりを挟む
ベルナールたち一行はダンジョン、ラ・ロッシュの門を潜る。ベルナール不在の間、セシールたちはダンジョンと森とを交互に戦っていたそうだ。
入り口にマークスの姿は見えない。下で警備をしているのだろう。
下層へと向かいながら、ベルナールはふと思い出す。
「少し寄り道していこう」
四人は第四階層で以前ロシェルが主張した、新空間があるという場所に立つ。
「どうだ? まだあると感じるか?」
ロシェルは岩肌をじっと睨んだ。一応、真剣に探るつもりのようだ。
「あるよ~」
「そうか……」
確かに何かを感じる力が、ロシェルにはあるようだ。ベルナールはこの力で新階層への開口部を探査しようと考えた。
「それと同じ感じで、第六階層から下への入り口を探してみようか」
「はい~」
それらしき場所を見つけている程度の話でも、王都の監察官に対するエルワン体面は保てるだろう。多少ではあるがな、と思いベルナールは苦笑した。
第六階層に下りるとマークスたち守備隊がいた。
「どうだ?」
「久しぶりだな。たいした獲物は出ないさ。最初は大繁盛だったが今は落ち着いてきたな」
守備隊長は部下二名と退屈そうにしていた。どこかで対処ができない魔物などが出現した場合、避難誘導などを行う為だ。
「俺は少し話していくが、構わないか?」
「いいわよ、私たちで大丈夫なんだから。行きましょう」
セシールはそう言ってアレット、ロシェルを引き連れて先へと進む。そしてベルナールは暇そうにしていたマークスに話しかける。
「今日は、たいした魔物は出てないのか?」
「ああ、巨大ホールも沈黙したままだ。今日も二人で監視させているが静かなものさ……」
新階層における魔物の出現には波がある。この状態がずっと続く訳ではない。各階層か開口された時の話などしながら、互いの予測意見を交換する。
「そのうちに賑やかになるさ。今は未確認開口部から飛び出した獲物が多いみたいだ。若い連中もそっちに行ってるみたいだぜ」
「そうか……」
とは言え弟子たちの訓練には、この程度の静かさが丁度よい。
「ちょっと巨大ホールを見てくるよ」
ベルナールはマークスと分かれて、弟子たちとは反対の方向へと向かった。
途中の支道では数組のパーティーが戦いの気配を放っている。それなりには魔物は出ているようだ。
巨大ホール前のバリケードでは、二人の守備隊員が暇そうにしている。
「中を見せてもらうぞ!」
「はっ、はい!」
最近の活躍で、もうベルナールの顔を知らない者は守備隊員にはいない。若い隊員がバリケードをどかす。
「ふむ……」
中は静まり返りジャバウォックとの戦いが嘘のようだった。気配を探るが魔物出現の兆候は感じない。
「こんなものか……」
ベルナールは、このホールに満ちている魔力が少ないと感じた。
「大物が出るのはまだ先かな……」
何度も各階層のホールで戦ってきたベルナールは、経験でそう呟いた。そして来た道を引き返す。
弟子たちが向かった回廊を進むと、ベルナールは支道にセシールたちの気配を感じた。どうやら戦っているようなので先を急ぐ。
「やってるな」
敵はアラクネーだった。いつ見てもこの姿は気味が悪い。この程度の相手ならベルナールの助力は必要ないだろう。
セシールとロシェルは、黒い蜘蛛の下半身に次々矢を打ち込み足止めする。そしてアレットは上半身に剣を振って魔撃を加えた。
「行くわよっ!」
「はいっ!」
セシールの叫びにアレットが飛び退くと、ロシェルの放った矢がアラクネーの上半身頭部に命中。続いてセシールの矢は胴体に命中した。これが致命傷になる。
「うん……」
弱点は魔核のある胴体だが、ロシェルには的の小さい頭部を狙わせたのだ。
そして同時に当たるタイミングを計りながら、セシールはあえて時間差をつけ矢を打ち込んだ。訓練を主眼においての戦い方だった。
「やるじゃないか!」
「あっ、ベルさん。来たの」
アレットとロシェルが魔核を回収する。セシールはベルナールに歩み寄った。
「どうかな?」
「お前さんは教師にでもなった方が良かったよ」
自分がいない方が弟子は成長するのかもと、ベルナールは思い少しさみしく感じた。
「あの二人は教え甲斐があるわ」
「うむ」
「それと例の話。ロシェルがそれらしい場所を見つけたの」
「それは凄い」
「行きましょう」
戻ったアレットが魔核をベルナールとセシールに見せる。
「ちょっと強めのアラクネーだったから、大きめね」
「うむ、アレットの剣技も一段と研ぎすまされたな。今度は技を教えよう」
「はいっ!」
四人は問題の場所へと移動する。ベルナールが初めて入った小さなホールで、ロシェルは壁を指差す。
「ここ~」
「うむ、でかしたぞ! 報告しよう。ギルドマスターに喜ばれるな」
「はい~」
回廊に出ると敵の気配がし、奥の支道から魔物が現われる。C級オーガの登場だ。
「これは俺が一人でやるよ」
ベルナールも少しは働かねばならない。一人、前に出て剣を抜く。
入り口にマークスの姿は見えない。下で警備をしているのだろう。
下層へと向かいながら、ベルナールはふと思い出す。
「少し寄り道していこう」
四人は第四階層で以前ロシェルが主張した、新空間があるという場所に立つ。
「どうだ? まだあると感じるか?」
ロシェルは岩肌をじっと睨んだ。一応、真剣に探るつもりのようだ。
「あるよ~」
「そうか……」
確かに何かを感じる力が、ロシェルにはあるようだ。ベルナールはこの力で新階層への開口部を探査しようと考えた。
「それと同じ感じで、第六階層から下への入り口を探してみようか」
「はい~」
それらしき場所を見つけている程度の話でも、王都の監察官に対するエルワン体面は保てるだろう。多少ではあるがな、と思いベルナールは苦笑した。
第六階層に下りるとマークスたち守備隊がいた。
「どうだ?」
「久しぶりだな。たいした獲物は出ないさ。最初は大繁盛だったが今は落ち着いてきたな」
守備隊長は部下二名と退屈そうにしていた。どこかで対処ができない魔物などが出現した場合、避難誘導などを行う為だ。
「俺は少し話していくが、構わないか?」
「いいわよ、私たちで大丈夫なんだから。行きましょう」
セシールはそう言ってアレット、ロシェルを引き連れて先へと進む。そしてベルナールは暇そうにしていたマークスに話しかける。
「今日は、たいした魔物は出てないのか?」
「ああ、巨大ホールも沈黙したままだ。今日も二人で監視させているが静かなものさ……」
新階層における魔物の出現には波がある。この状態がずっと続く訳ではない。各階層か開口された時の話などしながら、互いの予測意見を交換する。
「そのうちに賑やかになるさ。今は未確認開口部から飛び出した獲物が多いみたいだ。若い連中もそっちに行ってるみたいだぜ」
「そうか……」
とは言え弟子たちの訓練には、この程度の静かさが丁度よい。
「ちょっと巨大ホールを見てくるよ」
ベルナールはマークスと分かれて、弟子たちとは反対の方向へと向かった。
途中の支道では数組のパーティーが戦いの気配を放っている。それなりには魔物は出ているようだ。
巨大ホール前のバリケードでは、二人の守備隊員が暇そうにしている。
「中を見せてもらうぞ!」
「はっ、はい!」
最近の活躍で、もうベルナールの顔を知らない者は守備隊員にはいない。若い隊員がバリケードをどかす。
「ふむ……」
中は静まり返りジャバウォックとの戦いが嘘のようだった。気配を探るが魔物出現の兆候は感じない。
「こんなものか……」
ベルナールは、このホールに満ちている魔力が少ないと感じた。
「大物が出るのはまだ先かな……」
何度も各階層のホールで戦ってきたベルナールは、経験でそう呟いた。そして来た道を引き返す。
弟子たちが向かった回廊を進むと、ベルナールは支道にセシールたちの気配を感じた。どうやら戦っているようなので先を急ぐ。
「やってるな」
敵はアラクネーだった。いつ見てもこの姿は気味が悪い。この程度の相手ならベルナールの助力は必要ないだろう。
セシールとロシェルは、黒い蜘蛛の下半身に次々矢を打ち込み足止めする。そしてアレットは上半身に剣を振って魔撃を加えた。
「行くわよっ!」
「はいっ!」
セシールの叫びにアレットが飛び退くと、ロシェルの放った矢がアラクネーの上半身頭部に命中。続いてセシールの矢は胴体に命中した。これが致命傷になる。
「うん……」
弱点は魔核のある胴体だが、ロシェルには的の小さい頭部を狙わせたのだ。
そして同時に当たるタイミングを計りながら、セシールはあえて時間差をつけ矢を打ち込んだ。訓練を主眼においての戦い方だった。
「やるじゃないか!」
「あっ、ベルさん。来たの」
アレットとロシェルが魔核を回収する。セシールはベルナールに歩み寄った。
「どうかな?」
「お前さんは教師にでもなった方が良かったよ」
自分がいない方が弟子は成長するのかもと、ベルナールは思い少しさみしく感じた。
「あの二人は教え甲斐があるわ」
「うむ」
「それと例の話。ロシェルがそれらしい場所を見つけたの」
「それは凄い」
「行きましょう」
戻ったアレットが魔核をベルナールとセシールに見せる。
「ちょっと強めのアラクネーだったから、大きめね」
「うむ、アレットの剣技も一段と研ぎすまされたな。今度は技を教えよう」
「はいっ!」
四人は問題の場所へと移動する。ベルナールが初めて入った小さなホールで、ロシェルは壁を指差す。
「ここ~」
「うむ、でかしたぞ! 報告しよう。ギルドマスターに喜ばれるな」
「はい~」
回廊に出ると敵の気配がし、奥の支道から魔物が現われる。C級オーガの登場だ。
「これは俺が一人でやるよ」
ベルナールも少しは働かねばならない。一人、前に出て剣を抜く。
0
お気に入りに追加
282
あなたにおすすめの小説
ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。
途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。
さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。
魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。
一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。
弓使いの成り上がり~「弓なんて役に立たない」と追放された弓使いは実は最強の狙撃手でした~
平山和人
ファンタジー
弓使いのカイトはSランクパーティー【黄金の獅子王】から、弓使いなんて役立たずと追放される。
しかし、彼らは気づいてなかった。カイトの狙撃がパーティーの危機をいくつも救った来たことに、カイトの狙撃が世界最強レベルだということに。
パーティーを追放されたカイトは自らも自覚していない狙撃で魔物を倒し、美少女から惚れられ、やがて最強の狙撃手として世界中に名を轟かせていくことになる。
一方、カイトを失った【黄金の獅子王】は没落の道を歩むことになるのであった。
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
パーティーを追放された装備製作者、実は世界最強 〜ソロになったので、自分で作った最強装備で無双する〜
Tamaki Yoshigae
ファンタジー
ロイルはSランク冒険者パーティーの一員で、付与術師としてメンバーの武器の調整を担当していた。
だがある日、彼は「お前の付与などなくても俺たちは最強だ」と言われ、パーティーをクビになる。
仕方なく彼は、辺境で人生を再スタートすることにした。
素人が扱っても規格外の威力が出る武器を作れる彼は、今まで戦闘経験ゼロながらも瞬く間に成り上がる。
一方、自分たちの実力を過信するあまりチートな付与術師を失ったパーティーは、かつての猛威を振るえなくなっていた。
2度追放された転生元貴族 〜スキル《大喰らい》で美少女たちと幸せなスローライフを目指します〜
フユリカス
ファンタジー
「お前を追放する――」
貴族に転生したアルゼ・グラントは、実家のグラント家からも冒険者パーティーからも追放されてしまった。
それはアルゼの持つ《特殊スキル:大喰らい》というスキルが発動せず、無能という烙印を押されてしまったからだった。
しかし、実は《大喰らい》には『食べた魔物のスキルと経験値を獲得できる』という、とんでもない力を秘めていたのだった。
《大喰らい》からは《派生スキル:追い剥ぎ》も生まれ、スキルを奪う対象は魔物だけでなく人にまで広がり、アルゼは圧倒的な力をつけていく。
アルゼは奴隷商で出会った『メル』という少女と、スキルを駆使しながら最強へと成り上がっていくのだった。
スローライフという夢を目指して――。
「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~
平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。
ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。
身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。
そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。
フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。
一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!
桜井正宗
ファンタジー
辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。
そんな努力もついに報われる日が。
ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。
日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。
仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。
※HOTランキング1位ありがとうございます!
※ファンタジー7位ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる