上 下
37 / 116
第二章「戦い続ける男」

第三十七話「特別種との出会い」

しおりを挟む
 今までは少し遅い時間に、自宅で弟子たちを待てばよかったのだが、気合い十分のセシールに約束させられ、ベルナールは早朝のギルドを訪れた。

「ったく、こんな朝っぱらから……」

 そう言ってあくびを噛み殺す。

「何言ってるのよ! 普通よ」
「まあ、なあ……」

 ベルナールとて全盛期はこんな時間から来ていたのだ。

「さっ、掲示板を見ましょうよ」
「ああ……」

 セシールは張り切りまくっていた。意外にも、いや、普通なのだかデフロットとバスティのパーティーも来ている。

「よう、感心だな」
「おっ、おっさん! どうしたんだ。こんな時間に?」

 他のメンバーはベルナールにペコリと頭を下げる。

「ウチのリーダーが出勤時間にうるさくてな。ダンジョンには潜らないのか?」
「今日は魔物より冒険者の方が多いくらいだろ。俺たちに出番はないな。外で色々試してみる」
「そうか……」
「これなんかどうかしら?」

 魔法使いウィザードが指すそこには、東の森で飛行する魔物の目撃例が書かれていた。

「ドルフィル、ローレットとあれ・・を試すのには最適よ!」

 あれとは昨日やった、魔法と矢の複合攻撃のことだろう。

「よしっ! 今日は俺が支援に回ってみるか。これにしよう」

 デフロットはそう言ってクエスト票を外す。

「そうか、東には苦戦する冒険者がいるかもな」
「相手はC級だ。じゃましに来るなよ」

 ベルナールは肩をすくめる。デフロットたちは受付カウンターに向かった。

「バスティはどうするんだ?」
「北の先まで行ってみます。C級が増えているってありますね」
「そうか、未確認開口部ロスト・マウスから掘り出し物が出てるかもな。新階層を開けた時の現象さ」
「そうですか! なるほど……」

 それは事実だった。確たる理由は分からないが、閉じ込められた魔力の消失が、他のダンジョンにも影響を及ぼすらしい。

 バスティはそのクエスト票を外す。

「それじゃあ行ってきます」
「ああ」

 そして受付に向かった。

「なら私たちは西の森ね。ホントにあの人たち、ダンジョンには行かないのね」
「あいつらは自分の強さが分かっているのさ」

 セシールは西の森の探索と書かれている紙を外した。

「ん?」

 二階からエルワンがあくびをしながら下りて来た。ベルナールたちの姿に気が付き受付カウンターに向かってくる。

「どうしたんですか、こんなに早くから? こっちは泊まり込みで報酬の計算ですよ……」
「御苦労だな。セシールにせかされて今日は真面目なヘルプをやるよ。こいつは何だ?」

 ベルナールはセシールからクエスト票を受取りエルワンに見せた。

「ああ、これですか。補足が難しいB級が数体いたんですがね。ここ二日でほとんど討伐されました」
「なんだ、そうなのか……」
「うーん、打漏らしが、たぶんまだ一体はいたかなあ……」

 エルワンは寝ぼけ眼のまま大儀そうに言う。既にたいした案件ではないようだ。

「ならそいつを探してみるか……」

 ややっこしいクエストでなければ問題ない。

   ◆

 ベルナールたちは森の中を西へと進んだ。

「跳んで行きましょうか?」
「大丈夫か? 俺は、今はせいぜい一往復程度と、向きの制御が出来るくらいだが……」

 昔は大空を飛翔して魔物を追っていたが、現在のベルナールはそれが限界だった。

「大丈夫よ。二人で一日くらいなら私一人でも支援できるから。今日はたいした敵とも戦わないしね」

 さすがは蒼穹の娘だ。ベルナールは魔力のアシストで体が軽くなったように感じた。

「行きましょう」

 二人は大きく跳躍し、体で空気を抱え込むように大空を滑空する。


「あれ、何かしら?」

 遠くに黒い小さな点がいくつか見えた。

「ワイバーンの小さいのだな……」

 黒い体に二本の足。姿は似ているが、ドラゴンやジャバウォックのようなブレス攻撃はない。

「ちょっと遠いわね。魔力を消費しちゃうわ」
「今日は偵察に徹しようか」
「うんっ」

 ベルナールは久しぶりに、大空の散歩を楽しむ。


 二人は小高く見晴らしのよい丘に降り立った。

「ダメねえ。探知に掛かるのはC級ばかりね」
「ああ、B級の打漏らしとやらはいないな……」

 セシールの探査能力がベルナールを超えて久しい。

「東のずっと先に冒険者が何人かいるわ。あんな遠くでクエスト? そんなのあったかしら?」

 そしてベルナールよりもかなりの遠方を探る。そして首を捻った。

「軍の連中だよ。未確認開口部ロスト・マウスを探している」
「えっ?」

 別段秘密でもなんでもない。ベルナールは事情を説明した。

「そう、そうなの――あっ!」

 セシールは突然に叫ぶ。

「どうした?」
「B? でもこれは――、分からない。でも強力な魔物よ。いるわ」
「何だと?」

 セシールの言い方は意味不明ではあるが、言っている意味は、ベルナールには分かった。

 しかし、もう今のベルナールにそれ・・は感じられない。

「そこに行ってみよう。様子を見るだけだ。戦わないからな」
「……うん」

 困惑するセシールの先導で跳び、二人は森に降りる。そしてしばらく歩き、その魔物を感じた。

 深い森がひらけ草原に出る。そこには一頭の白馬がたたずんでいた。

「こいつが打ち漏らしの正体か……」
「これはA級? でもそうは感じない……」

 それはそうだ。よく分からないとのセシールの見立ては正しい。ベルナールとて会うのは久しぶりだった。

「分類不能の特別種。S級のユニコーンだ」
「えっ! これが――S級??」

 頭部に特徴的な細い一角、白い馬体からは威圧感はまるで感じない。しかしそれ以外の何かがベルナールたちを包み込む。

「綺麗……」

セシールは両手を広げて、何かに魅入られたようにフラフラと歩み出た。

「おいっ!」
「えっ? わっ、私ったら……」
「いや、話をしたいんだよ。それだけだ……。意識をしっかりと保て」
「話? きゃっ」

 あなたはなぜ戦うのですか? なぜこの男といっしょに――、とセシールの頭の中に、別の思考が渦巻く。

「あっ、ああ……、そんなことは分からないわ……。何を?」

 頭の中で会話する違和感にセシールは顔を覆った。

「ふふっ、まあこんなもんだろ……」

 ユニコーンは白いつむじ風となって空に消えた。あれが相手では打漏らしたのも当然だ。


 店に戻ってから、セシールは必死にユニコーンとの出会いを、母親に説明する。

「私もずいぶんと、そんなのに会ったわ。色々よ……」

 セシリアは話をはぐらかし、セシールは配膳のため厨房へと向かった。

「あのユニコーンったら、まだこの辺りにいるのね……」
「セシールを蒼穹の娘と認めたようだ」
「どうかしらね?」

 悪戯っぽく笑う母親は、満更でもない表情でもある。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

拾った子犬がケルベロスでした~実は古代魔法の使い手だった少年、本気出すとコワい(?)愛犬と楽しく暮らします~

荒井竜馬
ファンタジー
旧題: ケルベロスを拾った少年、パーティ追放されたけど実は絶滅した古代魔法の使い手だったので、愛犬と共に成り上がります。 ========================= <<<<第4回次世代ファンタジーカップ参加中>>>> 参加時325位 → 現在5位! 応援よろしくお願いします!(´▽`) =========================  S級パーティに所属していたソータは、ある日依頼最中に仲間に崖から突き落とされる。  ソータは基礎的な魔法しか使えないことを理由に、仲間に裏切られたのだった。  崖から落とされたソータが死を覚悟したとき、ソータは地獄を追放されたというケルベロスに偶然命を助けられる。  そして、どう見ても可愛らしい子犬しか見えない自称ケルベロスは、ソータの従魔になりたいと言い出すだけでなく、ソータが使っている魔法が古代魔であることに気づく。  今まで自分が規格外の古代魔法でパーティを守っていたことを知ったソータは、古代魔法を扱って冒険者として成長していく。  そして、ソータを崖から突き落とした本当の理由も徐々に判明していくのだった。  それと同時に、ソータを追放したパーティは、本当の力が明るみになっていってしまう。  ソータの支援魔法に頼り切っていたパーティは、C級ダンジョンにも苦戦するのだった……。  他サイトでも掲載しています。

2度追放された転生元貴族 〜スキル《大喰らい》で美少女たちと幸せなスローライフを目指します〜

フユリカス
ファンタジー
「お前を追放する――」  貴族に転生したアルゼ・グラントは、実家のグラント家からも冒険者パーティーからも追放されてしまった。  それはアルゼの持つ《特殊スキル:大喰らい》というスキルが発動せず、無能という烙印を押されてしまったからだった。  しかし、実は《大喰らい》には『食べた魔物のスキルと経験値を獲得できる』という、とんでもない力を秘めていたのだった。  《大喰らい》からは《派生スキル:追い剥ぎ》も生まれ、スキルを奪う対象は魔物だけでなく人にまで広がり、アルゼは圧倒的な力をつけていく。  アルゼは奴隷商で出会った『メル』という少女と、スキルを駆使しながら最強へと成り上がっていくのだった。  スローライフという夢を目指して――。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!

よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。 10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。 ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。 同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。 皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。 こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。 そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。 しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。 その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。 そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした! 更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。 これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。 ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。 ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。 身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。 そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。 フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。 一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。

処理中です...