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第一章「戦力外の男」
第五話 「パーティー追放」
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「君は追放だよ……」
その上品さが漂う整った顔つきが、妙に冷たく感じるのは目つきの鋭さだけではないと分かってはいる。唐突にこのように話すのは、生まれの立場がそうさせるのだとも思っていた。
「いったい何よ……、それは――」
セシールは唇を噛み、目の前の相手を睨んだ。
「何度も言わせるなよ。君にはこのパーティーを止めてもらう。ついほうだ」
「くっ……」
彼女にそう告げた冒険者、パーティーのリーダーであるブランシャール・フィデールはこの辺りを治める中堅貴族の三男坊だ。
たいした領地を継げるわけもないので兄たちを助ける為と、経験を積む為に冒険者となった。領地の経営には魔物の排除も含まれるからだ。
このパーティーがいつも打ち合わせを行う一室。庶民が通うなら高級店と呼べるレストラン。貴族たちが会食などに使う二階の個室でフィデールは突然切り出した。この店はブランシャール家の経営である。
抑揚なく言うこのパーティーのリーダーの表情からは特に感情は読み取れない。
フィデールは魔力持ちで事実、弓使いとしての才能があった。実力はセシールと同じBランクだ。
最初はなぜ同じ弓使いの自分をパーティーに引き込んだのか疑問に思っていたセシールは、最近なんとなく納得していた。
自身が弓使いなので弓が強力なパーティーとアピールしたかったようだ。おそらくはあの勇者の娘を従える弓の名手、とでも呼ばれる名声が欲しかったのだろう。
しかしその目論見は速攻に破綻した。セシールにとっては眠たくなるような弓捌き。あくびのあいだに何本も矢を射られると思ったのは、幼い頃から母親を見ていたからだ。
実力はセシールの方があきらかに上――。だからセシールは互いを生そうと考え、フィデールと協力して放つ技に務めた。
二人で同時に射る矢は、遠距離でも見事命中し、B級の魔物ならば一撃で倒せるようになっていたのだ。
それなのに――。
「いったい――なぜ?」
「君はこのパーティーには不要なんだよ」
更にセシールは黒子に徹して、常にフィデールに花を持たせてきた。中堅の三男とは言え貴族は貴族だしパーティーの顔、リーダーとしては彼が適任であったからだ。
「でも……」
あなたの意図を察して働いてきた、との言葉をセシールは飲み込む。しかしあえて追放などと言葉を選ぶこの男の性格、嫌らしさに、セシールはすぐに気が付いていた。
今は同じBランクの力ではあるが、才能も自分の方がはるかに上だとセシールは思っている。
この男は伸びしろの限界が近い――。徐々に持ちうる魔力には差が出るが、それをフィデールが予見できているとは思えなかった。
それをここでぶちまける訳にはいかない。
セシールはこの期に及んでも、彼の貴族としての体面に気を使った。彼は領主の息子なのだ。
他のメンバーたちは無言で目を伏せている。
皆ブランシャール家の領地で働く農家の出身だ。立場もあり反対などできないのは分かる。
「悪いね」
「いえ……」
百倍返しで言い返したいがセシールは我慢する。ここで蒼穹の娘が醜態をさらす訳にはいかなかった。
天をも射貫くと湛えられた母親の顔に泥は塗れない。
それに言い返せば、彼らは必ず悪い方へ脚色して噂を流すだろう。ここで何か言うのは得策ではなかった。
ベルナールの戦力外通告に憤ってみれば、自分も同じような目に遭ってしまったのだ。
セシールはどう母親やベルナールに説明しようかと考えながら店を出た。
◆
二階の一室からカーテンを薄く開けて、フィデールはセシールの後ろ姿を見下ろす。
冷ややかな笑いを浮かべて、残っているパーティーメンバーに向き直る。
「計画は分かっているね? 我が領地出身の冒険者たちに声を掛けて、街に危機が及んだ場合はブランシャール家に協力させるんだ。約束を取り付けてくれたまえ」
メンバーたちは困惑の表情のまま頷いた。
ある情報。近い時期に戦乱が起こるとの情報を得て、フィデールは画策していた。
蒼穹の名声は目論見通りに魅力的ではあったが、今となっては外部の人間はじゃまでしかない。
それに最近は、全てセシールのおかげ、などと揶揄する噂も出始めていた。ちょうど良い機会だったのだ。
彼女を放逐して領地の身内だけで結束する。
幸いにベテランの資格剥奪で、若い冒険者たちは困惑していた。ブランシャール家が声を掛ければ、領地出身の冒険者は乗ってくるだろう。
その時こそ、このパーティーが輝く時だ。家の名声が高まるとフィデールはほくそ笑んだ。
その上品さが漂う整った顔つきが、妙に冷たく感じるのは目つきの鋭さだけではないと分かってはいる。唐突にこのように話すのは、生まれの立場がそうさせるのだとも思っていた。
「いったい何よ……、それは――」
セシールは唇を噛み、目の前の相手を睨んだ。
「何度も言わせるなよ。君にはこのパーティーを止めてもらう。ついほうだ」
「くっ……」
彼女にそう告げた冒険者、パーティーのリーダーであるブランシャール・フィデールはこの辺りを治める中堅貴族の三男坊だ。
たいした領地を継げるわけもないので兄たちを助ける為と、経験を積む為に冒険者となった。領地の経営には魔物の排除も含まれるからだ。
このパーティーがいつも打ち合わせを行う一室。庶民が通うなら高級店と呼べるレストラン。貴族たちが会食などに使う二階の個室でフィデールは突然切り出した。この店はブランシャール家の経営である。
抑揚なく言うこのパーティーのリーダーの表情からは特に感情は読み取れない。
フィデールは魔力持ちで事実、弓使いとしての才能があった。実力はセシールと同じBランクだ。
最初はなぜ同じ弓使いの自分をパーティーに引き込んだのか疑問に思っていたセシールは、最近なんとなく納得していた。
自身が弓使いなので弓が強力なパーティーとアピールしたかったようだ。おそらくはあの勇者の娘を従える弓の名手、とでも呼ばれる名声が欲しかったのだろう。
しかしその目論見は速攻に破綻した。セシールにとっては眠たくなるような弓捌き。あくびのあいだに何本も矢を射られると思ったのは、幼い頃から母親を見ていたからだ。
実力はセシールの方があきらかに上――。だからセシールは互いを生そうと考え、フィデールと協力して放つ技に務めた。
二人で同時に射る矢は、遠距離でも見事命中し、B級の魔物ならば一撃で倒せるようになっていたのだ。
それなのに――。
「いったい――なぜ?」
「君はこのパーティーには不要なんだよ」
更にセシールは黒子に徹して、常にフィデールに花を持たせてきた。中堅の三男とは言え貴族は貴族だしパーティーの顔、リーダーとしては彼が適任であったからだ。
「でも……」
あなたの意図を察して働いてきた、との言葉をセシールは飲み込む。しかしあえて追放などと言葉を選ぶこの男の性格、嫌らしさに、セシールはすぐに気が付いていた。
今は同じBランクの力ではあるが、才能も自分の方がはるかに上だとセシールは思っている。
この男は伸びしろの限界が近い――。徐々に持ちうる魔力には差が出るが、それをフィデールが予見できているとは思えなかった。
それをここでぶちまける訳にはいかない。
セシールはこの期に及んでも、彼の貴族としての体面に気を使った。彼は領主の息子なのだ。
他のメンバーたちは無言で目を伏せている。
皆ブランシャール家の領地で働く農家の出身だ。立場もあり反対などできないのは分かる。
「悪いね」
「いえ……」
百倍返しで言い返したいがセシールは我慢する。ここで蒼穹の娘が醜態をさらす訳にはいかなかった。
天をも射貫くと湛えられた母親の顔に泥は塗れない。
それに言い返せば、彼らは必ず悪い方へ脚色して噂を流すだろう。ここで何か言うのは得策ではなかった。
ベルナールの戦力外通告に憤ってみれば、自分も同じような目に遭ってしまったのだ。
セシールはどう母親やベルナールに説明しようかと考えながら店を出た。
◆
二階の一室からカーテンを薄く開けて、フィデールはセシールの後ろ姿を見下ろす。
冷ややかな笑いを浮かべて、残っているパーティーメンバーに向き直る。
「計画は分かっているね? 我が領地出身の冒険者たちに声を掛けて、街に危機が及んだ場合はブランシャール家に協力させるんだ。約束を取り付けてくれたまえ」
メンバーたちは困惑の表情のまま頷いた。
ある情報。近い時期に戦乱が起こるとの情報を得て、フィデールは画策していた。
蒼穹の名声は目論見通りに魅力的ではあったが、今となっては外部の人間はじゃまでしかない。
それに最近は、全てセシールのおかげ、などと揶揄する噂も出始めていた。ちょうど良い機会だったのだ。
彼女を放逐して領地の身内だけで結束する。
幸いにベテランの資格剥奪で、若い冒険者たちは困惑していた。ブランシャール家が声を掛ければ、領地出身の冒険者は乗ってくるだろう。
その時こそ、このパーティーが輝く時だ。家の名声が高まるとフィデールはほくそ笑んだ。
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