60 / 64
59「内面の敵」
しおりを挟む
キメラの表面が赤黒く変色した。昆虫の頭がせり出してくる。
この姿は――、実物を見た事はないけれどさあ。ボスキャラが触手持ちのムカデとはねえ。
悪役令嬢騎士は果敢に攻撃する。しかし相手は融合体。体を切るがすぐに修復されてしまう。
ユルクマはそれを見守りながらも魔獣と戦っている。
どう倒せばいいんだよ……。
『方法はあるである。内部に入るである』
うえ。マジ?
『近しい転生者ならば、可能である』
内部からの攻撃――。やるしかないか。
『時間は稼げるである』
それだけ? そもそもどうやって中に入るの。具体的にどうすれば……。
『体を大きく切り裂くである』
そうかっ! 大聖女様がやっていた。
『そうすれば中から融合していた魔が出ようとする。その中に入り込むである』
でもその後どうするの?
『共通の記憶にすがるである』
? よく分からん。まあ、やってみるか。
ムカデの上では薔薇対触手の戦いが続いていた。僕は隙を突いて背中に乗り剣を突き立てる。
いけるぞ。剣が通る!
そのまま動かしてムカデの背中を大きく切り裂く。
ここに入るのか……。しゃーない。やるしかない。
血こそ出ないが、中は生物の内部そのものだ。入り込むと外皮が閉じた。
このまま取り込まれるってことは……。
『アバターは融合不可である』
それなら安心――。
と思った瞬間、周囲が真っ白い光に包まれた。
これが噂の白い部屋というやつか。女神と対面する冒頭の場所だな。違うか。破壊してやる。
僕は右手に魔法花火をつく出すが――。
えっ!? 消えた?
『魔力を取り込まれたである』
なんて失敗を。ヤツを強くしてしまった。どうすれば……。
『ならば、精神の核を破壊するであるな』
どうやって……。何もないようだけど……。
周囲はただ白いだけだ。広いのか、狭いのかも分からない。
『精神を集中するである』
言われたとおりにすると、何やら黒い玉が見えてきた。そこから細い触手がたくさん生えて動いている。魂が横に広がり何やら表面に小さな虫が湧き出してきた。相変わらず気味悪い。
これがあいつなのか。
『そうである』
まあ、キャラ的にこんな感じだと思ってたけどさ……。
僕の体は人の形をしているようだけど無色透明だ。足が細くて腕も細く、なんだかゆらゆらと揺れている感じ。こっちは強さも気味悪さも、威圧感なんてこれっぽっちもないキャラクターである。
弱そう。
『ヤツを倒すである』
肉弾戦で? 無理だよ。あいつは相当こじらせている。人間の一線をちょっと超えてしまったような奴なんだ
『精神では勝てないであるか』
僕の根性じゃ無理だって。こっちの格好はこれ以上なくユルいでしょ。見ればわかるでしょ?
『ヤツを倒さねば、街の人間は全て喰われるである。更に成長し、この世界全てを侵食するである』
勇者がいればなあ。
『仮面勇者がいるである』
それは人形の商品名で――。
『とにかくやるである』
分かったよ。
近づいて指も拳もない腕で、上から殴ってみる。
はい、はい、はいっ!
――まるで効果がない。
駄目だったでしょ。こいつが抱えている病みと、僕のユルい生き様は勝負にならないよう。
『離れるである』
上に赤い薔薇の花が現れた。令嬢がこの中に入ってきたんだ。やるじゃない。
『森のクマさんも来たである』
続いてそのまんまぬいぐるみのクマもやって来た。サイズはぬいぐるみ並み、よりは大きいか。僕は少し離れる。見物させてもらおう。
薔薇の花が回転し花びらがたくさん散る。渦巻きながら、黒い塊に襲いかかった。敵は引きこもり触手で防戦する。
精神体の戦いなんて、いまいち迫力に欠けるよね。しかしなんだなあ。僕の攻撃は防御しなかったくせに、薔薇の方が強いのかね?
ユルクマの爪が外の時よりもさらに巨大になった。つまり精神はより凶悪なのかもしれない。腕を伸ばし攻撃するも黒い表面に弾かれてしまう。鉄壁の引きこもりはなかなか強固なのだ。
薔薇の花が全て散って竜巻のようになった。そこから悪役令嬢騎士の実態が現れる。しかしこちらもめっちゃ、サイズが小さい。小学生くらい位の子供だった。たぶん精神年齢がキッズなのだろう。
人のことは言えないか。僕もこんな姿なんだし……。
悪役令嬢騎士はちびっ子的に、エイエイと蹴り飛ばしたりしている。クマは何度も攻撃するが、爪は弾かれるだけだ。
『二人がかりで弱い者いじめをしようっていうのか? まったくお前らは優しいクラスメートだよ』
いや三人だよ。三人……。
一方的ないじめ認定かよ。しかしこれは引きこもりからの、脱出計画なんだよなあ。人の好意を理解してくれよ。
この姿は――、実物を見た事はないけれどさあ。ボスキャラが触手持ちのムカデとはねえ。
悪役令嬢騎士は果敢に攻撃する。しかし相手は融合体。体を切るがすぐに修復されてしまう。
ユルクマはそれを見守りながらも魔獣と戦っている。
どう倒せばいいんだよ……。
『方法はあるである。内部に入るである』
うえ。マジ?
『近しい転生者ならば、可能である』
内部からの攻撃――。やるしかないか。
『時間は稼げるである』
それだけ? そもそもどうやって中に入るの。具体的にどうすれば……。
『体を大きく切り裂くである』
そうかっ! 大聖女様がやっていた。
『そうすれば中から融合していた魔が出ようとする。その中に入り込むである』
でもその後どうするの?
『共通の記憶にすがるである』
? よく分からん。まあ、やってみるか。
ムカデの上では薔薇対触手の戦いが続いていた。僕は隙を突いて背中に乗り剣を突き立てる。
いけるぞ。剣が通る!
そのまま動かしてムカデの背中を大きく切り裂く。
ここに入るのか……。しゃーない。やるしかない。
血こそ出ないが、中は生物の内部そのものだ。入り込むと外皮が閉じた。
このまま取り込まれるってことは……。
『アバターは融合不可である』
それなら安心――。
と思った瞬間、周囲が真っ白い光に包まれた。
これが噂の白い部屋というやつか。女神と対面する冒頭の場所だな。違うか。破壊してやる。
僕は右手に魔法花火をつく出すが――。
えっ!? 消えた?
『魔力を取り込まれたである』
なんて失敗を。ヤツを強くしてしまった。どうすれば……。
『ならば、精神の核を破壊するであるな』
どうやって……。何もないようだけど……。
周囲はただ白いだけだ。広いのか、狭いのかも分からない。
『精神を集中するである』
言われたとおりにすると、何やら黒い玉が見えてきた。そこから細い触手がたくさん生えて動いている。魂が横に広がり何やら表面に小さな虫が湧き出してきた。相変わらず気味悪い。
これがあいつなのか。
『そうである』
まあ、キャラ的にこんな感じだと思ってたけどさ……。
僕の体は人の形をしているようだけど無色透明だ。足が細くて腕も細く、なんだかゆらゆらと揺れている感じ。こっちは強さも気味悪さも、威圧感なんてこれっぽっちもないキャラクターである。
弱そう。
『ヤツを倒すである』
肉弾戦で? 無理だよ。あいつは相当こじらせている。人間の一線をちょっと超えてしまったような奴なんだ
『精神では勝てないであるか』
僕の根性じゃ無理だって。こっちの格好はこれ以上なくユルいでしょ。見ればわかるでしょ?
『ヤツを倒さねば、街の人間は全て喰われるである。更に成長し、この世界全てを侵食するである』
勇者がいればなあ。
『仮面勇者がいるである』
それは人形の商品名で――。
『とにかくやるである』
分かったよ。
近づいて指も拳もない腕で、上から殴ってみる。
はい、はい、はいっ!
――まるで効果がない。
駄目だったでしょ。こいつが抱えている病みと、僕のユルい生き様は勝負にならないよう。
『離れるである』
上に赤い薔薇の花が現れた。令嬢がこの中に入ってきたんだ。やるじゃない。
『森のクマさんも来たである』
続いてそのまんまぬいぐるみのクマもやって来た。サイズはぬいぐるみ並み、よりは大きいか。僕は少し離れる。見物させてもらおう。
薔薇の花が回転し花びらがたくさん散る。渦巻きながら、黒い塊に襲いかかった。敵は引きこもり触手で防戦する。
精神体の戦いなんて、いまいち迫力に欠けるよね。しかしなんだなあ。僕の攻撃は防御しなかったくせに、薔薇の方が強いのかね?
ユルクマの爪が外の時よりもさらに巨大になった。つまり精神はより凶悪なのかもしれない。腕を伸ばし攻撃するも黒い表面に弾かれてしまう。鉄壁の引きこもりはなかなか強固なのだ。
薔薇の花が全て散って竜巻のようになった。そこから悪役令嬢騎士の実態が現れる。しかしこちらもめっちゃ、サイズが小さい。小学生くらい位の子供だった。たぶん精神年齢がキッズなのだろう。
人のことは言えないか。僕もこんな姿なんだし……。
悪役令嬢騎士はちびっ子的に、エイエイと蹴り飛ばしたりしている。クマは何度も攻撃するが、爪は弾かれるだけだ。
『二人がかりで弱い者いじめをしようっていうのか? まったくお前らは優しいクラスメートだよ』
いや三人だよ。三人……。
一方的ないじめ認定かよ。しかしこれは引きこもりからの、脱出計画なんだよなあ。人の好意を理解してくれよ。
0
お気に入りに追加
99
あなたにおすすめの小説
住所不定の引きこもりダンジョン配信者はのんびりと暮らしたい〜双子の人気アイドル配信者を助けたら、目立ちまくってしまった件〜
タジリユウ
ファンタジー
外の世界で仕事やお金や家すらも奪われた主人公。
自暴自棄になり、ダンジョンへ引きこもってひたすら攻略を進めていたある日、孤独に耐えられずにリスナーとコメントで会話ができるダンジョン配信というものを始めた。
数少ないリスナー達へ向けて配信をしながら、ダンジョンに引きこもって生活をしていたのだが、双子の人気アイドル配信者やリスナーを助けることによってだんだんと…
※掲示板回は少なめで、しばらくあとになります。
愛されなかった公爵令嬢のやり直し
ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。
母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。
婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。
そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。
どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。
死ぬ寸前のセシリアは思う。
「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。
目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。
セシリアは決意する。
「自分の幸せは自分でつかみ取る!」
幸せになるために奔走するセシリア。
だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。
小説家になろう様にも投稿しています。
タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。
異世界バーテンダー。冒険者が副業で、バーテンダーが本業ですので、お間違いなく。
Gai
ファンタジー
不慮の事故によって亡くなった酒樹 錬。享年二十二歳。
酒を呑めるようになった二十歳の頃からバーでアルバイトを始め、そのまま就職が決定していた。
しかし不慮の事故によって亡くなった錬は……不思議なことに、目が覚めると異世界と呼ばれる世界に転生していた。
誰が錬にもう一度人生を与えたのかは分からない。
だが、その誰かは錬の人生を知っていたのか、錬……改め、アストに特別な力を二つ与えた。
「いらっしゃいませ。こちらが当店のメニューになります」
その後成長したアストは朝から夕方までは冒険者として活動し、夜は屋台バーテンダーとして……巡り合うお客様たちに最高の一杯を届けるため、今日もカクテルを作る。
----------------------
この作品を読んで、カクテルに興味を持っていただけると、作者としては幸いです。
スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす
Gai
ファンタジー
人を助けた代わりにバイクに轢かれた男、工藤 英二
その魂は異世界へと送られ、第二の人生を送ることになった。
侯爵家の三男として生まれ、順風満帆な人生を過ごせる……とは限らない。
裕福な家庭に生まれたとしても、生きていいく中で面倒な壁とぶつかることはある。
そこで先天性スキル、糸を手に入れた。
だが、その糸はただの糸ではなく、英二が生きていく上で大いに役立つスキルとなる。
「おいおい、あんまり糸を嘗めるんじゃねぇぞ」
少々強気な性格を崩さず、英二は己が生きたい道を行く。
捨てられ従魔とゆる暮らし
KUZUME
ファンタジー
旧題:捨てられ従魔の保護施設!
冒険者として、運送業者として、日々の生活に職業として溶け込む従魔術師。
けれど、世間では様々な理由で飼育しきれなくなった従魔を身勝手に放置していく問題に悩まされていた。
そんな時、従魔術師達の間である噂が流れる。
クリノリン王国、南の田舎地方──の、ルルビ村の東の外れ。
一風変わった造りの家には、とある変わった従魔術師が酔狂にも捨てられた従魔を引き取って暮らしているという。
─魔物を飼うなら最後まで責任持て!
─正しい知識と計画性!
─うちは、便利屋じゃなぁぁぁい!
今日もルルビ村の東の外れの家では、とある従魔術師の叫びと多種多様な魔物達の鳴き声がぎゃあぎゃあと元気良く響き渡る。
旦那様はチョロい方でした
白野佑奈
恋愛
転生先はすでに何年も前にハーレムエンドしたゲームの中。
そしてモブの私に紹介されたのは、ヒロインに惚れまくりの攻略者の一人。
ええ…嫌なんですけど。
嫌々一緒になった二人だけど、意外と旦那様は話せばわかる方…というか、いつの間にか溺愛って色々チョロすぎません?
※完結しましたので、他サイトにも掲載しております
セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました
今卓&
ファンタジー
その日、魔法学園女子寮に新しい寮母さんが就任しました、彼女は二人の養女を連れており、学園講師と共に女子寮を訪れます、その日からかしましい新たな女子寮の日常が紡がれ始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる