上 下
35 / 64

34「猛獣警報ガール」

しおりを挟む
 また来客だ。げげっ! なんと相手は騎士装束の少女。あの、ハイキックガールである。
「ぶっ、ぶぶーっ」もっ、猛獣警報発令。
 二人は知り合い? この部屋に来るよなあ。面白そう!

 お母さんはテーブルでその猛獣女子客と向かい合った。
 僕の部屋が灼熱のサバンナ、サファリパークと化す。
「ご無沙汰しております。頭領ヘッド
「もう……、その呼び方はやめてよね」
「いいえフランカ様は私たちにとって、今も【赤い流星団】の頭領。ヘッドであります」
「二人の時は、様は止めてね~。現実に引き戻されるわ」
「はい。フランカ」
「それに、ずいぶん前に頭領ヘッドは引退よ。その後みんなは元気かしら?」
「もちろんです。頭領不在とはいえ結束は今も変わりません」
 何やら不穏な空気が漂う会話だな。棟梁ってどんな役職なんだ?
「みんなも卒業しろ、って言ったのに。わざわざ悪かったわね」
「いえ。本日は周辺の配置ですから。お手紙をもらって嬉しかったです」
「噂は聞いたわ。ワンパンのクリューガー・スミッツ」
 銀色のショートカットは素早さを想像させる。大きな目はミスマッチの可愛らしさを加えていた。しかし赤い瞳はリアルな熱き炎である。迂闊に手を出すと、我が身を焼かれかねない。
「もう、勘弁してください……」
「ハイキックもあったのにねえ」
 スミッツお姉さんはパンチとキックのどちらが得意ですか?
「婚約できなくなっちゃいますよ~」
「良い人がいたら教えてね。応援するから」
「まだちょっと早いですよ~」
 突っ込みの内容で、ずいぶんキャラが変わるね。それ、イイよ、イイよ。
「そうよねえ。大学院はどう?」
「総動員で休校です。このような危機は百年前以来で、王政も張り切ってますね」
「ランがねえ……」
「いえ、ランメルト様は動員の拡大を抑える側ですから。精鋭の集中投入で要所の痛打を狙っております」
 この女子は精鋭側だしなあ。なのにあんなバカ騎士と組まされて苦労だな。学生の動員かあ……。
「あの人は今でも勇者パーティー主義だしね」
 ふーん。作戦立案にも派閥があるんだ。勇者たちは特殊部隊みたいな位置付けなんだな。
「これなのですね」
「ブヒっ」ひいっ。
 ミスKOがギラリとこちらを睨む。
「かわいいお坊ちゃまですね。今までご挨拶にも来ないで、申し訳ありませんでした」
「まったく……上級貴族なんて身分とかなんとか、色々あって窮屈なものね」
 いや。僕ではなく、僕の横の暗黒騎士人形を見たのだ。一瞬バレたと思って焦ったよ。
「はい。そうですね……」
「ええ……」
 お母さんは立ち上がって、見上げる僕の傍から人形を取り上げた。
「これ、知ってる?」
「最近街で話題になっていますね。勇者仮面」
「人形の方は?」
「あまり人気はないようです。発売されたばかりですからねえ。やはり一番は、森のクマさんですかね」
 がくっ……。な、なぜだっ!
「今回の一件で。人気はうなぎ上りです」
「クマは人気なのかあ。アル君は壁に投げつけてばかりだし」
 ぎくっ。それは僕の個人的な好みっす。それにしても鰻、いるんだあ。早く食べたい。
「元々は森の奥に出没して、薬草採りの子供を助けていたそうです」
「それでぬいぐるみに?」
「はい。発売前から知る人ぞ知るアバター化身具現だったようですね」
 そうだったのか! 地下アイドルとして、下地を作っていたからこそのあの人気。すでに固定ファンがいるのも頷ける。やっぱ地道な営業活動だよな~。
「ぬいぐるみを意識した誰かのアバター化身具現が先で、それを参考にしたのが、クマ人形なのね」
「実体はたぶん子供でしょう」
「これを主人にくれた人がいるのよ。知ってる?」
 お母さんは勇者仮面を持ちつつ、さっきから質問ばかりする。内容が少しずつ核心に近づいていた。
「はい。手紙にあったので王政の先輩たちにそれとなく聞いてみました。結論から言えば問題はないでしょう――」
 お母さんはこの話を聞こうとワンパンKOを呼んだのだ。恐るべし母。
「――親戚がぬいぐるみの縫製工場を経営しております」
「そうなんだ」
 すまし顔で応える。しかーし、内心ホッとしているに違いない。疑いは晴れたっ!
「他意はありませんよ。宣伝にもなると思ったのでしょう。それをもらった同僚があと何人かおります。小さな子供がいる者ばかりですね」
「分かった。問題はなさそうね。こちらの力に抱きつこうって人が寄ってくるのよ。主人はそういうところ、本当に無頓着だから」
「気をつけるに越した事はありませんよ。王宮にはそんな人は大勢おります。私もランメルト様とは距離をとっております。騎士団は派閥がややっこしくて」
「あなたに気を使わせてしまって、すまないわ」
「いえ……」
 ふーん。なかなか貴族社会も大変ですね。
「それと勇者仮面の方も問題よね。ランも心配しているようだけど」
「怪しいですね。味方なのか敵なのか」
「ええ」
 いやいや、怪しくないですよ。ここにいます。清廉潔白な若者兼赤ん坊が。
「勇者仮面人形は店頭から回収を始めたようです。評判が悪すぎで」
「ばぶうっ!」はううっ!
「そうよねえ……」
「一方森のクマさん人形は売り切れて現在品薄が続いております」
「ぶっ、ひゃひーっ!」なっ、にゃにーっ!
「勇者仮面は無料配布もしたのに、残念ね」
 お母さんはきついな~(笑)。その女子職員も他意はなかったでしょうに。
 でもこれは僕の問題なんだよな。
「男子にはウケが良いと思うのですがねえ。やはり知名度ですか。後発の人形ですし」
 しかしなあ――。暗黒騎士人形は完全に悪役設定となってしまった。不人気っ!
 なんとかしないと。
 知名度か……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺だけ成長限界を突破して強くなる~『成長率鈍化』は外れスキルだと馬鹿にされてきたけど、実は成長限界を突破できるチートスキルでした~

つくも
ファンタジー
Fランク冒険者エルクは外れスキルと言われる固有スキル『成長率鈍化』を持っていた。 このスキルはレベルもスキルレベルも成長効率が鈍化してしまう、ただの外れスキルだと馬鹿にされてきた。 しかし、このスキルには可能性があったのだ。成長効率が悪い代わりに、上限とされてきたレベル『99』スキルレベル『50』の上限を超える事ができた。 地道に剣技のスキルを鍛え続けてきたエルクが、上限である『50』を突破した時。 今まで馬鹿にされてきたエルクの快進撃が始まるのであった。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い

八神 凪
ファンタジー
   旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い  【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】  高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。    満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。  彼女も居ないごく普通の男である。  そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。  繁華街へ繰り出す陸。  まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。  陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。  まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。  魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。  次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。  「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。  困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。    元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。  なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。  『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』  そう言い放つと城から追い出そうとする姫。    そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。  残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。  「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」  陸はしがないただのサラリーマン。  しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。  今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――

元勇者のデブ男が愛されハーレムを築くまで

あれい
ファンタジー
田代学はデブ男である。家族には冷たくされ、学校ではいじめを受けてきた。高校入学を前に一人暮らしをするが、高校に行くのが憂鬱だ。引っ越し初日、学は異世界に勇者召喚され、魔王と戦うことになる。そして7年後、学は無事、魔王討伐を成し遂げ、異世界から帰還することになる。だが、学を召喚した女神アイリスは元の世界ではなく、男女比が1:20のパラレルワールドへの帰還を勧めてきて……。

神様に転生させてもらった元社畜はチート能力で異世界に革命をおこす。賢者の石の無限魔力と召喚術の組み合わせって最強では!?

不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)
ファンタジー
●あらすじ ブラック企業に勤め過労死してしまった、斉藤タクマ。36歳。彼は神様によってチート能力をもらい異世界に転生をさせてもらう。 賢者の石による魔力無限と、万能な召喚獣を呼べる召喚術。この二つのチートを使いつつ、危機に瀕した猫人族達の村を発展させていく物語。だんだんと村は発展していき他の町とも交易をはじめゆくゆくは大きな大国に!? フェンリルにスライム、猫耳少女、エルフにグータラ娘などいろいろ登場人物に振り回されながらも異世界を楽しんでいきたいと思います。 タイトル変えました。 旧題、賢者の石による無限魔力+最強召喚術による、異世界のんびりスローライフ。~猫人族の村はいずれ大国へと成り上がる~ ※R15は保険です。異世界転生、内政モノです。 あまりシリアスにするつもりもありません。 またタンタンと進みますのでよろしくお願いします。 感想、お気に入りをいただけると執筆の励みになります。 よろしくお願いします。 想像以上に多くの方に読んでいただけており、戸惑っております。本当にありがとうございます。 ※カクヨムさんでも連載はじめました。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...