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19「一歳検診と出会い」
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一歳の検診は僕一人だけ別の日で行われるようだ。今日の教会には、僕ら家族以外には関係者の姿しかなかった。
がっかりだ。今度こそ、あの時僕を見ていた誰かを探そうと思ったのにな。
お爺ちゃん司教様を殺しかけたくらいだったから、僕はかなりの危険人物としてマークされてしまったのだろう。
そして、またまた棺桶部屋に連行される。
そこには暗黒執刀メンバーが勢揃い、とい
う感じである。なんとなく教会の権力闘争などを想像してしまった。前回失敗しちゃったし。
あっ、おじいちゃん司教さん。チィース。元気そうで何よりでーす。
ん? 隣に幼女がいるね。
「ばうばう?」誰ちゃん?
んー、おじいちゃんのイマイチの視線がその幼女を見ている。
「今回は、この者が魔力を行使いたしますので」
「そうですか……」
部屋は何とも言えない雰囲気に包まれた。ほっとした空気と意外な空気。前者はおじいちゃんがバタンと倒れない安心感。後者はこんな子供が? である。
でもバタンなしでとりあえず、ひとまず安心だよね。
お爺ちゃん、失敗しちゃうんで。
「マルティヌス・シャンタルと申しまする」
「このような年齢で、まだ将来聖女なのですが魔力量が豊富なのですよ。もし上手くいかなければ、私が手伝いますので」
却下! お爺ちゃん出る幕なし。
「まあ! 将来の聖女様で」
ん? お母さんの声色が変わる。聖女って尊敬される存在なんだ。
司教さんは、露骨に嫌な顔をする。世代交代の波が押し寄せていた。
赤ちゃんの僕だってもう魔力があるんだし。だから、もっとたくさん持ってる子供がいたって、おかしくないってことか。優秀な人材は子供でもおおいに取り立てなくちゃね。
なるほど。見習いとはいえ、聖女の名前が付いただけでエリート街道爆進予備軍、みたいな感じなんだね。
修道女さんたちが僕を取り囲み。久しぶりに棺桶に寝かされる。
幼女は台の上に乗って(背がまだ低い)両手を僕にかざした。一瞬で棺桶全体が光に包まれる。枯れた魔力のお爺ちゃんの時とは大違いだ。
若くてみずみずしい魔力が、溢れ出さんばかりに広がる。
この幼女聖女って、すごい力を持ってる? 僕なんかよりずっと上なのかね。
『私の方が上である。しかしながら、アルデルト君はもっと成長する。いずれ追い抜かれるかもしれぬ』
ええっ! この意識は? 僕の考えが読める?
『君の頭の中を探らせてもらうである』
この声は頭の中に響いているんだ。誕生日に語りかけてきた同級生のように。この人も、転生者なのか?
『それはないである。私はこの世界の人間。君はやはり転生者なのであるか?』
しまった! 僕の意識は筒抜けだ。考えるな、考えるな、考えるな。あっ、考えちゃった。
『ほう。最強の勇者となり、周囲からちやほやされたい。モテまくりたい。ハーレムも作りたい。ついでにお金もいっぱい欲しい。女子たちから尊敬されたい。何もかにも全て自分の思い通りになって当然! であるか……』
はずかし~。僕の黒野心が全てバレてしまった。
『なんという邪心であるか』
いや、妄想しているから楽しいんであって、マジで考えたら、ただのバカだとは思ってますよ。
『冗談である。馬鹿話だとは、こちらも理解しているである』
あらら……。けっこう真剣に目指している夢なんだけどなあ。
『やはりであるか』
いやいや。僕の世界では普通っす(嘘)。
『君の力は場合によっては危険である。それゆえ、監視させてもらうである』
それはちょっとないなあ。拒否します。個人のプライバシーかありますから。
『この世界のイレギュラーとして排除されたいのであるか?』
それは嫌だけど……。僕にも人権があるのですが。
『人でなくなったのなら、人権なる概念にも当てはまらないである。人間を超えた強い力は制御されなければならないのである』
それは僕にも分かるけど……。
強い人が喧嘩しちゃだめとか、武力を簡単に行使してはいけないとか、そんな感じなのかな?
『私とて同じである』
聖女の魔力も色々と大変なんですね。
『この体はスキルを発動させようとしている。だからそれを監視させてもらうのである』
断れないんだ。
『そうである。なお、この会話については聖教上層部にだけ報告する。それ以外の者が知ることはないである』
それは助かるよ。転生者って今一つみたいだから。お爺ちゃんはのけ者なんですね。いや、
のけ者ではないか。年齢的には上層部だし。
『家族の良き子として、この世界の人生をまっとうするである』
うん。それを出されちゃ……。
光が収まった。将来聖女は息をつく。
ふう……。本当にそうだよ。
衝撃的な一歳検診は終わった。魔力が作り出す現象は、本当にラノベ、マンガの世界だ。
「実はローデン聖教の使い魔で、時折見守りをしておりまする。聖女様たちは、魔力の暴走を心配しておられるようでする」
「聞いていないぞ」
「それは教会の仕事ではありませぬ。何かに備えるのは我々総本山の勤めでありまする」
幼女シャンタルとお爺ちゃん司教の関係はイマイチのようだ。同じ組織といっても、聖教総本山と中央教会の関係は微妙みたい。
「くっ」
お爺ちゃん司教は、お母さんに向き直った。
「これは失礼いたしました。いや、我ら教会はまったく知りませんでした。勝手な真似をいたしまして……」
「いいえ。近衛師団も使い魔を放っております。どうか気にしないでくださいな」
「はあ……」
お母さんは不快感を表すどころか肯定した。おじいちゃん司教は意外な表情をする。普通の上級貴族なら怒り出す場面みたいだ。
「今回の測定もインフィニティとなりまする」
「それは、何歳ほどの……」
「魔力の暴走はいけませぬ。だからじきに体から放出されまする」
答えにならない答えを聞いて、お母さんはあきらめた。分からないから無限なのだ。
とにかく、これでやっと開放される。
「その放出は、私の管理下といたしまする」
「はあ……」
はいはい……。それならば専門家に丸投げさせていただきます。
これで健康診断は終った。僕の正体を理解している人がいるのは、素直に良かったと思える。
でも、やっぱりイレギュラーなんだな。チート使いならそれは当然。好き勝手に使ったら、たぶん僕の人生は悲惨になるだろう。ラノベではないのだ。
がっかりだ。今度こそ、あの時僕を見ていた誰かを探そうと思ったのにな。
お爺ちゃん司教様を殺しかけたくらいだったから、僕はかなりの危険人物としてマークされてしまったのだろう。
そして、またまた棺桶部屋に連行される。
そこには暗黒執刀メンバーが勢揃い、とい
う感じである。なんとなく教会の権力闘争などを想像してしまった。前回失敗しちゃったし。
あっ、おじいちゃん司教さん。チィース。元気そうで何よりでーす。
ん? 隣に幼女がいるね。
「ばうばう?」誰ちゃん?
んー、おじいちゃんのイマイチの視線がその幼女を見ている。
「今回は、この者が魔力を行使いたしますので」
「そうですか……」
部屋は何とも言えない雰囲気に包まれた。ほっとした空気と意外な空気。前者はおじいちゃんがバタンと倒れない安心感。後者はこんな子供が? である。
でもバタンなしでとりあえず、ひとまず安心だよね。
お爺ちゃん、失敗しちゃうんで。
「マルティヌス・シャンタルと申しまする」
「このような年齢で、まだ将来聖女なのですが魔力量が豊富なのですよ。もし上手くいかなければ、私が手伝いますので」
却下! お爺ちゃん出る幕なし。
「まあ! 将来の聖女様で」
ん? お母さんの声色が変わる。聖女って尊敬される存在なんだ。
司教さんは、露骨に嫌な顔をする。世代交代の波が押し寄せていた。
赤ちゃんの僕だってもう魔力があるんだし。だから、もっとたくさん持ってる子供がいたって、おかしくないってことか。優秀な人材は子供でもおおいに取り立てなくちゃね。
なるほど。見習いとはいえ、聖女の名前が付いただけでエリート街道爆進予備軍、みたいな感じなんだね。
修道女さんたちが僕を取り囲み。久しぶりに棺桶に寝かされる。
幼女は台の上に乗って(背がまだ低い)両手を僕にかざした。一瞬で棺桶全体が光に包まれる。枯れた魔力のお爺ちゃんの時とは大違いだ。
若くてみずみずしい魔力が、溢れ出さんばかりに広がる。
この幼女聖女って、すごい力を持ってる? 僕なんかよりずっと上なのかね。
『私の方が上である。しかしながら、アルデルト君はもっと成長する。いずれ追い抜かれるかもしれぬ』
ええっ! この意識は? 僕の考えが読める?
『君の頭の中を探らせてもらうである』
この声は頭の中に響いているんだ。誕生日に語りかけてきた同級生のように。この人も、転生者なのか?
『それはないである。私はこの世界の人間。君はやはり転生者なのであるか?』
しまった! 僕の意識は筒抜けだ。考えるな、考えるな、考えるな。あっ、考えちゃった。
『ほう。最強の勇者となり、周囲からちやほやされたい。モテまくりたい。ハーレムも作りたい。ついでにお金もいっぱい欲しい。女子たちから尊敬されたい。何もかにも全て自分の思い通りになって当然! であるか……』
はずかし~。僕の黒野心が全てバレてしまった。
『なんという邪心であるか』
いや、妄想しているから楽しいんであって、マジで考えたら、ただのバカだとは思ってますよ。
『冗談である。馬鹿話だとは、こちらも理解しているである』
あらら……。けっこう真剣に目指している夢なんだけどなあ。
『やはりであるか』
いやいや。僕の世界では普通っす(嘘)。
『君の力は場合によっては危険である。それゆえ、監視させてもらうである』
それはちょっとないなあ。拒否します。個人のプライバシーかありますから。
『この世界のイレギュラーとして排除されたいのであるか?』
それは嫌だけど……。僕にも人権があるのですが。
『人でなくなったのなら、人権なる概念にも当てはまらないである。人間を超えた強い力は制御されなければならないのである』
それは僕にも分かるけど……。
強い人が喧嘩しちゃだめとか、武力を簡単に行使してはいけないとか、そんな感じなのかな?
『私とて同じである』
聖女の魔力も色々と大変なんですね。
『この体はスキルを発動させようとしている。だからそれを監視させてもらうのである』
断れないんだ。
『そうである。なお、この会話については聖教上層部にだけ報告する。それ以外の者が知ることはないである』
それは助かるよ。転生者って今一つみたいだから。お爺ちゃんはのけ者なんですね。いや、
のけ者ではないか。年齢的には上層部だし。
『家族の良き子として、この世界の人生をまっとうするである』
うん。それを出されちゃ……。
光が収まった。将来聖女は息をつく。
ふう……。本当にそうだよ。
衝撃的な一歳検診は終わった。魔力が作り出す現象は、本当にラノベ、マンガの世界だ。
「実はローデン聖教の使い魔で、時折見守りをしておりまする。聖女様たちは、魔力の暴走を心配しておられるようでする」
「聞いていないぞ」
「それは教会の仕事ではありませぬ。何かに備えるのは我々総本山の勤めでありまする」
幼女シャンタルとお爺ちゃん司教の関係はイマイチのようだ。同じ組織といっても、聖教総本山と中央教会の関係は微妙みたい。
「くっ」
お爺ちゃん司教は、お母さんに向き直った。
「これは失礼いたしました。いや、我ら教会はまったく知りませんでした。勝手な真似をいたしまして……」
「いいえ。近衛師団も使い魔を放っております。どうか気にしないでくださいな」
「はあ……」
お母さんは不快感を表すどころか肯定した。おじいちゃん司教は意外な表情をする。普通の上級貴族なら怒り出す場面みたいだ。
「今回の測定もインフィニティとなりまする」
「それは、何歳ほどの……」
「魔力の暴走はいけませぬ。だからじきに体から放出されまする」
答えにならない答えを聞いて、お母さんはあきらめた。分からないから無限なのだ。
とにかく、これでやっと開放される。
「その放出は、私の管理下といたしまする」
「はあ……」
はいはい……。それならば専門家に丸投げさせていただきます。
これで健康診断は終った。僕の正体を理解している人がいるのは、素直に良かったと思える。
でも、やっぱりイレギュラーなんだな。チート使いならそれは当然。好き勝手に使ったら、たぶん僕の人生は悲惨になるだろう。ラノベではないのだ。
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