14 / 64
13「僕の積み木崩し」
しおりを挟む
僕は【お座り】のスキルを手に入れた。これによりベビーベッドを脱出して、絨毯の上が僕の活動領域へと変貌する。
お気に入りは積み木おもちゃでの遊びだ。
「ぶーぶー」よーしっ。
まずは高い塔を積む。その手前には巨大な城壁を築く。
壁の中に籠もり、安寧を貪るだけの家畜たちよ。今この私が目を覚まさせてやる。現実を見ろ。
「だーっ!」ライトニングソード!
と積み木崩しを楽しむ。
僕の平手攻撃で無敵の壁が粉砕され、その衝撃は塔までも粉々に破壊した。
この力は僕の手に余る。使い方を誤ってはいけないな。ふふふ……。
難攻不落の要塞も我が手にかかればこんなものだ。話にならんわっ! しかし。
――虚しい。城と城壁を作るのに三十分。破壊するのに三秒。
戦いとは、かくも虚しいものなのか――。
飽きた。
今の僕は赤ん坊脳みその肉体に、厨二の思考が同居する奇妙な状態だ。行動の全てが十三歳ではなく、赤ん坊が入り混じっている。
さて……。絵本を開く。
それはお父さん好みの、勇者パーティーが魔物を討伐する話。
ストレス展開はなく、勇者は簡単に敵を倒す。スカットとするね。文字は読めないのだけれど、何となく分かる。
さて次は――、よしっ!
僕は勇者人形を鷲掴みにする。片手に剣を持ち金髪で鎧を着ている、これが勇者のステレオタイプ人形なんだな。
敵役は、ないか……。
しょうがないのでクマのぬいぐるみとする。ユルキャラふうの可愛らしいクマなので、かなり迫力には欠けるが、まあいいか。
凶悪な敵とイメージしてそれを左手に持ち戦わせる。
「だー!」ふんっ!
ユルクマを壁に投げつけた。討伐完了だ。
「ばーばーぶー」やれやれだね。
楽勝速攻で敵を倒すのが最近の流行なのですよ。僕は苦戦いたしませんから。
さて。ここからがクライマックス。僕のオリジナルストーリーが炸裂する。
金髪のドレスを着たお姫様ふうの人形を床に寝かせた。そしてその上に勇者人形を立たせる。ざまあ完了だぜ。
悪いことをする悪役令嬢を踏み付けにしてこそ真の勇者と呼ばれる。
懲らしめねばなりませんな。ニヤリ。
おっと。来客だ。
僕が寝ているあいだにも来ているんだよな。
「ほんと久しぶりね。元気だった」
「はい。おかげさまで元気にやっていますよ。さて、挨拶させていただきますか」
その若者は僕を高々と抱き上げた。高い高いと呼ばれる、相手を敬う最高位の挨拶である。
「バブー」誰?
「はじめまして。僕はメイネルス・フェリクスだ。君の叔父さんだね。どうぞよろしく。ランメルト君」
「ぶっ、ぶぶー」おっ、よろしくな。
「そのままベッドに寝かせてくれる? ずいぶん遊んだみたいだから」
「はい」
なるほど……。この人はお母さんの弟か。
そのまま僕はベビーベット移動された。
「さすがに兄上とお姉様の教育だ。もうすっかり気分は騎士ですね」
叔父さんは、おもちゃ戦闘の惨状を見ながら苦笑いする。そして天井を見上げた。こちらに感想はなしだ。
「高等学院を卒業してから、ボランティアで国境沿いを回るなんて大したものね」
「いいえ。厳密に言えばバイト代も出るんですよ。だから無償ではないんですね」
「帰って来たのはいつ?」
「昨夜、直接王城に到着しました」
「贅沢な旅ね。大学院はいつから?」
「最後に少しだけ優遇してくれたんですよ。学院は来週からです」
二人はテーブル席で向かい合いながら話をする。メイドさんがお茶を運んできた。
お母さんの弟。貴族のボンクラ子弟、という感じのお馬鹿さん? じゃなくて良いやつ? さて、叔父さんはどんな人?
二人の話を要約すると、この叔父さんは政府の部隊に同行して、しばらく国境沿いに行っていたらしい。
そしてこれから大学院に入学する。
「あちらはどうだったの?」
「緊張感もあるけど平和でした。ただ、何かの前の静けさ、とも言えますかねえ……」
「なんだか悪い話みたいね」
「国境沿いですから」
「ふうん……」
「それでお姉さまに相談なんですけどねえ……」
「何よ。改まって」
「ちょっとお金を貸していただけませんか」
「あらあら……」
「実は仲間たちと意気投合して、商売を始めようと思いましてね。冒険者ギルドにも登録しました」
「呆れた。フェリクス、いったい何をやるの?」
「さあ、今は何とも言えません。冒険者業務全般、とでもいいますか」
「まあ、いいわ。要はクエストね」
「ありがとうございます。必ず返しますので」
「どうかしらね」
つまりきっちりお金を返せば良い叔父さん。返せせないなら、ダメ叔父さんと認定してやろう。お手並み拝見だね。
実家は地方の貧乏農場貴族(たぶん)。学生も仕事して、稼がなくちゃならないんだな。
お母さんの表情は悪くない。好意的に考えているようだね。
お気に入りは積み木おもちゃでの遊びだ。
「ぶーぶー」よーしっ。
まずは高い塔を積む。その手前には巨大な城壁を築く。
壁の中に籠もり、安寧を貪るだけの家畜たちよ。今この私が目を覚まさせてやる。現実を見ろ。
「だーっ!」ライトニングソード!
と積み木崩しを楽しむ。
僕の平手攻撃で無敵の壁が粉砕され、その衝撃は塔までも粉々に破壊した。
この力は僕の手に余る。使い方を誤ってはいけないな。ふふふ……。
難攻不落の要塞も我が手にかかればこんなものだ。話にならんわっ! しかし。
――虚しい。城と城壁を作るのに三十分。破壊するのに三秒。
戦いとは、かくも虚しいものなのか――。
飽きた。
今の僕は赤ん坊脳みその肉体に、厨二の思考が同居する奇妙な状態だ。行動の全てが十三歳ではなく、赤ん坊が入り混じっている。
さて……。絵本を開く。
それはお父さん好みの、勇者パーティーが魔物を討伐する話。
ストレス展開はなく、勇者は簡単に敵を倒す。スカットとするね。文字は読めないのだけれど、何となく分かる。
さて次は――、よしっ!
僕は勇者人形を鷲掴みにする。片手に剣を持ち金髪で鎧を着ている、これが勇者のステレオタイプ人形なんだな。
敵役は、ないか……。
しょうがないのでクマのぬいぐるみとする。ユルキャラふうの可愛らしいクマなので、かなり迫力には欠けるが、まあいいか。
凶悪な敵とイメージしてそれを左手に持ち戦わせる。
「だー!」ふんっ!
ユルクマを壁に投げつけた。討伐完了だ。
「ばーばーぶー」やれやれだね。
楽勝速攻で敵を倒すのが最近の流行なのですよ。僕は苦戦いたしませんから。
さて。ここからがクライマックス。僕のオリジナルストーリーが炸裂する。
金髪のドレスを着たお姫様ふうの人形を床に寝かせた。そしてその上に勇者人形を立たせる。ざまあ完了だぜ。
悪いことをする悪役令嬢を踏み付けにしてこそ真の勇者と呼ばれる。
懲らしめねばなりませんな。ニヤリ。
おっと。来客だ。
僕が寝ているあいだにも来ているんだよな。
「ほんと久しぶりね。元気だった」
「はい。おかげさまで元気にやっていますよ。さて、挨拶させていただきますか」
その若者は僕を高々と抱き上げた。高い高いと呼ばれる、相手を敬う最高位の挨拶である。
「バブー」誰?
「はじめまして。僕はメイネルス・フェリクスだ。君の叔父さんだね。どうぞよろしく。ランメルト君」
「ぶっ、ぶぶー」おっ、よろしくな。
「そのままベッドに寝かせてくれる? ずいぶん遊んだみたいだから」
「はい」
なるほど……。この人はお母さんの弟か。
そのまま僕はベビーベット移動された。
「さすがに兄上とお姉様の教育だ。もうすっかり気分は騎士ですね」
叔父さんは、おもちゃ戦闘の惨状を見ながら苦笑いする。そして天井を見上げた。こちらに感想はなしだ。
「高等学院を卒業してから、ボランティアで国境沿いを回るなんて大したものね」
「いいえ。厳密に言えばバイト代も出るんですよ。だから無償ではないんですね」
「帰って来たのはいつ?」
「昨夜、直接王城に到着しました」
「贅沢な旅ね。大学院はいつから?」
「最後に少しだけ優遇してくれたんですよ。学院は来週からです」
二人はテーブル席で向かい合いながら話をする。メイドさんがお茶を運んできた。
お母さんの弟。貴族のボンクラ子弟、という感じのお馬鹿さん? じゃなくて良いやつ? さて、叔父さんはどんな人?
二人の話を要約すると、この叔父さんは政府の部隊に同行して、しばらく国境沿いに行っていたらしい。
そしてこれから大学院に入学する。
「あちらはどうだったの?」
「緊張感もあるけど平和でした。ただ、何かの前の静けさ、とも言えますかねえ……」
「なんだか悪い話みたいね」
「国境沿いですから」
「ふうん……」
「それでお姉さまに相談なんですけどねえ……」
「何よ。改まって」
「ちょっとお金を貸していただけませんか」
「あらあら……」
「実は仲間たちと意気投合して、商売を始めようと思いましてね。冒険者ギルドにも登録しました」
「呆れた。フェリクス、いったい何をやるの?」
「さあ、今は何とも言えません。冒険者業務全般、とでもいいますか」
「まあ、いいわ。要はクエストね」
「ありがとうございます。必ず返しますので」
「どうかしらね」
つまりきっちりお金を返せば良い叔父さん。返せせないなら、ダメ叔父さんと認定してやろう。お手並み拝見だね。
実家は地方の貧乏農場貴族(たぶん)。学生も仕事して、稼がなくちゃならないんだな。
お母さんの表情は悪くない。好意的に考えているようだね。
1
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説
異世界営生物語
田島久護
ファンタジー
相良仁は高卒でおもちゃ会社に就職し営業部一筋一五年。
ある日出勤すべく向かっていた途中で事故に遭う。
目覚めた先の森から始まる異世界生活。
戸惑いながらも仁は異世界で生き延びる為に営生していきます。
出会う人々と絆を紡いでいく幸せへの物語。
異世界ロマンはスカイダイビングから!
KeyBow
ファンタジー
21歳大学生の主人が半年前の交通事故で首から下が動かない絶望的な生活が、突然の異世界転位で一変!転位で得た特殊なドールの能力を生かして異世界で生き残り、自らの体を治す道を探りつつ異世界を楽しく生きていこうと努力していく物語。動かない筈の肉体を動かす手段がある事に感動するも性的に不能となっていた。生きる為の生活の糧として選んだ冒険者として一歩を踏み出して行くのである。周りの女性に助けられるも望まぬ形の禁欲生活が始まる。意識を取り戻すと異世界の上空かららっかしていたのであった・・・
世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する
平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。
しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。
だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。
そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
無名のレベル1高校生、覚醒して最強無双
絢乃
ファンタジー
無類の強さを誇る高校二年生・ヤスヒコ。
彼の日課は、毎週水曜日にレベル1のダンジョンを攻略すること。
そこで手に入れた魔石を売ることで生活費を立てていた。
ある日、彼の学校にTVの企画でアイドルのレイナが来る。
そこでレイナに一目惚れしたヤスヒコは、なんと生放送中に告白。
だが、レイナは最強の男にしか興味がないと言って断る。
彼女の言う最強とは、誰よりもレベルが高いことを意味していた。
レイナと付き合いたいヤスヒコはレベル上げを開始。
多くの女子と仲良くなりながら、着実にレベルを上げていく。
「専門職に劣るからいらない」とパーティから追放された万能勇者、教育係として新人と組んだらヤベェ奴らだった。俺を追放した連中は自滅してるもよう
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「近接は戦士に劣って、魔法は魔法使いに劣って、回復は回復術師に劣る勇者とか、居ても邪魔なだけだ」
パーティを組んでBランク冒険者になったアンリ。
彼は世界でも稀有なる才能である、全てのスキルを使う事が出来るユニークスキル「オールラウンダー」の持ち主である。
彼は「オールラウンダー」を持つ者だけがなれる、全てのスキルに適性を持つ「勇者」職についていた。
あらゆるスキルを使いこなしていた彼だが、専門職に劣っているという理由でパーティを追放されてしまう。
元パーティメンバーから装備を奪われ、「アイツはパーティの金を盗んだ」と悪評を流された事により、誰も彼を受け入れてくれなかった。
孤児であるアンリは帰る場所などなく、途方にくれているとギルド職員から新人の教官になる提案をされる。
「誰も組んでくれないなら、新人を育て上げてパーティを組んだ方が良いかもな」
アンリには夢があった。かつて災害で家族を失い、自らも死ぬ寸前の所を助けてくれた冒険者に礼を言うという夢。
しかし助けてくれた冒険者が居る場所は、Sランク冒険者しか踏み入ることが許されない危険な土地。夢を叶えるためにはSランクになる必要があった。
誰もパーティを組んでくれないのなら、多少遠回りになるが、育て上げた新人とパーティを組みSランクを目指そう。
そう思い提案を受け、新人とパーティを組み心機一転を図るアンリ。だが彼の元に来た新人は。
モンスターに追いかけ回されて泣き出すタンク。
拳に攻撃魔法を乗せて戦う殴りマジシャン。
ケガに対して、気合いで治せと無茶振りをする体育会系ヒーラー。
どいつもこいつも一癖も二癖もある問題児に頭を抱えるアンリだが、彼は持ち前の万能っぷりで次々と問題を解決し、仲間たちとSランクを目指してランクを上げていった。
彼が新人教育に頭を抱える一方で、彼を追放したパーティは段々とパーティ崩壊の道を辿ることになる。彼らは気付いていなかった、アンリが近接、遠距離、補助、“それ以外”の全てを1人でこなしてくれていた事に。
※ 人間、エルフ、獣人等の複数ヒロインのハーレム物です。
※ 小説家になろうさんでも投稿しております。面白いと感じたらそちらもブクマや評価をしていただけると励みになります。
※ イラストはどろねみ先生に描いて頂きました。
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。
途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。
さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。
魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。
一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる