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01「標的との儀式」
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一生に一度の出会いが二度目となり、三度四度と続きそれが永遠であると錯覚していた。
少年はただ会えるが嬉しくて楽しくて、それがいつまでも続かないと理解した時には終わってしまっていた。
だけれど成長した少年は,自らの力でその時を動かし始めていた。
「子供の頃のあなたって,私ばかりを見ていたわ」
「そうでもないさ……」
道端で偶然にもハンカチを拾ってくれた令嬢。十五年ぶりの再会であった。
「あんなのふうにまた会えるなんて、神様って本当にいるのね」
「神なんていないよ。ただ二人が引き合ったのさ」
道端で運悪くぶつかってしまった時、互いに顔を見合わせて幸運を喜んだ。
「あの時は震えて涙がこぼれそうになったわ」
「君の姿を見つけて隣に座ったんだ。いつ気が付いてくれるかって怖かったよ」
学院に入学したばかりの講義での出来事だ。
いく人もの令嬢が話しかけてくる。それは全て同じ令嬢だった。
その部屋には美しい花が随所に飾られている。しかしその名花たちも、愛しい対象人物の添え物程度にしかならない。
ここはフィオレンツ・シルヴェリオの寝室兼アトリエであった。
「君は花よりも美しい」
「嬉しい……」
シルヴェリオは微笑して絵筆を走らせる。
「見事なうなじだよ」
そして病的なフェチを炸裂させた。
「恥ずかしいわあ」
しかし目の前には誰もいない。会話の相手は部屋に飾られている絵画たちだった。
複数のヒロイン。本人も忘れているであろう、些細な出来事のひとつひとつを切り出した人格だ。
「嫌っ……、そんな言い方は良くないわ。私を見て」
全てが同一人物であり、その一枚が再び語りかけた。
少し拗ねるように、そしていたずらっぽく笑いながら大きな瞳でシルヴェリオを見つめる。
「愛しているよ。いつもそばにいて欲しい」
「わがままね。でもそんなところが好きなのよ。子供みたいだわ」
その表情に嘘偽りはない。全て自分のためにだけに向けられている笑顔だと思った。
「いや、私がいつもそばにいる」
「嬉しいっ!」
少女から大人の女性へと変幻する過程とも見える絵画の数々は、本人の手による作品であった。
「君は僕のものさ。我がヒロイン……」
絵の中から語りかける女性に、シルヴェリオは筆を止め一人答えた。至福の時。この会話が大切な日課である。
本人を目の前にしても同じようになるに違いないと、シルヴェリオはほくそ笑んだ。瞼の裏に焼き付けたフランチェスカのすべてを、その鼻筋、唇。胸の膨らみから、まつ毛一本に至るまで全てを手に入れようと。
狙いを定めた獲物との会話を楽しみながらその姿を描くのは、紛れもない対話だ。
その絵画たちは壁一面に飾られていた。全てシルヴェリオの作り上げた大切なコレクションである。
幼少の頃、二人は家族同士の交流などもありよく一緒に遊んだものだ。
しかし成長するにつれてお互い疎遠となり現在に至る。
しかしこれからは違う。このような会話が実際に交わされると思い、シルヴェリオは口元を歪めた。
扉がノックされ、それは消える。
「入れ」
現れたのは壮年の執事ヴァレンテとメイドのイデアであった。
「届きました。お坊ちゃま」
執事が書状を差し出す。
「おおっ! 待ちかねたぞ!」
涼やかな碧眼。さらりと流れるプラチナのブロンド。上品な笑みを浮かべ、立ち上がるその姿は紛れもない貴公子。
眉目秀麗の極地がフィオレンツァ・シルヴェリオであった。
少年はただ会えるが嬉しくて楽しくて、それがいつまでも続かないと理解した時には終わってしまっていた。
だけれど成長した少年は,自らの力でその時を動かし始めていた。
「子供の頃のあなたって,私ばかりを見ていたわ」
「そうでもないさ……」
道端で偶然にもハンカチを拾ってくれた令嬢。十五年ぶりの再会であった。
「あんなのふうにまた会えるなんて、神様って本当にいるのね」
「神なんていないよ。ただ二人が引き合ったのさ」
道端で運悪くぶつかってしまった時、互いに顔を見合わせて幸運を喜んだ。
「あの時は震えて涙がこぼれそうになったわ」
「君の姿を見つけて隣に座ったんだ。いつ気が付いてくれるかって怖かったよ」
学院に入学したばかりの講義での出来事だ。
いく人もの令嬢が話しかけてくる。それは全て同じ令嬢だった。
その部屋には美しい花が随所に飾られている。しかしその名花たちも、愛しい対象人物の添え物程度にしかならない。
ここはフィオレンツ・シルヴェリオの寝室兼アトリエであった。
「君は花よりも美しい」
「嬉しい……」
シルヴェリオは微笑して絵筆を走らせる。
「見事なうなじだよ」
そして病的なフェチを炸裂させた。
「恥ずかしいわあ」
しかし目の前には誰もいない。会話の相手は部屋に飾られている絵画たちだった。
複数のヒロイン。本人も忘れているであろう、些細な出来事のひとつひとつを切り出した人格だ。
「嫌っ……、そんな言い方は良くないわ。私を見て」
全てが同一人物であり、その一枚が再び語りかけた。
少し拗ねるように、そしていたずらっぽく笑いながら大きな瞳でシルヴェリオを見つめる。
「愛しているよ。いつもそばにいて欲しい」
「わがままね。でもそんなところが好きなのよ。子供みたいだわ」
その表情に嘘偽りはない。全て自分のためにだけに向けられている笑顔だと思った。
「いや、私がいつもそばにいる」
「嬉しいっ!」
少女から大人の女性へと変幻する過程とも見える絵画の数々は、本人の手による作品であった。
「君は僕のものさ。我がヒロイン……」
絵の中から語りかける女性に、シルヴェリオは筆を止め一人答えた。至福の時。この会話が大切な日課である。
本人を目の前にしても同じようになるに違いないと、シルヴェリオはほくそ笑んだ。瞼の裏に焼き付けたフランチェスカのすべてを、その鼻筋、唇。胸の膨らみから、まつ毛一本に至るまで全てを手に入れようと。
狙いを定めた獲物との会話を楽しみながらその姿を描くのは、紛れもない対話だ。
その絵画たちは壁一面に飾られていた。全てシルヴェリオの作り上げた大切なコレクションである。
幼少の頃、二人は家族同士の交流などもありよく一緒に遊んだものだ。
しかし成長するにつれてお互い疎遠となり現在に至る。
しかしこれからは違う。このような会話が実際に交わされると思い、シルヴェリオは口元を歪めた。
扉がノックされ、それは消える。
「入れ」
現れたのは壮年の執事ヴァレンテとメイドのイデアであった。
「届きました。お坊ちゃま」
執事が書状を差し出す。
「おおっ! 待ちかねたぞ!」
涼やかな碧眼。さらりと流れるプラチナのブロンド。上品な笑みを浮かべ、立ち上がるその姿は紛れもない貴公子。
眉目秀麗の極地がフィオレンツァ・シルヴェリオであった。
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