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戦闘開始

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 ガラン子爵の屋敷に門番はいなかった。ロベールは門を飛び越えて屋敷の方へ歩いていく。

 しばらく進むと、庭を循環していた衛兵がロベールに銃を突き付けて「何者だ?」と叫んだ。衛兵の一人は屋敷の方へ走っていく。きっと、応援を呼びに行ったのだ。

「ヘイズ王立警察です。詐欺容疑でガラン子爵に逮捕状が出ています。屋敷の周辺は警察が固めているので、大人しく出てきてください」
 ロベールはよく通る声で衛兵に要件を伝えた。

 衛兵は返事をしない。屋敷の中から次々と衛兵が出てきた。20人はいるだろうか? 
 子爵家にこれだけの数の衛兵がいるのは珍しい。まるでマフィアのアジトのような警備体制だ。ガラン子爵が詐欺集団の中心人物と考えて間違いなさそうだ。

 衛兵の責任者らしい者がロベールに向かって言った。
「ガラン子爵は留守だ。ここにはいない!」

「いえ、逮捕状が出ていますから……」とロベールは言うものの、衛兵たちはロベールに罵声を浴びせる。

「警察なんて呼んでねーよ!」
「そうだ、帰れ!」
「ばーーか!」

「バカとかそういう話ではなくて……」
 ロベールは衛兵たちを説得しようとするものの、相手にされていない。

 庭で騒ぎが起きているのが屋敷の中に聞こえたのだろう。パオラが玄関に現れた。私が大嫌いなガラン子爵婦人だ。
 パオラは「何の騒ぎなの?」と衛兵に尋ねた。

 衛兵はパオラに状況を伝える。パオラはロベールを確認するとニヤッと笑った。

「あら、誰かと思ったらロベールじゃないの。モニカ(ロベールの母)にお金を借りてこいと言われたのかしら?」
「まさか。今日はヘイズ王立警察としてきました。ガラン子爵に逮捕状が出ています。大人しくして下さい」
「貧乏人のくせに厚かましい。貧乏男爵は私の前に跪いて、ヘコヘコしていればいいのよ!」

 パオラはロベールをバカにしている。一方、ロベールはパオラの発言を気にせずに説得を続けようとする。

「落ち着いてください」
「あなたのような貧乏男爵がこの屋敷に踏み入れるなんて……汚らわしい。早く出ていきなさい!」

 パオラの発言に呆れるロベール。
 ロベールはヘイズ王立警察として来ているのだ。だから、子爵も男爵も関係ない。

「いまはそういう話ではなく……詐欺の罪で逮捕にきたのです」
「うるさい!」

 遠目に見ている私にはパオラが何に怒っているのかは分からない。でも、パオラがロベールに罵声を浴びせるのを聞いている私はいい気分ではない。

 ――あー、イライラする……

 怒りのパオラは衛兵に命令した。
「何をしているの? 貧乏人をさっさと外に連れ出しなさい!」

 パオラに命令された数名の衛兵がロベールを取り囲んだ。

「公務執行妨害になりますけど、いいですか?」とロベールは遠慮がちに衛兵に尋ねる。

 そんなロベールを無視して、衛兵はロベールを狙って発砲した。
 ロベールは不意打ちをくらったものの、難なく弾丸を風魔法で吹き飛ばした。

 戦闘が始まった。

 ***

 衛兵たちはロベールに向かって発砲を続ける。一方、ロベールは風魔法で弾丸を跳ね返しながら冷静に衛兵を一人ずつ無効化していく。
 戦闘が始まってすぐにロベールは衛兵の5人を無効化した。衛兵は残り15人。

 ロベールが一人で対応するといったから、私は後方で待機している。でも、弾丸がロベールに当たらないか心配でしかたがない。
 直ぐにでも加勢したいけど、さっきロベールに「任せる」と約束したばかりだ。だから、ロベールに任せるべきだ。
 それは分かっている。分かっているのだけど……

 ――ロベール、右から敵が!

 ロベールは右からの銃弾をうまくかわした。
 それにしても、ロベールが心配で心臓に良くない。

「ねえ、マリオ。何かいい後方支援ないかな?」
「そうだなー。僕がロベールに張り付いて結界魔法で防御するのはどう?」
「それ、いいかも。お願いしていい?」
「デジちゃんの頼みならしかたない。では、行ってくるよー」

 そういうとマリオは銃弾が飛び交う中、ロベールの方へ駆けていった。
 マリオの方にも流れ弾が飛んでくるのだが、マリオは結界魔法で「カンっ」という音とともに跳ね返している。

「えぇ? 猫が銃弾を跳ね返してるぞ!」
「珍しい猫だ。高く売れるんじゃないか?」
「奥様に渡したら褒美がもらえるんじゃ?」

 黒猫に興味を持った5人の衛兵がマリオに走って行く。
 珍しい猫だから捕まえればお金になると衛兵は思っている……卑しい奴らだ。

「こっちこないでよー! 丸焦げにするよー!」マリオは衛兵に警告する。

 しかし、「猫が喋ったぞ!」、「喋る猫は高く売れそうだなー」と衛兵たちの興味は増していく。
 衛兵に囲まれロベールから離れていく黒猫。ロベールを守ることができない。

 ――ダメじゃん……

 黒猫作戦は失敗だ。ロベールが心配な私は黒猫に戻ってくるように思念を送る。
 使い魔と主は、こういうやり取りができるのだ。

 こちらに向けて全力で駆けてくるマリオの後に衛兵5人が続く。
 私はマリオに当たらないように風魔法を放った。

 (風撃ウィンドショット

 火魔法を使わなかったのは、私がまだ冷静な証拠。

 私の放った風魔法をまともに受けた衛兵5人は吹っ飛んで動かなくなった。

 多分……死んでいない、気絶しただけだ。大丈夫だよね?
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