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修羅場ですねー

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 翌日の放課後のヘイズ王立魔法学園。

 もう忘れている人もいると思うので、念のために説明しておこう。
 私はヘイズ王国の貴族子女のために設立されたヘイズ王立魔法学園の2年生。生徒会長でもある。

 私は詐欺集団のアジト調査の件をロベールに伝えることにした。

 私がロベールに会いに行くと、教室にはロベールと女子生徒が話しているのが見えた。
 何の話をしているかは分からないが、距離が近いのが気になる。

 ――ちょっ、何しているのよ……

 教室に入るに入れない私。息をひそめてロベールと女子生徒を外から観察する。

 そんなところに「何をしているのですか?」とミシェルがやってきた。
 教室の中のロベールと女子生徒を見つけたミシェルは「修羅場ですねー」とニヤニヤしている。

 私たちが教室のロベールと女子生徒を見ていたら「うぅぅぅ……」と声が聞こえてきた。
 女子生徒が泣いているのだ。遠目からでも女子生徒の頬を涙が伝ったのが見えた。

「お嬢様、どういう展開だと思います?」ミシェルは嬉しそうに言う。

 ――うるさいな……

 もしも、ロベールとあの女子生徒に何かがあったら……と気が気じゃない私。
 でも、私は公爵令嬢。焦り、不安を侍女に見せられない。

「そうね、あの女子生徒がロベールに告白してふられた?」
「可能性はありますね。でも、私の見解は違いますねー」
「違うの?」

 ミシェルは楽しそうだ。私はそんなミシェルにイライラしている。

「既にあの二人はそういう仲なのです」
「そういう仲?」
「ええ、そういう仲です。ロベール様に弄ばれ、捨てられて……怒りの矛先はお嬢様に……」
「そんなわけないでしょ!」
「しっ、声が大きいです」
「あなたが余計なこと言うからでしょ」

 聞き耳を立てているとロベールの声がかすかに聞こえてくる。

「元気を出して……君は悪くないよ」
「でも……でも」
「大丈夫だよ」

 女子生徒は肩を震わせている。ロベールは女子生徒の肩に触れた。

 ――あの女を触った……あの女、誰?

 私から発せられた怒りの炎が教室のドアを焼き尽くした。

 隠れるものがなくなった私は、イライラしながらロベールの方へ歩いていく。
 歩く度、私の近くの机やイスが燃えていく。

「ロベール?」

 私が炎に包まれながら近づいてくることに、当然気付いている教室の中のロベールと女子生徒。ロベールは恐る恐る私に話しかける。

「やぁ、デイジー。炎が見えるけど、どうしたの?」

 100点満点で0点の質問だ。私が何に怒っているのか分かっていないのか?

「はぁ? 『どうしたの?』って何?」
「何か怒っているのかな?」
「その女、誰?」

「その女? ああ、こちらはクラスメイトのアンだよ。アン、こちらはマーガレット」

 ロベールは私に女子生徒を紹介した。そして、ご丁寧に私のことも女に紹介した。私のことを知らない生徒なんて、この学園にはいないのに。

「だーかーらー、そんなことを聞いているんじゃないの! その女とここで何していたのよ?」
「アンの相談を聞いてたんだ」
「ふーん、相談ねー」

 ロベールは説明を続ける。

「アンが文通しているジョンという男性がいるんだ。ジョンはマンデル共和国の兵士で戦場に行かないといけないらしい。アンはジョンを助けてあげたいと思っているんだけど……」

 気付いたらミシェルが私の腕をグイグイ押していた。さすがの私も気付いた。

 ――ここにも国際ロマンス詐欺が……

 こんな身近なところまで詐欺集団は侵食してきているんだ。

「へー。ジョンを逃がしてくれるエージェントにお金を払わないといけないのよね」
「なんで知ってるの?」

 ロベールは驚いている。

「だって、それ詐欺だもん……」
「詐欺……なの?」
「そうよ」

 私は念のためにアンに確認することにした。

「手紙に写真が入ってたでしょ?」
「はい」
「その写真、見せてくれるかしら?」
「……」
「燃やしたりしないから!」

 アンは私に写真を渡した。やはりフィリップの写真だ。

 私はロベールに写真を見せながら尋ねる。

「これ、誰だか分かる?」
「ジョンでしょ」
「だから詐欺だって。ジョンなんていない。ロベールも知ってる人よ」
「えぇっ? 僕がこの人を知ってるの?」
「そうよ。何度も会ったことあるわよ」

 ロベールは考えている。私とロベールの共通の知り合いだから、学校の関係者とでも思っているのだろう。

「ヒント……もらえるかな?」
「ヒントね……フィ……」
「えぇっ? フィリップ!?」
「正解! 10年前のフィリップよ」

 アンはショックを受けている。
 文通していたのは詐欺集団、文通相手のジョンはおらず、ジョンだと思っていた写真はフィリップという知らない人。

「ねえ、アン。あなた、お金を送ってないわよね?」
「ええ、あまりにも高額だったので……私にはどうしようもなくて……」
「それは良かった。ヘイズ王立魔法学園にまで詐欺集団の手紙が来ているということは……生徒会でも調べた方が良さそうね」

 生徒会室に向かおうとしたら、ロベールが「デイジー」と私を呼び止めた。

「どうかしたの?」
「いや……なんか怒ってたけど……何かあったかな……と思って」
 ロベールは私の顔色を窺っている。


 ――そうだった……ロベールの浮気を疑ってたんだわ

 状況から察するに、ロベールは詐欺師からの手紙の相談を受けていただけだろう。アンはロベールの浮気相手ではない。

 私は当初の目的を思い出し、ロベールに捜査の協力を依頼することにした。

「修学旅行の時に、詐欺集団を探ろうと思っているのだけど……」
「あっ、差出人の住所はマンデル共和国だったね」
「そうよ。そして、差出人の住所は私たちが泊まるホテルからもすぐ近くなの」
「詐欺集団のアジトってこと?」
「分からない。でも、何か捜査に必要な情報が得られるかもしれないでしょ」
「そうだけど……警察にまかせればいいんじゃないの?」

 ロベールは私を心配して言ったのだろう。けど、今の一言にはカチンときた。

「ロベール、誰のために私がヘイズ王立警察に所属することになったのか、知っているかしら?」
「あぁ……うん。知ってる」
「誰のため?」
「僕……だよね?」
「そうよ。ロベール、あなた私を手伝うって言ったよね?」
「はい……言いました」

「ヘイズ王立警察はマンデル共和国で堂々と捜査ができない。だから、修学旅行を利用してコソコソ調べにいくのよ」
「分かったよ。でも、危ないことしないでね」
「もちろん。それに何かあったら、ロベール……あなたが私を守るの! いい?」
「分かったよ」

 アンには詐欺集団からの手紙を警察に提出するように伝えた。

 私はロベールを連れて生徒会室に向かうことにした。学園の生徒が国際ロマンス詐欺に遭わないように注意喚起しないといけないから。

 ミシェルがいないのだが……まぁいいか。

 ***

「マーガレット、今日の生徒会はお休みでは?」
 私が生徒会室に入ったら生徒会メンバーのメアリが話しかけてきた。

 生徒会室には会議テーブルに座ってクッキーを食べているミシェルがいた。私を見たミシェルはビックリした顔をしている。
 きっと、今日は生徒会が休みだから私が生徒会室に来ないと思っていたのだ。
 私の侍女なのに……ここでサボるために。

 まぁ、ミシェルのことはいい。それよりも、ヘイズ王立魔法学園で国際ロマンス詐欺の被害を出さないことが重要だ。

「ちょっと困ったことになってね」と私はメアリに状況を説明する。

 マンデル共和国を拠点にしている詐欺集団が、ヘイズ王国の貴族子女にお金を送金させるように誘導する手紙を送っていること。詐欺集団からの手紙は『禁じられた逃避行』に沿った設定やセリフが使われており、フィリップの写真が同封されていることなどだ。

「酷い話ね。詐欺集団がヘイズ王立魔法学園の生徒にまで手を出しているなんて……」
「ここまで広がっているとすると、ヘイズ王国中の貴族夫人や貴族令嬢に詐欺集団からの手紙が来ていると考えていいと思う。事態は相当深刻だと思うわ」
「そうよね」
「私は今からヘイズ王立警察に行かないといけないのだけど、生徒会から全校生徒にこの手紙を受取った生徒がいないか、通知を送ってほしいの」
「分かったわ。写真は使ってもいい?」
「いいわよ」

 私はロベールとミシェルを連れてヘイズ王立警察に向かった。
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