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第7回活動報告:通貨危機を回避しろ
国内世論との戦い(その7)
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(7)国内世論との戦い <続き>
内務省が政策金利を4%に引き上げたためジャービス・ドル高(為替レートが低下)が急激にすすんだ。
ジャービス・ドル高によって、外国から輸入している製品・商品の仕入価格はジャービス・ドル・ベースで下がった。
また、銀行貸出の平均金利が2%から6%に上昇したことから、企業の資金調達額が減少した。銀行借入の縮小によって、不動産投資や設備投資額は政策金利の引き上げ前と比べて大幅に減少した。
政策金利の引き上げは消費者物価指数の低下に寄与したと言える。
しかし、企業が設備投資を控えるようになったため製造業の国内売上高は減少した。
借入金利が上昇したことから不動産関連の業種の売上高も減少した。
つまり、インフレ抑制はできたが国内景気が低迷し始めたのだ。
国内景気が悪化してくると、企業は将来の業績悪化に備えるためにリストラ(人員削減)やコストカットを開始する。このような企業の動きが、ますます経済成長率を引き下げることになる。悪循環だ。
政策金利の引き上げは景気対策にはマイナスに影響する。
これは当初から分かっていたことだ。
俺たちは為替対応に関連した一連の取引で約8,700億JD利益を上げたから、国内景気を刺激するための補助金を投入すれば、経済成長率に与えるマイナスの影響は軽減できるはずだった。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円としています。
内務大臣のチャールズが主体となって、公共工事の実施、雇用維持のための補助金支出などを実施した。しかし、国内企業には業績悪化に備える動きが見られるようになり、内務省の景気刺激策は思ったほど効果を上げることができなかった。
しばらくすると、マスコミが経済環境の悪化について報道し始めた。
・企業を解雇された夫とその家族の生活
・住宅ローン金利が上がって返済に苦しむ家族
・1JDでも安いスーパーマーケットを回って買い物する専業主婦
このようなドキュメンタリーが大量に放送された。
マスコミに煽られた一般消費者は『いつクビになるのか?』とか『住宅ローンは払えるのか?』とか『うちの会社は倒産しないのか?』とかを心配するようになった。
このような一般消費者の心理の悪化は買い控えを誘発し、ますます国内消費額は低迷していく。
そして、またデモが起きた。
“国民の生活を守れー!”
“景気対策をしろー!”
“住宅ローンを免除しろー!”
“リストラをするなー!”
マスコミは更にデモを煽るような報道をする。
だから、国民の不満は今にも爆発しそうだ。
― しつこい・・・
俺は思った。
でも、何もしないとジャービス政府の支持率が下がるから、何らかの手を打たなければならない。
それに、世論を気にする国王は『国民の不安を払拭しなければいけない』と思っているはずだ。
国内世論と国王の不安を察知し、チャールズの提案で緊急家族会議が開催された。
***
緊急家族会議に呼ばれた俺たちが着席するのを見計らって、チャールズが発言した。
「内務省では国内景気を悪化させないために、公共工事で建設業界をサポートし、補助金を交付することで国内企業の雇用維持に努めてきました。それにも関わらず、マスコミが国民の不安を煽るから、全国でデモが開催されるようになりました」
チャールズは『俺は頑張った!』『俺は悪くない!』『マスコミが悪い!』アピールに必死だ。
― また言い訳してる・・・
俺はそう思った。参加者は同じことを思っているだろう。
白い目でチャールズを見ている。
チャールズの言い訳を聞いていても何の解決にもならない。
そう思った国王は発言した。
「政策金利の引き上げはインフレ抑制に役立ったと思う。ただ、その副作用として国内景気が予想以上に悪化しているように思う。どのような対策を採ればいいと思うか?」
ジェームス、チャールズ、アンドリュー、みんな俺の方を見た。
一連の為替対応が俺の発案だから『最後まで面倒を見ろ!』ということなのだろう。
俺は仕方ないから景気対策の提案をすることにした。
「政策金利を1%に引き下げましょう!」俺は自信に満ちた表情で言った。
「え?」チャールズが聞き返してきた。
「だから、もう一回、政策金利を1%に引き下げるんです」
「もう一回?」
「もう一回です」
「その後は?」チャールズが俺に言った。
「その後と言うか、政策金利を引き下げる前に、ジャービス中央銀行から額面3,000億JD の10年国債を借りられるように手配して下さい」
「無担保で?」
「そうです。国債を担保にうちが1兆JD分の米ドルを購入します」
「もう一回?」
「もう一回です」
その後、俺の為替対応取引の2巡目の議論が行われた。
最終的に、臨時家族会議において一連の為替対応取引をもう一度実行することが決定した。
― 止めてくれと言われても、何度でも繰り返してやる!
俺はそう心に決めた。
内務省が政策金利を4%に引き上げたためジャービス・ドル高(為替レートが低下)が急激にすすんだ。
ジャービス・ドル高によって、外国から輸入している製品・商品の仕入価格はジャービス・ドル・ベースで下がった。
また、銀行貸出の平均金利が2%から6%に上昇したことから、企業の資金調達額が減少した。銀行借入の縮小によって、不動産投資や設備投資額は政策金利の引き上げ前と比べて大幅に減少した。
政策金利の引き上げは消費者物価指数の低下に寄与したと言える。
しかし、企業が設備投資を控えるようになったため製造業の国内売上高は減少した。
借入金利が上昇したことから不動産関連の業種の売上高も減少した。
つまり、インフレ抑制はできたが国内景気が低迷し始めたのだ。
国内景気が悪化してくると、企業は将来の業績悪化に備えるためにリストラ(人員削減)やコストカットを開始する。このような企業の動きが、ますます経済成長率を引き下げることになる。悪循環だ。
政策金利の引き上げは景気対策にはマイナスに影響する。
これは当初から分かっていたことだ。
俺たちは為替対応に関連した一連の取引で約8,700億JD利益を上げたから、国内景気を刺激するための補助金を投入すれば、経済成長率に与えるマイナスの影響は軽減できるはずだった。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円としています。
内務大臣のチャールズが主体となって、公共工事の実施、雇用維持のための補助金支出などを実施した。しかし、国内企業には業績悪化に備える動きが見られるようになり、内務省の景気刺激策は思ったほど効果を上げることができなかった。
しばらくすると、マスコミが経済環境の悪化について報道し始めた。
・企業を解雇された夫とその家族の生活
・住宅ローン金利が上がって返済に苦しむ家族
・1JDでも安いスーパーマーケットを回って買い物する専業主婦
このようなドキュメンタリーが大量に放送された。
マスコミに煽られた一般消費者は『いつクビになるのか?』とか『住宅ローンは払えるのか?』とか『うちの会社は倒産しないのか?』とかを心配するようになった。
このような一般消費者の心理の悪化は買い控えを誘発し、ますます国内消費額は低迷していく。
そして、またデモが起きた。
“国民の生活を守れー!”
“景気対策をしろー!”
“住宅ローンを免除しろー!”
“リストラをするなー!”
マスコミは更にデモを煽るような報道をする。
だから、国民の不満は今にも爆発しそうだ。
― しつこい・・・
俺は思った。
でも、何もしないとジャービス政府の支持率が下がるから、何らかの手を打たなければならない。
それに、世論を気にする国王は『国民の不安を払拭しなければいけない』と思っているはずだ。
国内世論と国王の不安を察知し、チャールズの提案で緊急家族会議が開催された。
***
緊急家族会議に呼ばれた俺たちが着席するのを見計らって、チャールズが発言した。
「内務省では国内景気を悪化させないために、公共工事で建設業界をサポートし、補助金を交付することで国内企業の雇用維持に努めてきました。それにも関わらず、マスコミが国民の不安を煽るから、全国でデモが開催されるようになりました」
チャールズは『俺は頑張った!』『俺は悪くない!』『マスコミが悪い!』アピールに必死だ。
― また言い訳してる・・・
俺はそう思った。参加者は同じことを思っているだろう。
白い目でチャールズを見ている。
チャールズの言い訳を聞いていても何の解決にもならない。
そう思った国王は発言した。
「政策金利の引き上げはインフレ抑制に役立ったと思う。ただ、その副作用として国内景気が予想以上に悪化しているように思う。どのような対策を採ればいいと思うか?」
ジェームス、チャールズ、アンドリュー、みんな俺の方を見た。
一連の為替対応が俺の発案だから『最後まで面倒を見ろ!』ということなのだろう。
俺は仕方ないから景気対策の提案をすることにした。
「政策金利を1%に引き下げましょう!」俺は自信に満ちた表情で言った。
「え?」チャールズが聞き返してきた。
「だから、もう一回、政策金利を1%に引き下げるんです」
「もう一回?」
「もう一回です」
「その後は?」チャールズが俺に言った。
「その後と言うか、政策金利を引き下げる前に、ジャービス中央銀行から額面3,000億JD の10年国債を借りられるように手配して下さい」
「無担保で?」
「そうです。国債を担保にうちが1兆JD分の米ドルを購入します」
「もう一回?」
「もう一回です」
その後、俺の為替対応取引の2巡目の議論が行われた。
最終的に、臨時家族会議において一連の為替対応取引をもう一度実行することが決定した。
― 止めてくれと言われても、何度でも繰り返してやる!
俺はそう心に決めた。
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