150 / 197
第6回活動報告:ハゲタカファンドと戦え
ネール・マテリアル(その2)
しおりを挟む
(5)ネール・マテリアル <続き>
俺はダウラファンドのネール・マテリアル株式の保有比率を、アナンヤに確認することにした。
会社が公表している決算書の株主名簿は直近のものではなく、ダウラファンドが現在ネール・マテリアルの株式を何株保有しているか分からなかったからだ。
「ダウラファンドはネール・マテリアルの株式を何株保有しているのですか?公表されている決算書の株主名簿にはダウラファンドが出てこなかったものですから。」と俺は言った。
「そうですね。決算書の株主名簿は半年前のものなので、その時点ではダウラファンドはほとんどネール・マテリアルの株式を保有していませんでした。直近の株主名簿はこんな感じです。」
そう言うと、アナンヤはネール・マテリアルの株主名簿(抜粋)を見せた。
【図表6-10:ネール・マテリアルの株主名簿(抜粋)】
参考:発行済株式総数 10,000千株
俺たちはアナンヤが差し出したネール・マテリアルの株主名簿を確認した。筆頭株主は社長のアナンヤだが、2位~4位がダウラファンドだ。
「2位~4位を合計すると保有株数は270万株、保有比率は27%ですか。」
「そうです。既に私の保有株数を上回っています。」とアナンヤは言った。
「現在保有しているダウラファンドはDaoulas Investment LP、Daoulas Active Investment LP、Daoulas Finance LPの3つ。どれも、アクティビストファンドの方ですね。」
「アクティビストファンドの方とは?」とアナンヤが俺に聞いた。
「ダウラアセットマネジメントが運用しているファンドは6つあって、4つがアクティビストファンド、2つが買収ファンドなんです。この株主名簿に出ているファンドは全てアクティビストファンドです。買収ファンドは、実際に会社を買収する時に出てきます。」
「そういう使い分けをしているんですね。」
「そのようです。ダウラファンドは基本的にアクティビストですから、会社を買収せずに儲かるのであれば、そうしたいはずです。ダウラファンドが会社を買収するケースは、投資した会社の株価が上昇しなかった場合に限定されます。こんな感じです(図表6-5)。」と俺は説明した。
【図表6-5:ダウラファンドの戦略(再掲)】
「そうすると、ネール・マテリアルの株価が上がれば、ダウラファンドはネール・マテリアルの株式を売却していなくなると?」とアナンヤは言った。
「私たちはそう考えています。ダウラファンドのターゲットリターンは正確に分かりませんが、ある一定水準以上の利益が確保できれば、ダウラファンドはネール・マテリアルの株式を売却するはずです。」と俺は言った。
「じゃあ、私たちのすべきことはネール・マテリアルの株価を上げることかしら?」
「それが一番の解決策でしょうね。具体的な株価対策は考えていますか?」と俺はアナンヤに聞いた。
「具体的に、ですか・・・?収益性を向上してもネール・マテリアルの株価が低すぎるから、どこまで影響があるかは分かりません。投資家にあまり注目されていないんですよね。逆に聞いて申し訳ないのですが、何か方法はありますか?」アナンヤは俺に聞き返してきた。
俺はしばらく考えたうえで言った。
「まず、ネール・マテリアルの時価総額は10億JDです。一方、貸借対照表(図表6-11)から純資産が40億JDなので、PBRは0.25(10÷40)です。」
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円に設定しています。
【図表6-11:ネール・マテリアルの貸借対照表(単位:百万JD)】
「ネール・マテリアルの株価は低いですから。20年前に上場した時はPBRが6倍だったのに・・・。ここ10年くらいは投資家に注目されていないから、ずっと1倍割れです。」とアナンヤは言った。
俺は話を続けた。
「次に、株式時価総額が10億JD、有利子負債が0、余剰資金を30億JD、非事業性資産を0なので、事業価値(Enterprise Value:EV)は△20億JDです。」
※事業価値=株式時価総額+有利子負債-余剰資金-非事業性資産等
有利子負債:借入金、リース債務など利息支払いを伴う債務(負債)のこと。
余剰資金:本業に使用しない現金預金などのこと。
非事業性資産:本業に利用しない投資目的の資産(例えば、投資用の不動産、有価証券など)のこと。
「EVがマイナス?」とホセが言った。
「そうだよ。EVがマイナスだから、ネール・マテリアルを買収したら100%儲かる。」
「儲かりますね。」とホセが言った。
「どういうことですか?」と俺の話を聞いていたミゲルが言った。
ミゲルは意味が分からなかったようだ。
<続く>
俺はダウラファンドのネール・マテリアル株式の保有比率を、アナンヤに確認することにした。
会社が公表している決算書の株主名簿は直近のものではなく、ダウラファンドが現在ネール・マテリアルの株式を何株保有しているか分からなかったからだ。
「ダウラファンドはネール・マテリアルの株式を何株保有しているのですか?公表されている決算書の株主名簿にはダウラファンドが出てこなかったものですから。」と俺は言った。
「そうですね。決算書の株主名簿は半年前のものなので、その時点ではダウラファンドはほとんどネール・マテリアルの株式を保有していませんでした。直近の株主名簿はこんな感じです。」
そう言うと、アナンヤはネール・マテリアルの株主名簿(抜粋)を見せた。
【図表6-10:ネール・マテリアルの株主名簿(抜粋)】
参考:発行済株式総数 10,000千株
俺たちはアナンヤが差し出したネール・マテリアルの株主名簿を確認した。筆頭株主は社長のアナンヤだが、2位~4位がダウラファンドだ。
「2位~4位を合計すると保有株数は270万株、保有比率は27%ですか。」
「そうです。既に私の保有株数を上回っています。」とアナンヤは言った。
「現在保有しているダウラファンドはDaoulas Investment LP、Daoulas Active Investment LP、Daoulas Finance LPの3つ。どれも、アクティビストファンドの方ですね。」
「アクティビストファンドの方とは?」とアナンヤが俺に聞いた。
「ダウラアセットマネジメントが運用しているファンドは6つあって、4つがアクティビストファンド、2つが買収ファンドなんです。この株主名簿に出ているファンドは全てアクティビストファンドです。買収ファンドは、実際に会社を買収する時に出てきます。」
「そういう使い分けをしているんですね。」
「そのようです。ダウラファンドは基本的にアクティビストですから、会社を買収せずに儲かるのであれば、そうしたいはずです。ダウラファンドが会社を買収するケースは、投資した会社の株価が上昇しなかった場合に限定されます。こんな感じです(図表6-5)。」と俺は説明した。
【図表6-5:ダウラファンドの戦略(再掲)】
「そうすると、ネール・マテリアルの株価が上がれば、ダウラファンドはネール・マテリアルの株式を売却していなくなると?」とアナンヤは言った。
「私たちはそう考えています。ダウラファンドのターゲットリターンは正確に分かりませんが、ある一定水準以上の利益が確保できれば、ダウラファンドはネール・マテリアルの株式を売却するはずです。」と俺は言った。
「じゃあ、私たちのすべきことはネール・マテリアルの株価を上げることかしら?」
「それが一番の解決策でしょうね。具体的な株価対策は考えていますか?」と俺はアナンヤに聞いた。
「具体的に、ですか・・・?収益性を向上してもネール・マテリアルの株価が低すぎるから、どこまで影響があるかは分かりません。投資家にあまり注目されていないんですよね。逆に聞いて申し訳ないのですが、何か方法はありますか?」アナンヤは俺に聞き返してきた。
俺はしばらく考えたうえで言った。
「まず、ネール・マテリアルの時価総額は10億JDです。一方、貸借対照表(図表6-11)から純資産が40億JDなので、PBRは0.25(10÷40)です。」
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円に設定しています。
【図表6-11:ネール・マテリアルの貸借対照表(単位:百万JD)】
「ネール・マテリアルの株価は低いですから。20年前に上場した時はPBRが6倍だったのに・・・。ここ10年くらいは投資家に注目されていないから、ずっと1倍割れです。」とアナンヤは言った。
俺は話を続けた。
「次に、株式時価総額が10億JD、有利子負債が0、余剰資金を30億JD、非事業性資産を0なので、事業価値(Enterprise Value:EV)は△20億JDです。」
※事業価値=株式時価総額+有利子負債-余剰資金-非事業性資産等
有利子負債:借入金、リース債務など利息支払いを伴う債務(負債)のこと。
余剰資金:本業に使用しない現金預金などのこと。
非事業性資産:本業に利用しない投資目的の資産(例えば、投資用の不動産、有価証券など)のこと。
「EVがマイナス?」とホセが言った。
「そうだよ。EVがマイナスだから、ネール・マテリアルを買収したら100%儲かる。」
「儲かりますね。」とホセが言った。
「どういうことですか?」と俺の話を聞いていたミゲルが言った。
ミゲルは意味が分からなかったようだ。
<続く>
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる