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第6回活動報告:ハゲタカファンドと戦え
退職者から話を聞こう(その2)
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(4)退職者から話を聞こう <続き>
ルーカスはダウラファンドの話を続けた。
「何が言いたいかというと、アクティビストファンドは投資先との関係がこじれると、儲からないのに手間だけ増えるんです。」
「費用対効果が悪い、ということですよね?」とポールは聞いた。
「その通りです。つまり、アクティビスト以外の投資戦略を持っていないとデッドロック(手詰まり)状態になるんです。ダウラファンドの投資先は割安の上場会社なので、親和性の高い投資戦略を探した結果、買収ファンドという結論に達しました。」
「買収ファンドの運用開始は投資効率を上げるため、ということですか?」
「そう言えます。さらにダウラファンドの出資者はレピュテーションを気にします。出資者からすれば、ダウラアセットマネジメントには投資先の会社とあまり揉めてほしくないと思っているはずですよね?」
「でしょうね。」
「だから、できるだけ円滑にエグジット(EXIT)できる手段を確保する必要がありました。」
「へー。そういう理由かー。ところで、買収ファンドの運用は順調でしたか?」とポールはルーカスに質問した。
「私が在籍していた時は、順調だったと思います。アクティビストファンドには買収の専門家がいませんから、買収ファンドを運用するために中堅のPE(Private Equity:プライベートエクイティ)からメンバーをチームごと引き抜きました。後は、アクティビストファンドのチームと買収ファンドのチームが情報を連携して進めればいいだけです。」
「てっきり、ダウラファンドは買収ファンドの運用は素人だと思っていました。」
「そう思っている人が多いと思います。でも、実態は違います。ダウラアセットマネジメントが調達した資金を運用しているものの、買収ファンドの部署はアクティビストファンドとは完全に独立していて、ほぼ独立系PEのようでした。」
「すいません。くだらないことを聞いてもいいですか?」とポールは言った。
「なんでしょう?」
「2つのチームは仲が悪いんですか?」
「良くも悪くもないですね。2つのチームは全く異質ですから。」
「異質?」
「アクティビストファンドのチームは上場株式の運用なので、それぞれのトレーダーが自分の裁量権でポジションを保有します。一方、買収ファンドのチームは完全にチームプレーです。買収対象企業の調査、会社との交渉、銀行への融資依頼、買収後のリストラクチャリングなど、全ての業務をチームで行います。」
「個人プレーとチームプレーですか・・・。」
「仕事のやり方が全く違うので、一緒に何かをするという意識は希薄だったと思います。」
「なるほど。じゃあ、業務上の連携は上手く行かないのでは?」とポールは聞いた。
「特にそういうわけではありません。お互いの利害は合致していますから、業務連携はスムーズでした。例えば、アクティビストのチームは会社への提案に失敗した場合、買収ファンドのチームに株式を売却します。アクティビストのチームは売却によってポジションがゼロになるので、次の対象会社に投資できます。一方、買収ファンドのチームからすれば、ある程度の株式がTOBの実施前に取得できるので、平均取得価格を下げることができます(図表6-9参照)。」
【図表6-9:各チームの連携】
「じゃあ、アクティビスト・チームと買収チームの接点は、ファンド間の売買時点だけですか?」
「ええ、そうです。株式売買の際に売買価格について議論はしますが、お互いの業務には一切関与しません。一緒に仕事をしないから、仲が良くも悪くもありません。大企業の隣の部署みたいな感じです。それでも、お互いの利害は一致していたから業務連携は上手く行っていました。」
「へー、面白い組織ですね。」
「まあ、他人の仕事に興味がないのは、ファンド業界では珍しくはないですね。自分の運用するファンドに関する損益責任はありますが、他の担当者の運用成績がどうだろうと気になりません。運用するファンドの業績しかファンドマネージャーの報酬には関係ありませんから。」
「ダウラアセットマネジメントが運用しているファンドは、大きく分けてアクティビストファンドと買収ファンドの2種類ですよね。その2種類の投資家(ファンドへの出資者)は全く別だったのでしょうか?」とポールは質問した。
「具体名は言えませんが、出資している投資家は少し違いました。でも、半分以上は同じだったと記憶しています。」
「買収ファンドの出資者には海外投資家が多かったとか、そういう違いでしょうか?」
「いえ。ほとんどはジャービス国内の機関投資家です。記憶が曖昧ですが、海外投資家はなかったような気が・・・。」
ルーカスの回答は、ポールが思っていたとは逆だった。
海外投資家が買収ファンドに出資していた、という当初の見込みは外れたようだ。
<続く>
ルーカスはダウラファンドの話を続けた。
「何が言いたいかというと、アクティビストファンドは投資先との関係がこじれると、儲からないのに手間だけ増えるんです。」
「費用対効果が悪い、ということですよね?」とポールは聞いた。
「その通りです。つまり、アクティビスト以外の投資戦略を持っていないとデッドロック(手詰まり)状態になるんです。ダウラファンドの投資先は割安の上場会社なので、親和性の高い投資戦略を探した結果、買収ファンドという結論に達しました。」
「買収ファンドの運用開始は投資効率を上げるため、ということですか?」
「そう言えます。さらにダウラファンドの出資者はレピュテーションを気にします。出資者からすれば、ダウラアセットマネジメントには投資先の会社とあまり揉めてほしくないと思っているはずですよね?」
「でしょうね。」
「だから、できるだけ円滑にエグジット(EXIT)できる手段を確保する必要がありました。」
「へー。そういう理由かー。ところで、買収ファンドの運用は順調でしたか?」とポールはルーカスに質問した。
「私が在籍していた時は、順調だったと思います。アクティビストファンドには買収の専門家がいませんから、買収ファンドを運用するために中堅のPE(Private Equity:プライベートエクイティ)からメンバーをチームごと引き抜きました。後は、アクティビストファンドのチームと買収ファンドのチームが情報を連携して進めればいいだけです。」
「てっきり、ダウラファンドは買収ファンドの運用は素人だと思っていました。」
「そう思っている人が多いと思います。でも、実態は違います。ダウラアセットマネジメントが調達した資金を運用しているものの、買収ファンドの部署はアクティビストファンドとは完全に独立していて、ほぼ独立系PEのようでした。」
「すいません。くだらないことを聞いてもいいですか?」とポールは言った。
「なんでしょう?」
「2つのチームは仲が悪いんですか?」
「良くも悪くもないですね。2つのチームは全く異質ですから。」
「異質?」
「アクティビストファンドのチームは上場株式の運用なので、それぞれのトレーダーが自分の裁量権でポジションを保有します。一方、買収ファンドのチームは完全にチームプレーです。買収対象企業の調査、会社との交渉、銀行への融資依頼、買収後のリストラクチャリングなど、全ての業務をチームで行います。」
「個人プレーとチームプレーですか・・・。」
「仕事のやり方が全く違うので、一緒に何かをするという意識は希薄だったと思います。」
「なるほど。じゃあ、業務上の連携は上手く行かないのでは?」とポールは聞いた。
「特にそういうわけではありません。お互いの利害は合致していますから、業務連携はスムーズでした。例えば、アクティビストのチームは会社への提案に失敗した場合、買収ファンドのチームに株式を売却します。アクティビストのチームは売却によってポジションがゼロになるので、次の対象会社に投資できます。一方、買収ファンドのチームからすれば、ある程度の株式がTOBの実施前に取得できるので、平均取得価格を下げることができます(図表6-9参照)。」
【図表6-9:各チームの連携】
「じゃあ、アクティビスト・チームと買収チームの接点は、ファンド間の売買時点だけですか?」
「ええ、そうです。株式売買の際に売買価格について議論はしますが、お互いの業務には一切関与しません。一緒に仕事をしないから、仲が良くも悪くもありません。大企業の隣の部署みたいな感じです。それでも、お互いの利害は一致していたから業務連携は上手く行っていました。」
「へー、面白い組織ですね。」
「まあ、他人の仕事に興味がないのは、ファンド業界では珍しくはないですね。自分の運用するファンドに関する損益責任はありますが、他の担当者の運用成績がどうだろうと気になりません。運用するファンドの業績しかファンドマネージャーの報酬には関係ありませんから。」
「ダウラアセットマネジメントが運用しているファンドは、大きく分けてアクティビストファンドと買収ファンドの2種類ですよね。その2種類の投資家(ファンドへの出資者)は全く別だったのでしょうか?」とポールは質問した。
「具体名は言えませんが、出資している投資家は少し違いました。でも、半分以上は同じだったと記憶しています。」
「買収ファンドの出資者には海外投資家が多かったとか、そういう違いでしょうか?」
「いえ。ほとんどはジャービス国内の機関投資家です。記憶が曖昧ですが、海外投資家はなかったような気が・・・。」
ルーカスの回答は、ポールが思っていたとは逆だった。
海外投資家が買収ファンドに出資していた、という当初の見込みは外れたようだ。
<続く>
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