上 下
57 / 197
第3回活動報告:投資詐欺から高齢者を守れ

運用会社に聞いてみよう(その1)

しおりを挟む
(7) 運用会社に聞いてみよう

フォーレンダム証券のオウルとの面談を終えた俺、ルイーズとポールの3人は、トルネアセットマネジメントに訪問した。
トルネアセットマネジメントも受付や応接室に金を掛けている。ここでの総務省との差を感じる。

フォーレンダム証券に訪問するまでは、俺たちはフォーレンダム証券とトルネアセットマネジメントのどちらか一方、または両方が今回の犯人だと思っていた。オウルの話を聞いて『両方とも犯人ではない?』と思うようになった俺は、オウルの話がどこまで本当なのかを確かめるために、トルネアセットマネジメントに来ている。

オウルから聞いた話と、これから聞く話に整合性があれば、犯人ではないのだろう。
ただ、これは2社が口裏を合わせていないことが前提だ。

容疑者は捜査の過程で変わっていく。
今の俺の心配事は、容疑者がゼロになることだけだ。

トルネアセットマネジメントの会議室に案内された俺は、社長のシモに挨拶を簡単に済ませ、さっそく質問することにした。

「劣後社債の利払いがされていないと、総務省に相談があったので、本日はこちらに伺いました。劣後社債の利払いの状況について、教えてもらえますか?」と俺はシモに聞いた。

「その件ですね。弊社でもどう対応するかを、検討している最中です。既にあらかたご存じだと思いますが、急に買取請求が増加したため、ファンドが保有している劣後社債の元利金支払資金が不足しました。劣後社債の買取りは、利息の支払いよりも優先されるため、劣後社債を保有している投資家への利払いが遅延しています。」

「そうすると、契約上は、先に劣後社債を買取ってから、劣後社債の利息の支払いを行うという順番なのですね?」

「そうです。弊社としては、順番はどちらが先でも良かったのですが、フォーレンダム証券の希望で劣後社債の買取りを優先する契約になりました。」

「そうですか。ところで、劣後社債の支払遅延は、普通社債の利払いには影響がないと聞きましたが、これは正しい情報でしょうか?」と俺はシモに確認する。

「はい。合っています。普通社債と劣後社債は、元利金の返済資金を分けて管理しています。劣後社債の支払資金が不足しても、普通社債の支払資金には影響しないためです。普通社債の利払いには何の問題ありません。ただ・・・・」

「ただ?」

「劣後社債の利払いが長期間行われないと、新規の劣後社債の発行に影響します。その点を懸念しています。劣後社債の利払遅延を回避するには、幾つか方法があります。」

「例えば、どういう方法ですか?」

「一つの方法は、ファンドが保有している資産(住宅ローン債権)を売却して、全ての社債を償還する方法です。この方法は、当社としてはあまりやりたくありません。」

「なぜですか?」と俺は聞いた。

「普通社債も同時に償還しないといけないからです。ファンドが保有資産を売却した場合、普通社債の早期償還条項に抵触して、普通社債を全額償還する必要が出てきます。」

「普通社債に影響するからですか?」

「そういうことです。普通社債を購入している機関投資家は、期限前返済を嫌がります。機関投資家には、一定期間、安定して資金運用したいというニーズが強いのです。このため、投資対象の償還が早くても遅くても嫌煙されます。」とシモは言った。

「償還が早くても遅くても、ですか?」

「そうです。両方嫌がります。」

「投資家が満期に償還されないのを嫌がるのは分かります。でも、投資家が満期よりも早く償還されるのを嫌がる理由が分かりません。投資家は早く償還されて資金が戻ってきた方が良いのではないのですか?」と俺はシモに質問した。

俺が運用業界では常識的なことを聞いたからだろうか?
シモは俺の質問がよく分からないような素振りをした。

<続く>
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

処理中です...