第4王子は中途半端だから探偵することにした

第５回活動報告：仮想通貨の詐欺集団を捕まえろ

デューデリジェンス（その５）

（９）デューデリジェンス　＜続き＞


隣の部屋は、会議室よりもさらに殺風景だった。長机とパイプ椅子以外に何もない。
加えて言うと、窓もない。長時間作業すると憂鬱になりそうな部屋だ。普段は何に使っているのだろうか？
私がロイに「お仕置き部屋かな？」と聞いたら、「そんなわけないでしょ」と返された。
でも、本当にお仕置き部屋だったとしても違和感はない。

長机の上に書類が置いてあるから、それが契約書と帳簿書類だろう。
ただ、机の上に置かれた書類の分量は少ない。第13穀物倉庫を調査した時の10分の１以下だ。

私、ロイ、ポールの３人は、デトロイト監査法人のトーマスたちと分担して作業に取り掛かる。作業開始から1時間が経過したころ、トーマスがルイーズに話しかけてきた。

「月次試算表を見た段階で予想していましたが、ジャービット・エクスチェンジとジャービットの２社には預金と投資有価証券しかありません。ジャービット・エクスチェンジには有形固定資産が計上されているものの、既に減価償却が終了しています。同様に、無形固定資産も償却済です。」

「投資有価証券はそれなりに件数がありますよね？」と私はトーマスに聞いた。

「そうですね。投資有価証券は親会社のジャービットに計上されていて、数はそれなりにあります。ジャービットは累計で約100社に投資していて、現時点の投資先は60社です。減少している40社の内訳は、第三者への相対での売却が20社、上場後の売却が5社、その他15社が倒産しています。預金残高は残高証明書と照合しました。顧客の預り資産については、帳簿と銀行口座の動きを照合しましたが、流出された事実はありません。
あとは、投資有価証券に計上されている60社の株式を簿価純資産額で評価したら財務デューデリの作業は終了です。」とトーマスは言った。

「思ったよりも早く済みそうですね。こちらも、契約と議事録を確認しましたが、特に問題なさそうです。ジャービット・コインの発行数量も、先ほどホセから聞いた話と一致しています。」

「じゃあ、私たちはこれから投資有価証券の評価に必要な書類を確認します。現地での作業はあと1時間くらいで終わると思います。」

デューデリの作業は順調に進んでいる。私たちも残っていた契約書類等を確認したが、異常な点はなかった。
ちょうど1時間くらいしたら「今日の作業は終わりました。」とトーマスが言ったので、私たちはジャービット・エクスチェンジを引き上げた。
トーマスは調査結果をまとめて、2日後に報告書のドラフトを送ると言った。2社には負債がなく、資産も投資有価証券以外は評価が必要ないため、デューデリは一般的な会社よりも早く終わりそうだ。

＜続く＞