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第1回活動報告:横領犯を捕まえろ

内部調査部を立ち上げよう(その3)

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(2)内部調査部を立ち上げよう <続き>

ルイーズは俺を無視して話を続ける。

「例えば、在庫表(図表1-1)に出てくる10月31日の1,000t仕入れが怪しいと思う。ダート商会の1つ上に出てくる取引。
10月31日の仕入単価は35JD/kgになっているけど、10月30日時点の小麦在庫の単価は30JD/kg。10月31日の仕入単価が、在庫平均と比べて高すぎる。」

「それで?」と俺は言う。方向性は合ってそうだ。

「10月31日に1,000tの小麦を3,500万JDで仕入れていることになっている。
もし、本当の仕入単価が30JD/kgだったとしたら、仕入金額3,500万JDで購入した小麦は1,166,667kg(35,000,000JD÷30JD/kg)のはず。
仕入単価を誤魔化して作った差額の166,667kg(1,166,667kg-1,000t)を横流ししていると思う。」とルイーズ言った。

「じゃあ、ダート商会はどう絡んでくるの?」と俺は聞く。

「在庫表の10月末と11月末の月末在庫数量が4,000tだから、月末在庫は4,000tに決まっているんじゃない?」

「そうかもね。」

「10月の場合は、10月末在庫を4,000tにするために10月31日に1,166.7t(帳簿上は1,000t)仕入れた。けど、実際には5t足りなかった。
だから、つじつまを合わせるために、ダート商会に販売した5tを翌日に引き渡すことにしたと思う。」

「さらに、11月30日に仕入れた1,500tは、実際には1,750t(52,500,000JD÷30JD/kg)あったはず。250t(1,750t-1,500t)を横流しして、足りない分の3.75tをダート商会で調整した。ということでいいかな?」と俺はルイーズの推理を補足した。

「そういうこと。」ルイーズは満足そうに言った。

俺の推理と同じだ。
やはりルイーズは頭がいい。口は悪いが。

「さすが名探偵!」

「だから、探偵はダサいからやめてくれない?」またルイーズは探偵を嫌がった。
俺だったら、名探偵と言われたら嬉しいのに。

「そうすると、10月の被害額は500万JD(166,667kg×30JD/kg)、11月の被害額は750万JD(250,000kg×30JD/kg)か。金額的に小さくはないな。」と俺は呟く。

20万JDならともかく、横領するのがこの金額だったら、リスクを取るかもしれない。

「これは2か月分でしょ。2カ月で1,250万JDだから、年換算すると1,250万JD×6倍=7,500万JD。私の年収の10倍じゃない。許せないわね。」とルイーズは怒っている。

ルイーズは給料が少ないことを怒っているのだろうか?
それとも、不正が許せないと怒っているのだろうか?

給与のことだったら面倒くさいので、俺は「そうだね。」とだけ言った。

不正の方法は大体分かったはずだが、証拠をつかむためには、実際に現地調査する必要があるだろう。それに、犯行の手口が判明しても、犯人が分からないと、解決にはならない。

ここまで不正の方法を突き止めることができたから、残りは現地で調べればいいだろう。

「第13穀物倉庫の不正の手口は推測できた。ただ、調査を完了するためには、不正の証拠を見つけて、犯人を捕まえる必要がある。今月末に第13穀物倉庫に行ってみようか?」と俺が実査の提案をすると、ルイーズは驚いている。

「え、そうなの?報告書を作成したら第1号案件は終了かと思っていた。」

「そんなわけないでしょ・・・」

ルイーズは頭がいいのだが、人として何かが欠けている。
おいおい、不正の証拠もなく、想像で罪を裁くとはどういう神経をしているんだ。
さらに、犯人が誰か分かっていないのに。架空の犯人をでっち上げつもりだったのか? 

「報告書を作るのに、不正の証拠をつかむ必要があるでしょ。それに、まだ犯人が誰か分かってないよね。
だから、動きがありそうな月末に、第13穀物倉庫に行く必要があると思うんだ。実地棚卸に立会って、確認しようよ。」と俺は現地調査に誘導する。

「穀物倉庫って暑そうだから行きたくない。」と断ってきた。

「大丈夫、エアコン完備だ。」俺は適当に答えた。

「犯人逮捕は警察の仕事でしょ。内部調査部の仕事じゃない。」

どうやらルイーズは、どうしても倉庫に行きたくないらしい。
このままだと現地調査に行けない。しかたないから、俺はある作戦を結構した。

「出張手当が付くよ。」

効果はあったようだ。卑怯な作戦だが、コイツにはこういう方法が有効なのを俺は知っている。

「証拠を入手する必要があるなら、現地調査はしかたないか。」
ルイーズは少し機嫌が直ったようだ。

「倉庫には朝に訪問して、月末仕入の数量と価格が納品書と一致しているかを確認しよう。あと、ダート商会への販売分を他の在庫とどう分けているか、を確認しないといけないね。」

「了解。ところで、朝って何時から?」とルイーズが俺に聞いてきた。

「第13穀物倉庫の業務開始時間からがいいな。9時かな?」

「実地棚卸は夜からスタートだろうし、そんなに早くなくてもよくない?」どうやらルイーズは朝から行きたくないようだ。

「小麦の仕入の前に数量を確認する必要があるから、しかたないよ。朝一に仕入があると、数量が確認できなくなってしまう。」と俺は言った。

「分かった。ところで、早朝出勤手当は付くの?」

「もちろん、請求してもらっていいよ。」
機嫌を悪くされると仕事に支障があるから、俺は早朝出勤手当を可とした。

「それなら、9時でもしかたないか。」

「それじゃあ、施設長のミゲルに月末訪問すると連絡しておいてもらえるかな。」と俺はルイーズにお願いする。

「わかった。ミゲルに連絡してくる。」とルイーズは去っていった。

結局、お金で解決してしまった。
他にいい方法があればいいのだが、俺には思いつきそうにない。

気を取り直して、明日から頑張ろう。

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