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テロリスト ピーチ・ボーイズ
しおりを挟むお菊さんと母は400年ぶりに再会できたことを喜んでいる。お菊さんの母は、隣にいる武を見てお菊さんに尋ねた。
「その子は?」
「ああ、この子は山田武くん。私が地球でトラブルに巻き込まれた時に、助けてもらったの」
武が娘の恩人だと知って、母は礼を述べる。
「この度は、娘がお世話になりました。私は菊の母の梅(うめ)です」
お菊さんの母は武に自己紹介して、家の中に入るように武に促す。
「ご丁寧にありがとうございます。山田武です。お菊さんには僕と母の警護をしてもらっています。それと、こっちの猫はムハンマドって言います」武は自分と猫を紹介した。
「俺まで紹介しなくてもいいのに」と猫は小さく言った。
「いいじゃない。最初が肝心でしょ」武は猫を諭す。
梅は武と猫が話しているのを見て驚いている。
「地球人は猫と話せるの?」梅はお菊さんに小声で聞いた。
「普通は話せないわよ。武くんは特別なの」
「ひょっとして、うちのミーちゃんと話できるのかしら?」
梅はそう言うと隣の部屋から猫を連れてきた。
名前はミーちゃんらしい。
ムハンマドはミーちゃんに話しかけた。
「お前、宇宙猫なの?」
「俺から見たら、お前こそ宇宙猫だぞ」とミーちゃんは返答する。
どうやら猫語は通じるようだ。
「何て言ってるの?」梅は武に質問する。
武は少し考えてから言った。
「くだらないことだよ。お互いに『お前の方こそ宇宙猫だ!』って言い争ってる・・・」
「まあ、そうね。ミーちゃんから見たら、そちらの猫ちゃんは別の惑星から来た猫だもんね」
武と梅が話している間にも、ミーちゃんとムハンマドの会話は進行している。
「腹減ったんだけど、なんか食べるものないか?」とムハンマドは言った。
「ミミガーならあるぞ。食べるか?」
ミーちゃんはムハンマドにミミガー(豚の耳)を勧めるのだが、ムハンマドはムスリム(イスラム教徒)なので食べられない。
「すまん。俺、ムスリムなんだ。豚はNGだ。ハラールフードはないか?」
「俺、クリスチャン(キリスト教徒)だからハラールにあまり詳しくないんだ。鶏肉だったらいいか?」
「チキンは食べられる。厳密には、食肉処理する時にメッカの逆を向いて屠殺しないといけないんだけど。俺はそこまで信仰心が篤くないから大丈夫だ」
梅は、話しているミーちゃんとムハンマドの会話の内容を知りたいらしい。
「今度は何て言ってるの?」梅は武に質問する。
「うーん。説明が難しいな・・・」
「喧嘩してるの?」
「そうじゃないよ。ミーちゃんがミミガーをあげようとしたんだけど、ムハンマドが断った。ムハンマドはムスリムなんだ。ミーちゃんはキリスト教徒だから、ハラールフードに詳しくない。ムハンマドがハラールフードについてミーちゃんに教えているところだね」と武は梅に説明した。
「すごく込み入った会話をしているのね・・・」梅は驚いている。
「そうだね。猫は理屈っぽいから、会話はいつもこんな感じだよ」
「ねえ、ミーちゃんは私の事どう思っているか聞いてみて」
武は一抹の不安を感じながらもミーちゃんに話しかけた。
「ミーちゃんが、梅さんのことをどう思っているか聞きたいってさ」
「え? それ聞く?」
「仕方ないでしょ。どうしても聞きたいらしい。僕が忖度(そんたく)して伝えるからさ」
「まあ、いい人だと思うよ。親切だし。不満があるとすると・・・、出てくる食事が偏ってることかな?」
「どういう風に?」
「いつもの食事だと動物性たんぱく質が足りないんだよ。俺はもっと動物性たんぱく質が必要なんだ・・・。だから、他所でエサを貰って補ってる」ミーちゃんは遠慮がちに答えた。
「へー、大変だな。それは梅さんに伝えた方がいいよな」
武は梅さんに「ミーちゃんは動物性たんぱくが不足している」ことを説明した。
「そうなんだ、気付かなかった・・・」と梅さんはうなだれている。
その時、部屋のテレビから臨時ニュースが流れてきた。
“ピーチ・ボーイズがA地区に現れました。付近の人は外出を控えるようにして下さい!”
「ピーチ・ボーイズって誰? 危険なの?」武は梅に聞いた。
「シリアルキラーのマイケル・ピーチの子孫がリーダーをしているテロ組織よ。アイツらはこの惑星で指名手配されているの」
――例の桃太郎か・・・
武は面倒なことに巻き込まれないことを祈った。
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