48 / 80
第9回活動報告:SDGs詐欺師を捕まえろ
詐欺被害者に会いに行こう!(その1)
しおりを挟む
(3)詐欺被害者に会いに行こう!
総務省に戻った俺たちは、ジョーダンの『詐欺まがいの行為』の被害に遭っているだろう上場会社をリストアップすることにした。
ジャックの話では、ESGスコアを上げるために、太陽光発電施設のオペレーティング・リースをしている先が候補先となる。
ちなみに、ジャービス王国では10年以上前に再生可能エネルギーの発電量を増やすために、政策的にFIT(固定価格買取制度)を導入した。太陽光発電の場合、当初は買取価格を42JD/ kWhとしていたため、多くの会社が太陽光発電による売電事業に参入した。その後、kWh当りの買取価格は10JD代に落ちてきたから、売電事業に新規参入しようという会社はジャービス国内にはほとんどない。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
ジャービス王国において売電目的で太陽光発電施設を作るケースが少なくなってきたから、太陽光発電に使用する機材が余剰在庫として滞留するようになってきた。ジョーダンは安値で購入できる太陽光発電事業に目を付けたのだと俺は考えている。
俺たちは上場会社の統合報告書を精査して、ジョーダンの詐欺被害の候補先を調べることにした。
まず、ジャービス王国の上場企業は300社なので数がそれほど多くない。そして、上場企業であっても必ずしも統合報告書を作成しているわけではない。ジャービス王国の上場企業のうち統合報告書を作成している会社は50社だ。
※日本の場合、2022年1月~12月に統合報告書を発行した国内企業等は884社のようです。日本における上場企業の数は4,000社弱なので、約20%の上場企業が統合報告書を発行していることになります。
出所:KPMGジャパン『日本の企業報告に関する調査2022』
俺たちが上場企業の統合報告書を調べた結果、条件に当てはまる会社はロベルティ、ノヴァーラ、ピリアの3社だった。ちなみに、ジャックとの話に出た会社はロベルティだから、俺たちが見つけた会社は2つだけだ。時間を掛けたわりには大した成果はなかったわけだが、プロフェッショナルの調査とはそういうものだ。
ロベルティ、ノヴァーラ、ピリアの3社はいずれも製造業だ。工場等で使用する電力を再生可能エネルギーに置き換えていく計画を公表して、ESGスコアを上げて投資家にアピールしようとしている。
大量の電力を使用しないのであれば、環境対応を大してアピールできない。言ってしまえば、再生可能エネルギーを他社から購入すればいいだけだ。自社で太陽光発電施設を保有する必要はない。
俺たちは3社のうち、まずはノヴァーラに訪問して事情を聞くことにした。ロベルティはジャックが話していた会社なので『そこに訪問するのは芸がない』と思ったからだ。
***
ノヴァーラには俺、スミスとロイの3人で訪問した。ノヴァーラは中堅規模の精密機械メーカーでジャービス国内に工場を1つ有している。
俺たちが訪問したノヴァーラの拠点は本社と工場が併設されていた。営業所は国内外に幾つかあるようだが、営業以外の業務はこの拠点で行っているようだ。
俺たちが訪問すると担当取締役のジョヴァンニが応対してくれた。
事前にスミスが俺たちの調査内容をジョヴァンニに伝えておいたから、まずジョヴァンニは俺たちに、ノヴァーラの工場の屋根に設置されている太陽光発電施設を見せてくれた。
ジョーダンはロベルティの工場の屋根に太陽光発電施設を設置したようだから、俺は念のためにノヴァーラの工場の面積を事前に調べておいた。工場の土地面積は7,000㎡だった。
統合報告書によれば、発電出力2MWの太陽光発電施設を作る予定と記載されていたが、とても工場の屋根に太陽光パネルを設置できる面積はない。
屋根の広さは、せいぜいサッカー場1つ分(約2,000坪=6,600㎡)だろう。だから、設置できる太陽光パネルの発電出力は0.5MWだ。
ジャービス王国の日照時間は長いわけではない。この設置面積では会社が予定している発電出力2MWを確保できないことは明らかだ。
念のために、俺が「太陽光発電施設はここ以外に作る予定ですか?」と質問したら、ジョヴァンニは「いえ、特にその予定はありません」と答えた。
とすると、発電出力0.5MWの太陽光パネルしか設置できない場所で、発電出力2MWの太陽光発電施設を作ることができる、とジョーダンから説明されたのだろう。
―― これって詐欺罪に問えるのか?
俺はグレーな取引であることを理解した。
<続く>
総務省に戻った俺たちは、ジョーダンの『詐欺まがいの行為』の被害に遭っているだろう上場会社をリストアップすることにした。
ジャックの話では、ESGスコアを上げるために、太陽光発電施設のオペレーティング・リースをしている先が候補先となる。
ちなみに、ジャービス王国では10年以上前に再生可能エネルギーの発電量を増やすために、政策的にFIT(固定価格買取制度)を導入した。太陽光発電の場合、当初は買取価格を42JD/ kWhとしていたため、多くの会社が太陽光発電による売電事業に参入した。その後、kWh当りの買取価格は10JD代に落ちてきたから、売電事業に新規参入しようという会社はジャービス国内にはほとんどない。
※JD(ジャービス・ドル)はジャービス王国の法定通貨です。1JD=1円と考えて下さい。
ジャービス王国において売電目的で太陽光発電施設を作るケースが少なくなってきたから、太陽光発電に使用する機材が余剰在庫として滞留するようになってきた。ジョーダンは安値で購入できる太陽光発電事業に目を付けたのだと俺は考えている。
俺たちは上場会社の統合報告書を精査して、ジョーダンの詐欺被害の候補先を調べることにした。
まず、ジャービス王国の上場企業は300社なので数がそれほど多くない。そして、上場企業であっても必ずしも統合報告書を作成しているわけではない。ジャービス王国の上場企業のうち統合報告書を作成している会社は50社だ。
※日本の場合、2022年1月~12月に統合報告書を発行した国内企業等は884社のようです。日本における上場企業の数は4,000社弱なので、約20%の上場企業が統合報告書を発行していることになります。
出所:KPMGジャパン『日本の企業報告に関する調査2022』
俺たちが上場企業の統合報告書を調べた結果、条件に当てはまる会社はロベルティ、ノヴァーラ、ピリアの3社だった。ちなみに、ジャックとの話に出た会社はロベルティだから、俺たちが見つけた会社は2つだけだ。時間を掛けたわりには大した成果はなかったわけだが、プロフェッショナルの調査とはそういうものだ。
ロベルティ、ノヴァーラ、ピリアの3社はいずれも製造業だ。工場等で使用する電力を再生可能エネルギーに置き換えていく計画を公表して、ESGスコアを上げて投資家にアピールしようとしている。
大量の電力を使用しないのであれば、環境対応を大してアピールできない。言ってしまえば、再生可能エネルギーを他社から購入すればいいだけだ。自社で太陽光発電施設を保有する必要はない。
俺たちは3社のうち、まずはノヴァーラに訪問して事情を聞くことにした。ロベルティはジャックが話していた会社なので『そこに訪問するのは芸がない』と思ったからだ。
***
ノヴァーラには俺、スミスとロイの3人で訪問した。ノヴァーラは中堅規模の精密機械メーカーでジャービス国内に工場を1つ有している。
俺たちが訪問したノヴァーラの拠点は本社と工場が併設されていた。営業所は国内外に幾つかあるようだが、営業以外の業務はこの拠点で行っているようだ。
俺たちが訪問すると担当取締役のジョヴァンニが応対してくれた。
事前にスミスが俺たちの調査内容をジョヴァンニに伝えておいたから、まずジョヴァンニは俺たちに、ノヴァーラの工場の屋根に設置されている太陽光発電施設を見せてくれた。
ジョーダンはロベルティの工場の屋根に太陽光発電施設を設置したようだから、俺は念のためにノヴァーラの工場の面積を事前に調べておいた。工場の土地面積は7,000㎡だった。
統合報告書によれば、発電出力2MWの太陽光発電施設を作る予定と記載されていたが、とても工場の屋根に太陽光パネルを設置できる面積はない。
屋根の広さは、せいぜいサッカー場1つ分(約2,000坪=6,600㎡)だろう。だから、設置できる太陽光パネルの発電出力は0.5MWだ。
ジャービス王国の日照時間は長いわけではない。この設置面積では会社が予定している発電出力2MWを確保できないことは明らかだ。
念のために、俺が「太陽光発電施設はここ以外に作る予定ですか?」と質問したら、ジョヴァンニは「いえ、特にその予定はありません」と答えた。
とすると、発電出力0.5MWの太陽光パネルしか設置できない場所で、発電出力2MWの太陽光発電施設を作ることができる、とジョーダンから説明されたのだろう。
―― これって詐欺罪に問えるのか?
俺はグレーな取引であることを理解した。
<続く>
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
嘘つきカウンセラーの饒舌推理
真木ハヌイ
ミステリー
身近な心の問題をテーマにした連作短編。六章構成。狡猾で奇妙なカウンセラーの男が、カウンセリングを通じて相談者たちの心の悩みの正体を解き明かしていく。ただ、それで必ずしも相談者が満足する結果になるとは限らないようで……?(カクヨムにも掲載しています)
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
経営者を目指し、経営者になってからの男の道のり
ムーワ
経済・企業
筆者がまだ若かりし頃に出会った「経営者を目指し、経営者になってからの男の道のり」を描いた小説です。筆者が20代の頃、見た目は眼鏡をかけている細くて一見、真面目そうな風貌の男性でしたが、自信過剰なぐらいに年上の人に対しても自分の意見を主張する個性豊かな男でした。
学生の頃、予備校の講師のビデオを何千回も見てそのノウハウを取得しているとのことで、実際、彼が教える英語の授業は常に満員になるほど人気がありました。
だから彼は生徒からは人気があったものの、先輩講師には目をつけられていたし、いろいろトラブルもありたった1年で退職しました。
そんな彼が経営者になるまでの道のりや経営者になってから成功するまでの道のりを小説にしてみました。
主な登場人物
大山、経営者であり、この物語の主人公。
筆者、大山と一緒に仕事をしてきた男。
この小説の写真は当時、問題を作成していてまだ手元に残っていたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる