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回顧録4
遅れてきた反抗期(その6)
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(6)神童はとにかく反抗する
私が成人したダニエルに初めて会ったのは、内務大臣のチャールズと一緒にジャービス中央銀行に訪問してきた時だ。子供の頃のダニエルとは学校行事で何度か会ったことはあったが、大人になったダニエルを見たのは初めてだった。ダニエルは私のことを覚えていないようだった。
ダニエルは債券貸借取引の件でジャービス中央銀行にやってきた。ジャービス中央銀行が保有するジャービス国債を3,000億JD貸してくれと言っている。しかも、無担保で貸せと。
私が嫌がっていると、チャールズは機嫌を悪くして「じゃあ、そういうことだから」と言い残して部屋を出ていった。
ダニエルは去り際に私に「どんまい!」と言って会議室を出ていった。私に気を使ってくれたのだ。私は少しだけ『ダニエルはいい奴かもしれない』と思った。
次にダニエルに会ったのは、セレナ銀行の考査資料を見せてほしいと内部調査部から依頼があり、私が部下のダビドと一緒に対応した時だ。この時は、ルイーズもダニエルと一緒にやってきた。
ルイーズは最近私とあまり口を聞いてくれないのだが、その時も黙ったままだった。
それは、セレナ銀行の状況を説明し終わったので、そろそろダニエルたちが引き上げるかと思っていたころだった。ルイーズが「そういう銀行の暴走を食い止めるのが、ジャービス中央銀行の仕事じゃないかな?」とボソッと言った。
ルイーズの嫌味な言い方に私は怒りを覚えた。私はジャービス中央銀行の総裁として責任をもって仕事をしているつもりだ。ルイーズの発言に対して、私は職務を全うするため真摯に対応した。
すると、ルイーズは「そんなのは言い訳にならないわよ。職務怠慢じゃないかな?」と追い打ちを掛けてきた。
その時、私の怒りは頂点に達した。
「なんだとー? どうやればよかったんだ?」とルイーズに叫ぶ私。
「アホか? それを考えるのが、お前の仕事だろ?」と私に怒鳴り返すルイーズ。
こうして親子喧嘩がスタートした。
私たちの応酬はしばらく続いた。今思い返しても、他の参加者に申し訳なく思っている。
しばらくするとダニエルが私たちを止めに入った。
「まあまあ、お父さん。気持ちも分かりますけど、一旦冷静になりましょう」
この時、私は思わずダニエルに言ってしまった。
「ふん、お前なんかに『お父さん』と言われる筋合いはない。お前のことを息子と認めたわけではないからな!」
私はルイーズとの喧嘩の最中で頭に血が上っていたから、暴言を吐いたことも特に気にならなかったのだ。王子だし、娘の上司なのに、暴言を吐いた。そのことを今は申し訳ないと思っている。
そして、衝撃の事実を知った。
―― あの二人は付き合っているわけではない
ちょっとショックだった。でも、今までの二人を見ていた私には腑に落ちた。
そして、3度目は昨日開催された金融関係者の会議。経営危機にある銀行を救済するための会議だった。そこでもルイーズと喧嘩した。
ルイーズが私の発言に対して「余計なこと言いやがって・・・」と言ったからだ。
案の定、他の参加者は私とルイーズの喧嘩に引いていたが、私は特に気にしなかった。
結局、ダニエルが仲裁に入って親子喧嘩は終わった。
***
私には気付いたことがある。
―― ダニエルは案外いい奴なのかもしれない
だから、反抗期の娘を任せるのはアイツにしようと思う。
そのためには、サラと『異性として意識させる作戦』を再開しよう!
―― だって、面白いから・・・
私は趣味を再開することにした。
<おわり>
私が成人したダニエルに初めて会ったのは、内務大臣のチャールズと一緒にジャービス中央銀行に訪問してきた時だ。子供の頃のダニエルとは学校行事で何度か会ったことはあったが、大人になったダニエルを見たのは初めてだった。ダニエルは私のことを覚えていないようだった。
ダニエルは債券貸借取引の件でジャービス中央銀行にやってきた。ジャービス中央銀行が保有するジャービス国債を3,000億JD貸してくれと言っている。しかも、無担保で貸せと。
私が嫌がっていると、チャールズは機嫌を悪くして「じゃあ、そういうことだから」と言い残して部屋を出ていった。
ダニエルは去り際に私に「どんまい!」と言って会議室を出ていった。私に気を使ってくれたのだ。私は少しだけ『ダニエルはいい奴かもしれない』と思った。
次にダニエルに会ったのは、セレナ銀行の考査資料を見せてほしいと内部調査部から依頼があり、私が部下のダビドと一緒に対応した時だ。この時は、ルイーズもダニエルと一緒にやってきた。
ルイーズは最近私とあまり口を聞いてくれないのだが、その時も黙ったままだった。
それは、セレナ銀行の状況を説明し終わったので、そろそろダニエルたちが引き上げるかと思っていたころだった。ルイーズが「そういう銀行の暴走を食い止めるのが、ジャービス中央銀行の仕事じゃないかな?」とボソッと言った。
ルイーズの嫌味な言い方に私は怒りを覚えた。私はジャービス中央銀行の総裁として責任をもって仕事をしているつもりだ。ルイーズの発言に対して、私は職務を全うするため真摯に対応した。
すると、ルイーズは「そんなのは言い訳にならないわよ。職務怠慢じゃないかな?」と追い打ちを掛けてきた。
その時、私の怒りは頂点に達した。
「なんだとー? どうやればよかったんだ?」とルイーズに叫ぶ私。
「アホか? それを考えるのが、お前の仕事だろ?」と私に怒鳴り返すルイーズ。
こうして親子喧嘩がスタートした。
私たちの応酬はしばらく続いた。今思い返しても、他の参加者に申し訳なく思っている。
しばらくするとダニエルが私たちを止めに入った。
「まあまあ、お父さん。気持ちも分かりますけど、一旦冷静になりましょう」
この時、私は思わずダニエルに言ってしまった。
「ふん、お前なんかに『お父さん』と言われる筋合いはない。お前のことを息子と認めたわけではないからな!」
私はルイーズとの喧嘩の最中で頭に血が上っていたから、暴言を吐いたことも特に気にならなかったのだ。王子だし、娘の上司なのに、暴言を吐いた。そのことを今は申し訳ないと思っている。
そして、衝撃の事実を知った。
―― あの二人は付き合っているわけではない
ちょっとショックだった。でも、今までの二人を見ていた私には腑に落ちた。
そして、3度目は昨日開催された金融関係者の会議。経営危機にある銀行を救済するための会議だった。そこでもルイーズと喧嘩した。
ルイーズが私の発言に対して「余計なこと言いやがって・・・」と言ったからだ。
案の定、他の参加者は私とルイーズの喧嘩に引いていたが、私は特に気にしなかった。
結局、ダニエルが仲裁に入って親子喧嘩は終わった。
***
私には気付いたことがある。
―― ダニエルは案外いい奴なのかもしれない
だから、反抗期の娘を任せるのはアイツにしようと思う。
そのためには、サラと『異性として意識させる作戦』を再開しよう!
―― だって、面白いから・・・
私は趣味を再開することにした。
<おわり>
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