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第8回活動報告:銀行の経営破綻を食い止めろ
銀行の国有化(その7)
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(6)銀行の国有化 <続き>
俺とチャールズが雑談していると、国王が休憩から帰ってきた。国王は頭の辺りをさすっているから、きっとガリガリ君を急いで食べて頭が痛いのだろう。
家族会議が再開されて、チャールズが国王に説明を始めた。国王はチャールズが話した内容を静かに聞いている。俺の印象では、国王はサービサーによる不良債権処理について興味を持っているような気がする。リーマン・ショックでも不良債権処理は行われていたからだ。不良債権処理に伴う債務超過を回避するためにジャービス政府が出資することについては、国王はあまり興味がなさそうな気がする。
チャールズの説明を聞き終わると、国王が発言した。
「サービサーに銀行の不良債権を買い取らせて、不良債権を一気に処理するのか。悪くない考えだと思う。ドキュメンタリーでも似たようなシーンが出てきた」
―― やはり、テレビの影響は恐ろしい・・・
国王は基本的にリーマン・ショックのドキュメンタリーをなぞって、銀行の経営破綻を食い止めようとしている。でも、出来ることと出来ないことがあるから、出来ないことは出来ないと説明しないといけない。
俺がそう考えている間も、チャールズは話を進めている。
「そうですか。それは良かったです」
「ただ、ドキュメンタリーでは民間銀行が経営危機の金融機関を買収していたから、本当は民間銀行に救済させたいのだ。やはり難しいのか?」と国王は問うた。
「難しいと思います。ジャービス王国の民間銀行はそれほど規模が大きくありません。欧米の金融機関のように、セレナ銀行の債務超過を支えられるだけの体力はないでしょう。外国資本に頼るのは避けたいところですし・・・」
「そうか。民間銀行を共倒れさせても仕方がないか・・・。しかし、救済する民間銀行にジャービス政府が出資する案はどう思う?」と国王が言った。
俺とチャールズは顔を見合わせた。
―― 国王はどうにかしてドキュメンタリーを踏襲したいのだろうか?
―― それとも、チャールズに興味本位で質問しているのだろうか?
ジャービス政府からすれば、セレナ銀行等を救済する民間銀行に出資するのは、全く問題ではない。むしろ、セレナ銀行よりも財務的に健全な銀行に出資できるのだから、ジャービス政府には好ましいことだ。
しかし、民間銀行からすれば、自行には問題がないのに、問題のある銀行を押し付けられて、政府に監視されることになる(政府が出資しているため、経営の自由度が阻害される)。だから、ジャービス政府から出資されることは民間銀行にとって迷惑でしかない。
俺の推理が正しければ(これは流石に正解だと思う)、ジャービス政府の出資を受け入れてセレナ銀行を買収しようとする奇特な銀行は世界中どこを探しても見つからない。
一方のチャールズは、国王からの質問の返答に困っている。
国王に変な期待をさせても仕方ないから、俺は国王が傷つかないように気を付けつつ、説明することにした。
「それは難しいと思います。理由は、救済する民間銀行にジャービス政府の出資を受け入れるメリットが無いからです」
「メリットが無いとは、どういう意味だ?」と国王は俺に聞いた。
「ジャービス政府が出資すれば、民間銀行はジャービス政府から経営に口出しされます」
「そうだな。ジャービス政府が出資しているのだからな」
「銀行側にジャービス政府の出資を受け入れてもメリットがある場合は、出資の受け入れを検討すると思います。例えば、セレナ銀行はこのままでは経営破綻しますから、政府の出資を受け入れるでしょう。なぜなら、セレナ銀行は政府からの出資を受け入れれば、経営破綻を免れるからです。つまり、セレナ銀行にはジャービス政府の出資を受け入れるメリットがあります」
「そうだな」
「一方、財務内容が健全で何の問題もない民間銀行が、経営の自由度を犠牲にして、買収したくもないセレナ銀行を買収するでしょうか? 私が銀行の経営者だったら、民間銀行はわざわざジャービス政府に管理される状況は避けたいと思います」
「それは、断るかもしれないな」
「そういうことです。だから、ジャービス政府が民間銀行に出資して、民間銀行にセレナ銀行を救済させることは難しいと思うのです」
俺の説明を聞いて、国王は一応納得したような気がする。
国王は頷きながら家族会議の参加者に言った。
「今回の対応方針については概ね了解した。ただ、セレナ銀行とロサリオ銀行を民間銀行が買収しないと決めつけるのは良くないと思う」
―― え? 俺の話を聞いてた?
俺はそう思ったのだが、国王の話は終わっていないから、とりあえず続きを聞くことにした。
「民間企業が対応できることを政府が横からしゃしゃり出て対応するのは避けた方がいいだろう。実際に民間の大手銀行に確認して、民間銀行が買収しないことを確認した後、政府で対応するということでどうだろうか?」
国王の最後の抵抗だ。
俺たちは国王の提案を無碍に断る理由もないから、民間銀行の意向を確認することにした。
俺とチャールズが雑談していると、国王が休憩から帰ってきた。国王は頭の辺りをさすっているから、きっとガリガリ君を急いで食べて頭が痛いのだろう。
家族会議が再開されて、チャールズが国王に説明を始めた。国王はチャールズが話した内容を静かに聞いている。俺の印象では、国王はサービサーによる不良債権処理について興味を持っているような気がする。リーマン・ショックでも不良債権処理は行われていたからだ。不良債権処理に伴う債務超過を回避するためにジャービス政府が出資することについては、国王はあまり興味がなさそうな気がする。
チャールズの説明を聞き終わると、国王が発言した。
「サービサーに銀行の不良債権を買い取らせて、不良債権を一気に処理するのか。悪くない考えだと思う。ドキュメンタリーでも似たようなシーンが出てきた」
―― やはり、テレビの影響は恐ろしい・・・
国王は基本的にリーマン・ショックのドキュメンタリーをなぞって、銀行の経営破綻を食い止めようとしている。でも、出来ることと出来ないことがあるから、出来ないことは出来ないと説明しないといけない。
俺がそう考えている間も、チャールズは話を進めている。
「そうですか。それは良かったです」
「ただ、ドキュメンタリーでは民間銀行が経営危機の金融機関を買収していたから、本当は民間銀行に救済させたいのだ。やはり難しいのか?」と国王は問うた。
「難しいと思います。ジャービス王国の民間銀行はそれほど規模が大きくありません。欧米の金融機関のように、セレナ銀行の債務超過を支えられるだけの体力はないでしょう。外国資本に頼るのは避けたいところですし・・・」
「そうか。民間銀行を共倒れさせても仕方がないか・・・。しかし、救済する民間銀行にジャービス政府が出資する案はどう思う?」と国王が言った。
俺とチャールズは顔を見合わせた。
―― 国王はどうにかしてドキュメンタリーを踏襲したいのだろうか?
―― それとも、チャールズに興味本位で質問しているのだろうか?
ジャービス政府からすれば、セレナ銀行等を救済する民間銀行に出資するのは、全く問題ではない。むしろ、セレナ銀行よりも財務的に健全な銀行に出資できるのだから、ジャービス政府には好ましいことだ。
しかし、民間銀行からすれば、自行には問題がないのに、問題のある銀行を押し付けられて、政府に監視されることになる(政府が出資しているため、経営の自由度が阻害される)。だから、ジャービス政府から出資されることは民間銀行にとって迷惑でしかない。
俺の推理が正しければ(これは流石に正解だと思う)、ジャービス政府の出資を受け入れてセレナ銀行を買収しようとする奇特な銀行は世界中どこを探しても見つからない。
一方のチャールズは、国王からの質問の返答に困っている。
国王に変な期待をさせても仕方ないから、俺は国王が傷つかないように気を付けつつ、説明することにした。
「それは難しいと思います。理由は、救済する民間銀行にジャービス政府の出資を受け入れるメリットが無いからです」
「メリットが無いとは、どういう意味だ?」と国王は俺に聞いた。
「ジャービス政府が出資すれば、民間銀行はジャービス政府から経営に口出しされます」
「そうだな。ジャービス政府が出資しているのだからな」
「銀行側にジャービス政府の出資を受け入れてもメリットがある場合は、出資の受け入れを検討すると思います。例えば、セレナ銀行はこのままでは経営破綻しますから、政府の出資を受け入れるでしょう。なぜなら、セレナ銀行は政府からの出資を受け入れれば、経営破綻を免れるからです。つまり、セレナ銀行にはジャービス政府の出資を受け入れるメリットがあります」
「そうだな」
「一方、財務内容が健全で何の問題もない民間銀行が、経営の自由度を犠牲にして、買収したくもないセレナ銀行を買収するでしょうか? 私が銀行の経営者だったら、民間銀行はわざわざジャービス政府に管理される状況は避けたいと思います」
「それは、断るかもしれないな」
「そういうことです。だから、ジャービス政府が民間銀行に出資して、民間銀行にセレナ銀行を救済させることは難しいと思うのです」
俺の説明を聞いて、国王は一応納得したような気がする。
国王は頷きながら家族会議の参加者に言った。
「今回の対応方針については概ね了解した。ただ、セレナ銀行とロサリオ銀行を民間銀行が買収しないと決めつけるのは良くないと思う」
―― え? 俺の話を聞いてた?
俺はそう思ったのだが、国王の話は終わっていないから、とりあえず続きを聞くことにした。
「民間企業が対応できることを政府が横からしゃしゃり出て対応するのは避けた方がいいだろう。実際に民間の大手銀行に確認して、民間銀行が買収しないことを確認した後、政府で対応するということでどうだろうか?」
国王の最後の抵抗だ。
俺たちは国王の提案を無碍に断る理由もないから、民間銀行の意向を確認することにした。
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