タンブルウィード

まさみ

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六話

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目の前に全裸の哥哥がいる。シャワー上がりで全身から雫が滴っていた。額に張り付いた濡れ髪がなんだか新鮮。若作りな印象を与えんのはそのせいか。右半身の鱗は髪の生え際から爪先まで覆ってた。

愛撫の最中、ゴツくて固い指輪が肋骨にあたる。

「痛いんで外してください、よ」
「よくいうぜドM。痛くされんの好きだろ」

体の反応を恥じて俯けば、伸びた前髪を掴んで上げさせられた。色悪っぽい笑顔が目の前に迫る。

「先っぽから気持ちよくなんのは男の証拠」
『女の子は穴を使って気持ちよくなるの、そっちはいらないでしょ』

本当、笑っちまうくらいにあの人と正反対だ。
含み笑いが幻聴を蹴散らす。両手でシーツを掻きむしり、窄めた爪先に巻き込む。ふとした瞬間正気に立ち返る思考を与えられる熱と快楽が散らす。

「ッは、」

哥哥の手付きは荒っぽい。全然優しさが足りねえ。
そうあきれたそばから、ゴツい指輪を手がペニスを捏ねだす。意外。まだるっこしいのが嫌いな性格上、前戯はすっとばすかと思ったのに。

「そこ、さわるんですね」
「蛇はねちっこくて絶倫だかんな」
「大丈夫っすよ、痛いのは慣れてるし。もったいぶんないでとっとと突っ込みゃいいでしょ」
「強姦されんのが好きとか倒錯してるぜ」

哥哥があきれる。俺だって痛いのはお断りだしできるだけ避けたいが、優しくされんのも居心地悪ィ。

アンタを焚き付けたくて寝るのに、俺が可愛がられたんじゃ本末転倒だ。

もちろんそんな本音口に出せない。口に出したらぶっ殺される。
指輪の固さと冷たさにひやりとする。哥哥が鈴口に親指をひっかけ、残りの指を巧みに動かす。

「毛が薄いな」
「ッあ、ぁっあ」

芯から震えが走るほど気持ちいい。思わず声が上擦る。自分でやるのと違い、他人にしてもらうのは格別だ。
普段俺を虐げてる男に敏感な先端をいじくり倒され、強烈な背徳感が背筋を貫く。

「センズリしてんの?」
「そりゃ俺も男ですから、ね。たまれば出します。小便と一緒ですよ」
「オカズは何だ」
「ないです、よ。ただ目ェ瞑って擦りまくるんです、したら勝手に大きくなります」
「嘘吐くなよ」

蛇の目に見破られた。

「ほらでかくなった。ウリ専時代どんな変態に抱かれたか言え」
「命令っすか」
「余興」
「ホント性格悪……」

高圧的に促され、射精を先送りにしたい一心でウリをしていた頃のことを話し出す。

「色んなヤツがいました。エグいエロ下着穿かせようとする汗かきデブ、オモチャ好きなオッサン、大股開きでオナニー強制する野郎……しまいにゃアナニ―までさせられました」
「本番以外はあらかたか。ヤるじゃん」

軽薄な口笛を吹く。

「モーテルの風呂場で放尿プレイも……」

羞恥に苛まれて語尾が萎む。
結論から言えば、俺に寄ってくんのはよそで爪はじきにされた変態ばっかりだった。美形でもテクがある訳でもない、オーラルセックス専門の男娼の使い道なんて限られてくる。実際本番以外なら大抵の要求にこたえてきた。

俺の取り柄は若さと嗜虐心をくすぐる童顔、発育不良で肋骨が浮いた薄っぺらい体だけ。売春は生きる為の手立てだった。

「他は」
「鏡の前でやらされました」
「テメェの痴態をオカズに抜いたの」
「……っす」

真っ赤になって告白する。
モーテルの安っぽい部屋、煙草の煙に燻された壁紙。ひびが入った鏡に暴き立てられるのは、大股開きで竿をしごまくるガキ。
身に纏うのはシースルーのベビードールと蝶々の装飾が股当てに付いたパンティーのみ。横紐部分は小粒のチェーンになっていて、尖った恥骨がひんやりした。

「なるほどねェ、ウリ専時代にエロ下着貢がれた反動で悪趣味な柄シャツに宗旨替えしたのか」
「アレは好きで着てるんです。かっこいいじゃないですか」
「それはそれで趣味疑うぜ」

思い出話の間も手は止まらずぬちゅぬちゅペニスを育て上げる。
指輪がペニスの骨に当たって痛い。なのにそれが気持ちいい。
骨ばった手が鈴口に滲む汁を繰り返しすくいとり、くびれを絞って竿を擦り立てる。

「ッあ、ンっふ、ぁぐ」

ねちっこい責めにぞわぞわして腰が浮く。喘ぎ声を聞かせるのが癪で、手の甲を噛んで必死に耐える。

「も、十分っす。とっとと入れてください、ッは」
「随分なお言葉だな、ちょっとでもうまく食べる為に下ごしらえしてやってんのに」
「イロモノ好きのゲテモノ食いがよく言いますよ」
「俺様ちゃんの舌を馬鹿にすんなよ」

ご自慢の二枚舌をチラ付かせて茶化す。
一方的にもてあそばれるのにムッとし、股に被さる手を掴んで引っぺがす。

「俺にもしゃぶらせてください」

わざと露骨な言い方で挑発する。哥哥が面白そうに片眉を跳ね上げる。
体勢を入れ替え這い蹲り、見事な貫禄を備えた長いペニスに手を添える。
根元あたりに煙草の火傷の痕があった。
ツッと指を滑らし、なでる。
続いて腰と脇腹に穿たれた弾痕に指を移し、頭から尻まで古い切り傷をなぞっていく。
雄臭く蒸れた匂いが鼻腔を突いた。呉哥哥が憎たらしくおどけてみせる。

「傷フェチかよ。気色悪」
「セックスん時ほくろの数かぞえんのはお約束っしょ」
「それは女とやるから燃えんだよ」
「野郎じゃ燃えませんか」
「ていうか、お前じゃ萌えねー」
「イケズっすね」

全身に穿たれた夥しい傷はこの人が生きてきた証。さわれば強さと悪運を分けてもらえる気がした。
笑いたくなる。
同時に泣きたくもなった。
下っ腹の弾痕にキスをし、柔く皮膚をはむ。しょっぺえ。下顎のくぼみに唾をため、手のひらに吐いて薄く伸ばし、それをペニスに塗していく。蛇使いになった気分。

「ん、ぐ」

丁寧に塗し終えたのち、意を決して口を開いてカリ太の亀頭を咥える。
さすが哥哥のブツ、圧迫感がすげえ。

「歯ぁ立てたらあばらへし折るぞ」

どこまで本気かわからない笑いを含んだ声で低く脅された。えずきそうになるのを辛うじて堪え、上顎のぬるぬるした粘膜に擦らせる。俺の口ん中は開発されてる、フェラチオだけでイケる位敏感だ。

「ッは、ふ」

頼むから出てくるなよダドリー。息苦しさが気持ちよさに裏返るのを待ち、唇と口と舌で奉仕を続ける。だしぬけに頭を押さえ込まれた。目だけで見上げりゃ哥哥が皮肉げに嗤ってる。

「その程度?口で稼いでたんだ、喉マンコはもっと奥行あんだろ」

次の瞬間、毟られそうな勢いで前髪を掴んで突っ込まれた。

「ぐ!」
「ずっぽり奥まで咥えこめ」

生臭く塩辛い異物が喉に閊える。
哥哥がさらに髪を揺する。喉の筋肉が収縮し、ひと回りでかくなったペニスを刺激。

「けはっ、ンっぶ、ちょっ待」

こみ上げる吐き気と戦いながらイマラチオを続けるうち酸欠で頭が朦朧とし、生理的な涙が視界をぼかす。喉の奥が不規則に痙攣し、暴れん坊がまた膨らむ。

「涙と汗と洟水と、きたねー汁でぐちゃぐちゃだな。お前はいじめられてる時が一番そそるよ」
「俺も……アンタにいじめられてる時が、一番生きてるって感じします」
「マジか。終わってんな」

漸く解放された。頭皮がじんじんする。
力尽きて倒れ込みかけるのを気力だけで踏ん張り、覇気のない憎まれ口を叩く。

「今じゃ立派にビッグスネイクっすね」

酷使された顎関節が鈍く痛んでだるい。
顎を拭い一休みしたのちフェラチオ再開、片方の手を後ろに回す。ツプ、人さし指がアナルに沈む。

「ンっ、く」

哥哥にケツをほじらせるわけにゃいかない。俺は奉仕する側、この人はされる側だ。
半勃ちのペニスに片手を添えしゃぶる傍ら、残りの手でケツをほぐしておく。

「んっ、んっ、んンっ」

くそ、喘ぎ声が止まんねえ。片手で口を封じたくてもそっちは塞がってる。
アナルに突き立てた指が前立腺を掠める都度、気持ちよさともどかしさが募りゆく。

「ふぁッ、んんッぁ」

ふやけた口元から一筋涎が伝いシーツにしみる。指を二本から三本に増やしぐちゅぐちゅ中をかき回す。口も疎かにできねえ。
垂直に屹立する蛇を繰り返しなめ上げ、丸い亀頭を夢中で頬張り、徐々に張り詰めてきた睾丸まで含んで吸い立てる。

「前と後ろどっちも欲張り大忙しだな。喉マンコで食い締めるのとどっちが利くよ?」

返事を返す余裕はねえ。べと付く顎が気持ち悪ィ。
無色透明のカウパーが後から後から分泌され、苦い濁流が喉を滑り落ちていく。

「哥哥、哥哥」

上の空で名前を呼ぶ。甘えるように媚びるように連呼する。孔をほじるだけで前がもたげ、ぱたぱたと雫を零す。

今の俺を見たらあの人はなんていうだろうか。
俺を買った客たちはまた欲しがるだろうか。
あの人の仕込みのおかげで孔でよくなるコツを掴んだんだから、感謝しなけりゃばちが当たる。

「我也想要、我想快点拿到那个」

俺も欲しい。早くほしい。もうまちきれない、ブチこんでほしい。
勃起したペニスを一旦抜き、切なげな内股でせがむ。その間もケツに突っ込んだ指は止まらず、前立腺を押し続けていた。

「いいじゃん。ぞくぞくする」

俺の痴態に煽られた哥哥が、両肘を掴んで押し開く。どうしても雄々しくそそり立った股間に目が吸い寄せられる。下っ腹が熱く疼いて、口角が皮肉に吊り上がる。

「俺、生バージンだけどどうします?」

虚勢と媚態をごたまぜにして訊く。呉哥哥の顔が極端に近付く。

「病気はもってねえよな」
「当たり前じゃねっすか」
「コンドームは」
「童貞なめねえでください、持ってるわけないじゃないですか」
「だよな。野郎とヤんの久しぶりだよ」
「女にするみてえな気遣いは無用です。だてにアンタの舎弟してません、俺の打たれ強さ知ってんでしょ」

可愛がられんのは居心地悪い。優しくされるといたたまれねえ。
俺の葛藤を見通すように哥哥が酷薄に笑む。

「女として抱かれるか男として犯されるか選べ」
「男」

間髪入れず即答した。
前者を選んだら何が変わるのか聞いてみたい気がしたが、やめた。正常位で向き合い、自ら進んで首の後ろに手を回す。

「アンタの女にしてもらおうとかこれっぽっちも思ってねえんで、安心してください」

この判断が正しいのかわからねえ。
正しいか間違ってるかでいえば、きっと間違ってる。

だからなんだ?
今までずっと間違い続けてきたのに、今さら真っ直ぐな道を歩けるか。

童貞バージンなんて大事に持ってても腐るだけっしょ」

この先一生誰ともセックスなんかせず、ただ枯れ果ててくんだと諦観していた。

他人に抱かれる事も抱く事もない人生。
虚しさと寂しさを持て余し、緩慢な自殺を続ける余生。

それでもいいと思ってた。
それがいいと思ってた。

なのに今夜アンタの弱みを見ちまって、どんなくそったれた過去や地獄の道のりも乗り越えてきた気概に惚れ直して、抱かれる覚悟ができちまったんだ。

「遠慮いりません」
「好」

返答は短い。
俺の決意を一言褒めるや、膝を掴んでこじ開ける。

「!ッぁ、」

息を詰めて背中に爪を立てる。怒張がめりこんだケツの穴がみちみち広がり、括約筋がわななく。
痛い痛い死ぬほど痛てえなんだこれおかしくなる、振り落とされないようにしがみ付いて声にならねえ絶叫を上げる。

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッぁぁ」

念入りにほぐしてたんで裂けこそしなかったが、凄まじい激痛と圧迫感で目の裏が赤く染まる。
続けざま腰を打ち込まれ、粘膜を巻き返し直腸を滑走する肉棒によがり狂い、広く逞しい背中をひっかく。

「哥哥痛ッ、あぐっぁあっすごっ、ぁッぬいてっキツっ、はぁっすげッ」

指やオモチャとは比べ物にならない快感が爆ぜ散り、無意識に振り回した手が枕元の灰皿をひっくり返す。
パッと吸い殻が飛び散り、床に叩き落とされた灰皿が独楽みてえに回る。

「ぁッ、あッ、あぁッそこっいっ、いくっ、ぁっああッ、あ」

瞼の裏を走馬灯の如く駆け巡る顔、顔、顔。『女の子は穴で気持ちよくなるの』俺を罵るあの人の顔『しっぽを振れ牝犬』俺を蔑むダドリーの顔『可愛いね』『股を開け』『気分出してしゃぶれよお姫様』『女の子みたいな声で喘ぐんだね』『パンティーの真ん中にエッチなお汁が染み出してるよ、いけない子だ』

結局の所俺は男で、どうあがいても女になれねえ。
なのに本当に気持ちよくなれんのは後ろの穴を使った時で、それが死ぬほどみじめで悔しかった。

「泣くほどいいのかよ」
「あっ、ンっあ、ふぁっ、ンっぐもっや、奥あたっ、ぁあっッあ」

哥哥はキスをしてこねえ。
別にいい、それでいい。捌け口として使ってもらえりゃいい。男として犯されるのは俺自身が望んだことで、女として甘やかされるのは望んじゃねえ。

「もっと食って太れよ、骨がゴツゴツ当たって痛てえ」
「ぁっ死ぬっ無理、これ以上ッは、かはっ」

体ン中で太くて長い蛇が暴れ回る、腹を食い破って出てこようとしてる、ポルノの産卵シーンが脳裏を過ぎりパニックを引き起こす。

「ッ、食い締めてきやがる」

キスの代わりにあちこち噛み付き、指輪をはめた手で痩せた脇腹を揉みしだき、下ごしらえ万全のケツに出し入れする哥哥。
オモチャや指じゃ得られねえ熱と鼓動がずくんずくん響き渡り、十分潤んだ粘膜同士が擦れあって深い悦びが生まれる。
肉襞を伸ばし巻き返し奥まで貫く。
泣いて頼んで謝っても許してもらえず、正常位に飽きたら後ろ向きに犯し、うなじや肩口に歯を立てる。
肉を噛まれる痛みが被虐の快感に結び付き、下半身がずくんと疼く。

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ぁあああぁッ」

出る。
奥までみっちり埋まると同時に射精に至り、白濁が飛び散った。俺がイッても哥哥はやめてくれず、かえって抽送のスピードを上げる始末。

「イッて、もういった、等等たんまッ、ふぁっあ、ぃってすぐくるしっ、腹ぐちゃぐちゃでおかしっ、ぁあっあ対不起、ゆるしっ、頭へんっ、に、ふっぐ、ぁっあ」
「男だろ?股関節脱臼する位根性見せろ」

ドライオーガズムの波にさらわれて突っ伏す、シーツを掻きむしり逃亡を企む端から引き戻されまた喰われる、ケツが痛くて気持ちよくて何度も何度も絶頂する。

「なあ劉、お前は俺のもんだ。さっきそういったよな」

へばった腰を片手で引き立て、片手を股ぐらに持っていき、出涸らしっきゃ出ねえ俺のペニスをいじめまくる。

「ぁっ、ンっぐ、ぁあっあ、言った、言いました」

立て直したそばから肘がずり落ち、シーツを巻き込んでまた突っ伏す。息も絶え絶えに返す俺のケツに萎える気配のないブツをぶちこみ、今度は口に指を入れてきた。

「んッむ、んぶ」

唾液に溶ける金属の味。指輪が前歯に当たって痛い。俺の顎を開きっぱなしで固定し、膝立ちにさせた上でバックからゴリゴリ犯し、うっそり囁く。

「黒後家蜘蛛を捕まえるにはお前の糸が必要だ。俺はアイツの首級クビを手土産にして上に行く、うまくいったら幹部に取り立ててやっから手伝えよ」

舌の先端から垂れ落ちる唾液の糸。驚きをもって聞き返す。

「邪道を、ッふ、覇道にするんですか」
「蛇の道は蛇ってな」

半端に捲れたブラインドから差し込むネオンに、色悪を地でいく笑顔が映える。
俺が蟲中天の幹部……全く想像できねえ、壮大な夢物語に聞こえる。
湧き上がる疑念は腰の動きで散らされた。哥哥が肩に顔をのっけて囁く。

「黒後家蜘蛛を捕まられたら俺様ちゃんのグラサンやる」
「いらねえ、よっ!」
「え~なんでだよ、かっこいいのに」
「チェンジ。他ので。モルネス百カートンとか」
「せこい。一万カートンくれてやる」
「部屋に入りきらねえんで遠慮します、床が抜けたら困る」

哥哥と俺の汗が混ざってシーツを濡らす。
ペニスが狙い定めて前立腺を突きまくり、腰の動きが加速して茹だっていく。

「んじゃ稼ぎ名は?まだねえよな」
「名付け親になってくれるんすか、ッは、そりゃ光栄」
「候補は上げてある」
「どんな?」
「ネタバレしちまったらご褒美になんねーだろ」
「ぁッ、あッ、あっあっぁッ」

また来る。
腹ン中の蛇がめちゃくちゃに暴れだす、絶頂が近付いた哥哥に激しく突き上げられて悶絶する。
壊れそうに軋むベッドの上、俺の体内に余さず精を吐き出した男が満足げに言った。

「お前にゃもったいねえ名前だよ。期待して待っとけ」
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