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Revenge
しおりを挟む低く翔んで高く堕ちる。
高く翔んで低く堕ちる。
あれは廃墟のガソリンスタンド。抜けるようなインディアンサマーの空の下、周囲には乾燥した荒野が広がっている。
風に吹かれて転がる枯草のかたまりが寂寥感を引き立てる景色の中、手製のスリングショットを携えた少年が途方に暮れてたたずんでいる。
あれは俺だ。昔の俺。まだ13かそこらの……スワローによく泣かされていた頃の。
ピジョンはハトになっていた。ガソリンスタンドの庇にとまり、白い羽を畳んで地上を観察している。
明らかに寸法が大きすぎるずたぼろのモッズコートを羽織った少年は、スリングショットのゴム紐を引っ張っては離し、ドラム缶の上に並べた空き缶を狙っている。
よくやったよな。
毎日毎日飽きもせず手に豆を作って、その豆が破れてまた固くなるまで練習を繰り返して。
折しも強い風が吹いて濛々と砂塵を巻き上げる。遠近感を掴み損ねて弾道が狂い、番えた小石があらぬ方向へ飛んでいく。少年は肩を落として落胆し、すぐまた顔を引き締めてスリングショットを構える。せっかちな瞬きで砂粒を追い出し、ただひたむきに、ただひたすらにひたむきに、潤んだ目で狙いを付ける。
集中力を限界まで高めて放て。指はトリガー、身体は一個の装置。
大丈夫、必ずできるはず。信じるんだ。恐怖を克服しろ、試練に打ち勝て……
「ぶぁーか、なーにが面白いんだっての」
くちゃくちゃガムを噛む音に振り向く。傍らのドラム缶に腰かけていたのは黒いタンクトップにスタジャンを羽織った少年。
太陽に透けたジンジャエールさながらイエローゴールドの髪が無造作に跳ね回り、すこぶる整った顔立ちを縁取っている。胸元には兄とおそろいのドッグタグが揺れていた。
「水をさすなよスワロー、せっかくいい調子だったのに」
「そりゃ失礼。で、軟弱ビビりの我が兄貴サマは今日も今日とて空き瓶に玉あてごっこか。動かねえものを撃ってなにが楽しいんだ?犬猫ならまだわかるが」
地上で兄弟喧嘩を繰り広げる二人。懐かしいデジャビュ。
アイツはこういえばああいうし俺はこういえばああ返す、俺たちはあの頃からちっとも変わらない……
本当にそうか?
変わってないなんてなんで言いきれる?
帰りたい、と思った。強烈な郷愁に駆り立てられ力強く羽ばたく。風を生んで飛翔する寸前、衝撃が胸を貫く。地上にたたずむ少年が、子供時代のピジョンが無表情にスリングショットを構えていた。
撃ち落とされた。
血のかたまりが喉を塞ぐ。羽を閉じて墜落する。地面に横たわるハトを見下ろし、少年が呟く。
「なんだ。お前、弱いまんまじゃないか」
俺が弱いって?
「手も足も出ない?起き上がる気力も尽きた?」
子供の頃の自分が憐憫をたたえて嘆き、子供の頃のスワローがあきれ顔でやってくる。
「ちんたら寝てんじゃねーぞ、ヴィクテムを払わせてこいよ」
犠牲者。被害者。餌食。生贄。俺が忘れちゃいけないもの。
まだ終わらない。
まだ終われない。
子供たちは隣の部屋に捕まったまま、このままじゃ売り飛ばされて消息が掴めなくなる。臓器を抜かれるか変態の慰み者になるか、どのみちろくな死に方はしない。
賞金稼ぎを目指したのはどうして?
有名になりたいから?母さんを楽させたいから?いい暮らしをしたいから?……否定はしない。
だけど本当は、犠牲者を出したくないからだろ。それが一番の理由だろ。
力尽きて閉ざした目を再び開き、鳥脚から人間に戻った手で地面を掴む。まだイケる。まだヤレる。これで終わりなもんか。
反撃開始だ。
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