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十八話
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無骨なジープが空き瓶をはねとばし路地を下っていく。
「畜生ばかっ、早いとこ開けろって!」
「お願い出してよお、真っ暗怖い……」
「せんせぇ、シスターあぁ……」
荷台に積んだ袋が往生際悪く蠢く。
くぐもった声で泣き叫ぶ子供たちを、荷台に片膝立て座ったダークネスが脅かす。
「せやからやかまして」
ドスの利いた一喝に続き、ゴツいブーツで荷台を蹴り付ければ子どもたちが大人しくなる。
運転席でハンドルを握るゴーストが振り返り、気短な弟に注意を飛ばす。
「あんまびびらせんなやダーク。ウチの大事な商品さかい、もうちょい丁寧に扱え」
「手ェ上げてへんもん」
「足上げたやろ」
「蹴ってへんもん、あんじょうガマンしとるんさかい褒めてやビッグブラザー」
「よーしよし、おどれはほんまアホでええ子やな」
「へへ、せやろせやろ。ビッグブラザー自慢のリトルブラザーやろ」
心酔する兄に働きを褒められ、ダークネスが鼻高々にふんぞり返る。
荷台に乗りこんだ仲間はあきれ顔だ。中にはあからさまに馬鹿にした笑みを浮かべ、処置なしと首を振る者もいた。
連れの嘲笑をバックミラーで一瞥、ゴーストが不愉快そうに眉根を寄せる。
運転席へと身を乗り出すダークに、ゴーストが冷めた苦言を呈す。
「リトルブラザーのリトルブラザーはちょいとオイタが過ぎるんが玉に瑕やな」
「それをゆーなら竿にキズやろ」
「黴菌入ってもげてまえ」
「シスターのことゆうとるんなら堪忍してや、仕入れ先の女は有り難ういただかな」
「ビョーキやぞ」
「役得いうてや。あっちかて最後の方はケツ振ってあんあん喘いどったで、せやろガキども」
「ウソツキ、いじめてたじゃない!」
「シスターは嫌がってたぞ!」
猫娘とネズミ小僧の抗議に渋い顔をするダークをよそに、ゴーストは哄笑を上げる。
ダークは拗ねて胡坐を組む。
「ビッグブラザーこそ、なんでとどめささんかったん?一匹逃がしてもて」
「あんなちまいの試し斬りにもようならんわ。的はデカいほうが気持ちええ」
ゴーストは鼻を鳴らす。
運転席の兄は日本刀を背負っていた。使い込んだ業物だ。試し斬りを重ねると脂が乗りすぎて切れが鈍ると聞いた。ゴーストは物知りだから、乱用による武器の劣化を避けたに違いない。
ゴーストが場違いに陽気な声で暴露する。
「序でにゆーと逃がしたんは一匹ちゃうで、他にも何匹かおった」
「マジでか。ええのん」
「欲をかくとろくなことにならん。全員かっさらったかて賄いきれん手間が増えるだけや」
「おのれの分を知るんも大事やで、ダーク」と諭され反省した。さすがに兄は一枚上手だ、先々の事までちゃんと考えている。
ジープは夜を駆け、ボトムのさらにどん底に向かっていた。
この辺りは廃墟しかない一際寂れた区画だ。
ジャンキーとプッシーの巣窟であり、道端には当たり前に死体が転がっている。
あと1ブロックでゴースト&ダークネスがねぐらにしている廃墟のモーテルに着く。
「しっかしラクな仕事だったな、かけっこしてるガキを捕まえるだけでいいなんて」
「警備も手薄だしよ」
「ミュータント狩りが楽しめたぜ」
「上玉に預かれたし言うこたねェ」
「ほなら報酬はいらんな」
下品に騒ぐ男たちにゴーストが聞けば、冗談ととった連中が大いにウケ、「おいおいそれはねェだろ」と笑い転げる。
ダークは上着の中に手を入れて肌を掻き毟りだす。
「あ~~~かゆ」
「どないしたん」
「教会なんて出入りしたからじんましん出てもた、かゆうてたまらん」
「チンコの毛じらみが回ったんちゃうか」
「チンカスならちゃんと流しとるて、嘘思うんなら嗅いでみい俺の陰毛フレグランス」
「誰が嗅ぐかアホくさ」
ガリガリと血がでる勢いで素肌をひっかく。
荷台では男たちの馬鹿笑いが響く。仲間でも友人でもない、たまさか利害が一致して組んだだけの同業者。
今回の襲撃は大掛かり故に人手が要った。ボトムを徘徊しているゴロツキに声をかけたら、瞬く間に寄り集まった。報酬は前払い、成功すればさらにその倍の取り決めだ。
ダークはムッツリして体を掻きまくる。
ガリガリ、ガリガリ、せっかちに。
ゴーストは人さし指でハンドルを叩く。
トントン、トントン、リズミカルに。
バックミラー越しに目が合うや、酷薄な笑みと眼光を取り交わして頷く。鏡が切り取るゴーストの後ろでは、男たちが酒を回し飲みしていた。
「ここがねぐらかよ、シケてんな」
「文句言うなや、さっさと降り」
ジープが廃モーテルの駐車場に滑り込み、タイヤがアルファルトを噛んで停止。荷台のゲートが開き、男たちが口々に文句を言いながら降り立ったあと、手から手から子供が詰まった袋を渡していく。
「101号室にまとめて閉じ込めき。中に檻がある」
「人使いが荒ェな」
腕毛が密生した男がそばの袋を掴み、さもいやそうに仰け反る。
「げっ、漏らしてやがる」
「どうりでくせえと思ったら」
「大じゃねェだけマシだろ、さっさと行った」
弱々しくもがく袋の底に失禁の染みが広がっていく。
一人が大袈裟に鼻を摘まみ、別の一人が囃し立てる。他の男は袋の上からパンチをし、呻き声が漏れるのを面白がっていた。
「うぐうっ、ぁぐ」
「なあゴースト、部屋で味見していいか?待ちきれなくてさ」
袋を引きずった男が舌なめずりをする。地面に下ろされた袋からシーハンの嗚咽が漏れる。
「イレギュラーの穴が使い物になるかどうか、試してやる」
袋の中の子どもたちは皆怯えきっている。もはや逃げ出す気力さえ奪われて、けだもの達の嬲り者にされている。
目の前で行われた襲撃とシスター凌辱のショックはいかばかりか、チェシャとハリーもすっかり大人しくなってしまった。
ゴーストはジープの車体に凭れて煙草を喫っていた。
隣にダークがやってきて、兄に並ぶ。まだ上着をはだけて肌を掻いている。
「ん」
ダークが顎をしゃくってねだればゴーストは「しゃあないやっちゃな」と苦笑い、弟の口に吸いさしを突っ込む。
駐車場には子どもたちの嗚咽と呻き声、男たちの哄笑と罵声が充満していた。
ダークは冷めきった目で男たちの乱暴狼藉を眺め、ゴーストに耳打ちする。
「じんましんの理由わかったわ」
「なんや」
「アイツらや」
親指の背で下卑た男たちを指す。
「アイツらがおるからや」
ダークの声は本気だった。目は楽しげに嗤っている。
ゴーストは無表情のまま、唇だけ嘲笑の形に歪め、弟の髪の毛を荒っぽくかき回す。
「たまに賢いやん、ジブン」
ゴーストとダークネスは二人一組の賞金首だ。
番のライオンに仲間はいらない。
ゴーストが車から背中を起こし、猫科の肉食獣めいた足取りで駐車場に歩み出す。
「そろそろ報酬山分けせなな」
物欲しげな男たちの目がゴーストに集中する。ゴーストは後ろに手を回し、日本刀の柄を掴む。その間も歩みは止めず、落とさず、高らかに嘯く。
「欲しがりは前に出さらせ」
我先にと踏み出す男たちの眼前でダークが懐に手をやり、盛大に幣をばらまく。
「よう考えたらコイツが擦れてかゆうなったんかも」
陰鬱な夜空一面に舞い、緩やかな軌道を描いて駐車場に降り注ぐ札びら。
「おい待て、そりゃ俺の取り分だ!」
「ガッツくんじゃねえ、てめェはあっちで遊んでな!」
他人のカネを毟り、また毟り返し、半狂乱で駐車場を転げ回る男たちは互いにじゃれかかるライオンに似ていなくもない。
今しも宙を滑り落下した一枚の紙幣に飛び付く男、剛毛の生えた腕の先にゴーストが立ち塞がる。
鋭い呼気を吐き、柄に手をかけた日本刀を一閃。
男の腕が肘の付け根から切断され、見事に飛んだ。
「え?」
突然の事態に間抜けな声を漏らす。
腕は鮮やかな切断面をさらし、動脈から大量の血を噴く。
目の色変えて紙幣をかき集めていた男たちが硬直、引き攣り笑いで凍り付く。
「何の真似」
続きは言わせない。ゴーストの反応は素早い。白刃の軌跡が宙を疾り、別の男の首をはねとばす。
「テメエ、裏切ったのか!!」
「計画通りや」
呆れるゴーストの後ろ、両手にメリケンサックを嵌めたダークが男を殴り付ける。骨がへし折れ肉がひしゃげる音が響き、拳が顔面にめりこむ。続いて回し蹴り、ゴツいブーツを履いた足が男の首を刈りとりにいく。
「用済みになりゃ即切り捨てか、なめたまねしやがって、ぶっ殺してやる!」
「地獄に帰りなゴースト&ダークネス!」
正気に戻った男たちが銃を構えて続けざま発砲、袋の中の子どもたちがじたばたあがく。
ゴーストは楽しげに歯を剥いて笑い、ダークは生き生きと暴れ回り、暗闇に底光りする目で銃弾を躱していく。
「ほないこかリトルブラザー」
「きめるでビッグブラザー!」
廃墟の駐車場はゴースト&ダークネスの殺戮ステージだ。
獅子の威を借る身ごなしは男たちと比べ物にならず俊敏で、動きを肉眼で捕捉するのさえ難しい。
兄に貰った煙草を吐き捨てたダークが、男の顔面を踏んでさらに高く跳び、モーテルの看板に取り付いて一回転。
兄に銃をぶっぱなそうとしていた男の背後をとり、メリケンサックで延髄を砕く。
「あがっ、が」
刃の血糊を払ったゴーストはドヤる弟に迫る男を目撃、無表情で促す。
「ダーク、後ろ後ろ」
ダークは即座に振り向く―と見せかけ、唐突にしゃがみこむ。
「ビッグブラザー!」
「リトルブラザー!」
打てば響く痛快な応答。
片足を軸に独楽さながら回り、頭上に手をかざす。
ゴーストが狙い定めて投げた刀を宙で引っ掴み、回転の勢いに乗じて男の足を斬り飛ばす。
「くそっ、妙なニンジュツ使いやがって!」
ダークに鼻を砕かれた男が悔しげに呻き、ゴーストに奇襲をかける。
すかさずダークが刀をパス、宙で旋回した日本刀がゴーストの手中におさまる。
刀の柄には強靭なあぎとで咆哮する、双頭の獅子が彫られていた。
「ゴースト&ダークネスは二人で一人の勘定や。群れは作らん」
ゴーストが宣言し、腰砕けにへたりこむ男の鼻先に鋭利な切っ先を突き付けた―
その時。
「あっが!?」
廃車の影から一瞬顔を出した男が大きく仰け反る。
「なっ……」
後続の男をフックの連打で沈めたダークが絶句、銃声が響いた方角を振り仰ぐ。
「狙撃か」
乱闘を中断させたのは、姿の見えない狙撃手が放った銃弾だった。
「引っ込んどれダーク!」
ゴーストが頭を低めて駐車場を突っ切り、廃車の影に転がり込む。
ダークは兄と左右対称に走り、同じく廃車の影に伏せる。
二人の後を追い、地面に弾痕が穿たれていく。
ゴーストは日本刀を突き立て、集中力を研ぎ澄まし、不可視の狙撃手の位置を探る。
モーテルの周囲に高層の建物は少ない。狙撃に適した場所は限られる。
駐車場を一望できるのは、モーテルに面した倉庫の屋根しか考えられない。
「はっ……」
面白い。
血が滾る。
てんで歯ごたえがなく、退屈していた所にいい余興が舞い込んだ。
「くそったれ、俺のタマ狙っとるアホはどこの誰じゃ!?」
「倉庫の屋根の上や、わかるか」
「見えへんわ!」
「せやろな」
賞金稼ぎ―……否、孤児院の関係者か?用心棒の線も捨てきれない。
下見を兼ねてジープでぐるりを回った時、裏手の墓地にボーリングピンの残骸が散らばっていた。狙撃手が銃を固定するカウンターもあった。
ゴーストは皮肉っぽく笑い、廃車の側面でマッチを擦る。穂先を炙ってオレンジの火を灯したのち、駐車場に煙草を投げる。
地面に落ちる前に煙草が弾け飛ぶ。
「ええ腕やん」
無音の口笛を吹く。
「どないすんねんあんちゃん」
「狩る」
「そうこなくっちゃ」
ダークの声がにわかに弾み、闘争心が燃え上がる。
ゴーストは冷静に計算を巡らす。敵もあせっている。自分と間違え、煙草を撃った事からもそれはわかる。
「威嚇?牽制?……ちゃうな」
優れた狙撃手なら無駄撃ちは避けるはず。
焦燥が先んじて撃ち間違えたなら勝算はある、相手の弱みに付け込めばいい。
弱みとは即ち。
「アンタ、教会の関係者か」
肺活量一杯声を張り、ゴーストが聞く。狙撃手は答えない。
「ガキども取り返しにきたんか」
廃車の影に麻袋が落ちていた。
ゴーストは袋を抱え、億劫そうに腰を上げる。
「こん中に入っとんで」
銃弾と刀、どちらが早いか。答えは刀だ。
もし狙撃手が冷静な判断を下すなら、今ここでゴーストを射殺するとは考えにくい。
ゴーストは弱々しく蠢く袋に白刃を突き付け、倉庫上の狙撃手によく見えるように翳す。
「何突き目で死ぬか賭けるか」
「やめろ」
切羽詰まった声が暗闇に響く。まだ若い男の声だ。下手したら十代後半か。ゴーストは内心驚く。
彼の位置からでは目視できない狙撃手が、固い声で言い募る。
「子どもたちを帰せ」
「銃をおけ」
「袋からだせ」
「はよ捨てろや」
ゴーストは肩幅に両足を開き、威風堂々開き直る。
狙撃手の苦悩が闇を伝わってきた。息遣いまで聞こえてきそうだ。
もう一押しと見て、ゴーストは芝居を打った。
「教会の人間か。シスター元気か?ようけ肉が詰まったええケツしとったで、尼さんで枯らすんはもったいない」
殺気と怒気が膨れ上がる。
次の瞬間、音速の銃弾が飛来する。躱せたのは僥倖だ。
袋を放りだしざま伏せたゴーストが目で合図を送り、ダークが点在する廃車を縫って移動を開始。
今の会話で大体把握したが、この狙撃手はまだ若く平常心を失いやすい。
ダークを演じたゴーストの挑発に易々と乗り、引鉄を引いてしまったのが証拠。
「先越されて悔しいか。淫乱シスターにホの字か」
「彼女を侮辱するな」
怒りを凝縮した低い声が鼓膜を打ち、ゴーストは邪悪に笑む。
「遠慮すんなて、たっぷり話を聞かせ」
返事は銃声だ、続けざまに来た。
ゴーストは咄嗟に刀を立て、めまぐるしく傾けて銃弾を弾く。
刀に跳ね返った弾丸が駐車場に転がった男の四肢を抉り、不規則な痙攣を引き起こす。
ゴーストは守り防ぎ、ダークは背後から忍び寄る。
これが二人の狩りの手口だ。
兄が狙撃手を引き付けている間、廃車の下をかいくぐって回り込み、鉄骨でできた倉庫の階段を上って行く。足音は極力立てず息を殺して慎重に、遂に上りきってゴールに至る。
モッズコートを羽織り、屋上の縁に伏せ、ライフルを撃ち続ける狙撃手がいた。
怒りに駆り立てられて背中ががら空きだ。
ダークは生唾を呑み、無防備な背後に接近する。思ったより若い……十代後半だろうか。かき曇った空が晴れ、青白い月が狙撃手の素顔を暴く。
「綺麗な目ェしとるやん、自分」
赤々と冴えた眸。爛々と光る瞳。唐突に声をかけられ、平凡な顔に驚愕が走る。
「お前は」
振り返りざま慄然と剥かれた目に、不吉な影が覆い被さる。
ダークは歯の間から呼気を吐き、力一杯腕を振り抜く。
メリケンサックで武装した拳を突き抜ける固い衝撃、モッズコートを広げた狙撃手がライフルを水平に寝かせダークを押し返す。
「お前たちが主犯格か!」
「ゴースト&ダークネスや。なんでここがわかったん?」
「お、教えてくれた人がいたんだ」
「誰や」
「言えるか。そんな事より子どもたちを返せ、全員無事にっ……今までさらった子たちも元の孤児院に帰すんだ!」
「無理な相談やな、売ってもうたもん。袋に放りこんどるんは間に合うけど」
上にのしかかるダークの返答を聞き、両手でライフルを持った狙撃手の顔がみるみる歪んでいく。
嘘だ。
声を伴わず唇が紡ぐ疑問を、外道な悪党の笑みで肯定する。
「!?ぐはっ、」
鳩尾に衝撃が爆ぜる。狙撃手の膝頭がダークの腹にめりこんだのだ。
「やりよったな!」
ダークが怒り狂って拳を振り上げ振り下ろす、狙撃手はライフルで顔を守り抵抗するが反撃の糸口が掴めない、腕力と握力に加えて体格差が致命的だ。
凄まじいパンチラッシュに意識が飛び、切れた唇から血が滴る。
肩で息をし一旦離れるダーク。
襟ぐりの弛んだシャツの首元に覗く鎖を鷲掴み、力ずくで引きずり起こす。
「しゃれたもん付けとるやん」
「うっ、が、はな、せっ」
首に鎖が食い込み赤黒く鬱血、気道を塞き止められて苦しげに喘ぐ。完全にマウントをとり、ダークは油断していた。だから狙撃手が手探りしてライフルを持ち直したのにも気付かず、反応が遅れた。
「!?痛ッあがっあ、」
狙撃手が振り抜いたライフルがこめかみを殴打、脳震盪を引き起こす。
瞼の裏で火花が炸裂、自らの上から転げ落ちたダークをライフルの柄で滅多打ち、めちゃくちゃに蹴りまくる。
「本当に売り飛ばしたのか、あの子たちが何したっていうんだ!」
「知るかボケっ、遊ぶカネ欲しさじゃ!!」
鼻血に塗れた顔で怒鳴り、泣き叫び、ライフルの柄と足でダークを突き回す。
ダークは無我夢中で狙撃手の足にしがみ付き、体重をかけて引きずり倒す。
二人揉み合って屋上を転げ、胸ぐら掴んで頭突きをかます。狙撃手が片手でダークを掴み起こし、額の中心に銃口を抉りこむ。
「R.I.Pの意味知ってるか?」
「わけわからんこと!」
「お前は、お前たちだけは、安らかに眠らせたくない」
堕天の兆しの如くモッズコートの尾羽が膨らむ。
夜風に靡くピンクゴールドの髪の下、鳩の血色の双眸が断罪の輝きを放ち、引鉄をゆっくり押し込んでいく。
「ぐっ……」
ダークの額に玉の汗が浮かび、尖った犬歯が唇に沈む。
死角から飛来した白刃が、モッズコートの裾を射止めた。
「ビッグブラザー!」
「一丁上がり」
コートを縫い付けられ前傾した一瞬の隙にダークが腹筋を使って跳ね起き、ライフルを強引にひったくるや銃筒で顎を突く。
「ぐはっ、あ」
垂直に脳を揺らされ、意識を刈り取られる。
屋上に突っ伏した狙撃手。撓む鼓膜に二重の声が反響する。
「……教会の……ガキどもを……」
「ふんじばって……」
「思い知らせたれ……」
ゴーストが地面に刺さった刀を抜き、ダークが鉄錆びた唾を吐き捨て、仰向けた首に纏わり付く鎖をちぎりとった。
「畜生ばかっ、早いとこ開けろって!」
「お願い出してよお、真っ暗怖い……」
「せんせぇ、シスターあぁ……」
荷台に積んだ袋が往生際悪く蠢く。
くぐもった声で泣き叫ぶ子供たちを、荷台に片膝立て座ったダークネスが脅かす。
「せやからやかまして」
ドスの利いた一喝に続き、ゴツいブーツで荷台を蹴り付ければ子どもたちが大人しくなる。
運転席でハンドルを握るゴーストが振り返り、気短な弟に注意を飛ばす。
「あんまびびらせんなやダーク。ウチの大事な商品さかい、もうちょい丁寧に扱え」
「手ェ上げてへんもん」
「足上げたやろ」
「蹴ってへんもん、あんじょうガマンしとるんさかい褒めてやビッグブラザー」
「よーしよし、おどれはほんまアホでええ子やな」
「へへ、せやろせやろ。ビッグブラザー自慢のリトルブラザーやろ」
心酔する兄に働きを褒められ、ダークネスが鼻高々にふんぞり返る。
荷台に乗りこんだ仲間はあきれ顔だ。中にはあからさまに馬鹿にした笑みを浮かべ、処置なしと首を振る者もいた。
連れの嘲笑をバックミラーで一瞥、ゴーストが不愉快そうに眉根を寄せる。
運転席へと身を乗り出すダークに、ゴーストが冷めた苦言を呈す。
「リトルブラザーのリトルブラザーはちょいとオイタが過ぎるんが玉に瑕やな」
「それをゆーなら竿にキズやろ」
「黴菌入ってもげてまえ」
「シスターのことゆうとるんなら堪忍してや、仕入れ先の女は有り難ういただかな」
「ビョーキやぞ」
「役得いうてや。あっちかて最後の方はケツ振ってあんあん喘いどったで、せやろガキども」
「ウソツキ、いじめてたじゃない!」
「シスターは嫌がってたぞ!」
猫娘とネズミ小僧の抗議に渋い顔をするダークをよそに、ゴーストは哄笑を上げる。
ダークは拗ねて胡坐を組む。
「ビッグブラザーこそ、なんでとどめささんかったん?一匹逃がしてもて」
「あんなちまいの試し斬りにもようならんわ。的はデカいほうが気持ちええ」
ゴーストは鼻を鳴らす。
運転席の兄は日本刀を背負っていた。使い込んだ業物だ。試し斬りを重ねると脂が乗りすぎて切れが鈍ると聞いた。ゴーストは物知りだから、乱用による武器の劣化を避けたに違いない。
ゴーストが場違いに陽気な声で暴露する。
「序でにゆーと逃がしたんは一匹ちゃうで、他にも何匹かおった」
「マジでか。ええのん」
「欲をかくとろくなことにならん。全員かっさらったかて賄いきれん手間が増えるだけや」
「おのれの分を知るんも大事やで、ダーク」と諭され反省した。さすがに兄は一枚上手だ、先々の事までちゃんと考えている。
ジープは夜を駆け、ボトムのさらにどん底に向かっていた。
この辺りは廃墟しかない一際寂れた区画だ。
ジャンキーとプッシーの巣窟であり、道端には当たり前に死体が転がっている。
あと1ブロックでゴースト&ダークネスがねぐらにしている廃墟のモーテルに着く。
「しっかしラクな仕事だったな、かけっこしてるガキを捕まえるだけでいいなんて」
「警備も手薄だしよ」
「ミュータント狩りが楽しめたぜ」
「上玉に預かれたし言うこたねェ」
「ほなら報酬はいらんな」
下品に騒ぐ男たちにゴーストが聞けば、冗談ととった連中が大いにウケ、「おいおいそれはねェだろ」と笑い転げる。
ダークは上着の中に手を入れて肌を掻き毟りだす。
「あ~~~かゆ」
「どないしたん」
「教会なんて出入りしたからじんましん出てもた、かゆうてたまらん」
「チンコの毛じらみが回ったんちゃうか」
「チンカスならちゃんと流しとるて、嘘思うんなら嗅いでみい俺の陰毛フレグランス」
「誰が嗅ぐかアホくさ」
ガリガリと血がでる勢いで素肌をひっかく。
荷台では男たちの馬鹿笑いが響く。仲間でも友人でもない、たまさか利害が一致して組んだだけの同業者。
今回の襲撃は大掛かり故に人手が要った。ボトムを徘徊しているゴロツキに声をかけたら、瞬く間に寄り集まった。報酬は前払い、成功すればさらにその倍の取り決めだ。
ダークはムッツリして体を掻きまくる。
ガリガリ、ガリガリ、せっかちに。
ゴーストは人さし指でハンドルを叩く。
トントン、トントン、リズミカルに。
バックミラー越しに目が合うや、酷薄な笑みと眼光を取り交わして頷く。鏡が切り取るゴーストの後ろでは、男たちが酒を回し飲みしていた。
「ここがねぐらかよ、シケてんな」
「文句言うなや、さっさと降り」
ジープが廃モーテルの駐車場に滑り込み、タイヤがアルファルトを噛んで停止。荷台のゲートが開き、男たちが口々に文句を言いながら降り立ったあと、手から手から子供が詰まった袋を渡していく。
「101号室にまとめて閉じ込めき。中に檻がある」
「人使いが荒ェな」
腕毛が密生した男がそばの袋を掴み、さもいやそうに仰け反る。
「げっ、漏らしてやがる」
「どうりでくせえと思ったら」
「大じゃねェだけマシだろ、さっさと行った」
弱々しくもがく袋の底に失禁の染みが広がっていく。
一人が大袈裟に鼻を摘まみ、別の一人が囃し立てる。他の男は袋の上からパンチをし、呻き声が漏れるのを面白がっていた。
「うぐうっ、ぁぐ」
「なあゴースト、部屋で味見していいか?待ちきれなくてさ」
袋を引きずった男が舌なめずりをする。地面に下ろされた袋からシーハンの嗚咽が漏れる。
「イレギュラーの穴が使い物になるかどうか、試してやる」
袋の中の子どもたちは皆怯えきっている。もはや逃げ出す気力さえ奪われて、けだもの達の嬲り者にされている。
目の前で行われた襲撃とシスター凌辱のショックはいかばかりか、チェシャとハリーもすっかり大人しくなってしまった。
ゴーストはジープの車体に凭れて煙草を喫っていた。
隣にダークがやってきて、兄に並ぶ。まだ上着をはだけて肌を掻いている。
「ん」
ダークが顎をしゃくってねだればゴーストは「しゃあないやっちゃな」と苦笑い、弟の口に吸いさしを突っ込む。
駐車場には子どもたちの嗚咽と呻き声、男たちの哄笑と罵声が充満していた。
ダークは冷めきった目で男たちの乱暴狼藉を眺め、ゴーストに耳打ちする。
「じんましんの理由わかったわ」
「なんや」
「アイツらや」
親指の背で下卑た男たちを指す。
「アイツらがおるからや」
ダークの声は本気だった。目は楽しげに嗤っている。
ゴーストは無表情のまま、唇だけ嘲笑の形に歪め、弟の髪の毛を荒っぽくかき回す。
「たまに賢いやん、ジブン」
ゴーストとダークネスは二人一組の賞金首だ。
番のライオンに仲間はいらない。
ゴーストが車から背中を起こし、猫科の肉食獣めいた足取りで駐車場に歩み出す。
「そろそろ報酬山分けせなな」
物欲しげな男たちの目がゴーストに集中する。ゴーストは後ろに手を回し、日本刀の柄を掴む。その間も歩みは止めず、落とさず、高らかに嘯く。
「欲しがりは前に出さらせ」
我先にと踏み出す男たちの眼前でダークが懐に手をやり、盛大に幣をばらまく。
「よう考えたらコイツが擦れてかゆうなったんかも」
陰鬱な夜空一面に舞い、緩やかな軌道を描いて駐車場に降り注ぐ札びら。
「おい待て、そりゃ俺の取り分だ!」
「ガッツくんじゃねえ、てめェはあっちで遊んでな!」
他人のカネを毟り、また毟り返し、半狂乱で駐車場を転げ回る男たちは互いにじゃれかかるライオンに似ていなくもない。
今しも宙を滑り落下した一枚の紙幣に飛び付く男、剛毛の生えた腕の先にゴーストが立ち塞がる。
鋭い呼気を吐き、柄に手をかけた日本刀を一閃。
男の腕が肘の付け根から切断され、見事に飛んだ。
「え?」
突然の事態に間抜けな声を漏らす。
腕は鮮やかな切断面をさらし、動脈から大量の血を噴く。
目の色変えて紙幣をかき集めていた男たちが硬直、引き攣り笑いで凍り付く。
「何の真似」
続きは言わせない。ゴーストの反応は素早い。白刃の軌跡が宙を疾り、別の男の首をはねとばす。
「テメエ、裏切ったのか!!」
「計画通りや」
呆れるゴーストの後ろ、両手にメリケンサックを嵌めたダークが男を殴り付ける。骨がへし折れ肉がひしゃげる音が響き、拳が顔面にめりこむ。続いて回し蹴り、ゴツいブーツを履いた足が男の首を刈りとりにいく。
「用済みになりゃ即切り捨てか、なめたまねしやがって、ぶっ殺してやる!」
「地獄に帰りなゴースト&ダークネス!」
正気に戻った男たちが銃を構えて続けざま発砲、袋の中の子どもたちがじたばたあがく。
ゴーストは楽しげに歯を剥いて笑い、ダークは生き生きと暴れ回り、暗闇に底光りする目で銃弾を躱していく。
「ほないこかリトルブラザー」
「きめるでビッグブラザー!」
廃墟の駐車場はゴースト&ダークネスの殺戮ステージだ。
獅子の威を借る身ごなしは男たちと比べ物にならず俊敏で、動きを肉眼で捕捉するのさえ難しい。
兄に貰った煙草を吐き捨てたダークが、男の顔面を踏んでさらに高く跳び、モーテルの看板に取り付いて一回転。
兄に銃をぶっぱなそうとしていた男の背後をとり、メリケンサックで延髄を砕く。
「あがっ、が」
刃の血糊を払ったゴーストはドヤる弟に迫る男を目撃、無表情で促す。
「ダーク、後ろ後ろ」
ダークは即座に振り向く―と見せかけ、唐突にしゃがみこむ。
「ビッグブラザー!」
「リトルブラザー!」
打てば響く痛快な応答。
片足を軸に独楽さながら回り、頭上に手をかざす。
ゴーストが狙い定めて投げた刀を宙で引っ掴み、回転の勢いに乗じて男の足を斬り飛ばす。
「くそっ、妙なニンジュツ使いやがって!」
ダークに鼻を砕かれた男が悔しげに呻き、ゴーストに奇襲をかける。
すかさずダークが刀をパス、宙で旋回した日本刀がゴーストの手中におさまる。
刀の柄には強靭なあぎとで咆哮する、双頭の獅子が彫られていた。
「ゴースト&ダークネスは二人で一人の勘定や。群れは作らん」
ゴーストが宣言し、腰砕けにへたりこむ男の鼻先に鋭利な切っ先を突き付けた―
その時。
「あっが!?」
廃車の影から一瞬顔を出した男が大きく仰け反る。
「なっ……」
後続の男をフックの連打で沈めたダークが絶句、銃声が響いた方角を振り仰ぐ。
「狙撃か」
乱闘を中断させたのは、姿の見えない狙撃手が放った銃弾だった。
「引っ込んどれダーク!」
ゴーストが頭を低めて駐車場を突っ切り、廃車の影に転がり込む。
ダークは兄と左右対称に走り、同じく廃車の影に伏せる。
二人の後を追い、地面に弾痕が穿たれていく。
ゴーストは日本刀を突き立て、集中力を研ぎ澄まし、不可視の狙撃手の位置を探る。
モーテルの周囲に高層の建物は少ない。狙撃に適した場所は限られる。
駐車場を一望できるのは、モーテルに面した倉庫の屋根しか考えられない。
「はっ……」
面白い。
血が滾る。
てんで歯ごたえがなく、退屈していた所にいい余興が舞い込んだ。
「くそったれ、俺のタマ狙っとるアホはどこの誰じゃ!?」
「倉庫の屋根の上や、わかるか」
「見えへんわ!」
「せやろな」
賞金稼ぎ―……否、孤児院の関係者か?用心棒の線も捨てきれない。
下見を兼ねてジープでぐるりを回った時、裏手の墓地にボーリングピンの残骸が散らばっていた。狙撃手が銃を固定するカウンターもあった。
ゴーストは皮肉っぽく笑い、廃車の側面でマッチを擦る。穂先を炙ってオレンジの火を灯したのち、駐車場に煙草を投げる。
地面に落ちる前に煙草が弾け飛ぶ。
「ええ腕やん」
無音の口笛を吹く。
「どないすんねんあんちゃん」
「狩る」
「そうこなくっちゃ」
ダークの声がにわかに弾み、闘争心が燃え上がる。
ゴーストは冷静に計算を巡らす。敵もあせっている。自分と間違え、煙草を撃った事からもそれはわかる。
「威嚇?牽制?……ちゃうな」
優れた狙撃手なら無駄撃ちは避けるはず。
焦燥が先んじて撃ち間違えたなら勝算はある、相手の弱みに付け込めばいい。
弱みとは即ち。
「アンタ、教会の関係者か」
肺活量一杯声を張り、ゴーストが聞く。狙撃手は答えない。
「ガキども取り返しにきたんか」
廃車の影に麻袋が落ちていた。
ゴーストは袋を抱え、億劫そうに腰を上げる。
「こん中に入っとんで」
銃弾と刀、どちらが早いか。答えは刀だ。
もし狙撃手が冷静な判断を下すなら、今ここでゴーストを射殺するとは考えにくい。
ゴーストは弱々しく蠢く袋に白刃を突き付け、倉庫上の狙撃手によく見えるように翳す。
「何突き目で死ぬか賭けるか」
「やめろ」
切羽詰まった声が暗闇に響く。まだ若い男の声だ。下手したら十代後半か。ゴーストは内心驚く。
彼の位置からでは目視できない狙撃手が、固い声で言い募る。
「子どもたちを帰せ」
「銃をおけ」
「袋からだせ」
「はよ捨てろや」
ゴーストは肩幅に両足を開き、威風堂々開き直る。
狙撃手の苦悩が闇を伝わってきた。息遣いまで聞こえてきそうだ。
もう一押しと見て、ゴーストは芝居を打った。
「教会の人間か。シスター元気か?ようけ肉が詰まったええケツしとったで、尼さんで枯らすんはもったいない」
殺気と怒気が膨れ上がる。
次の瞬間、音速の銃弾が飛来する。躱せたのは僥倖だ。
袋を放りだしざま伏せたゴーストが目で合図を送り、ダークが点在する廃車を縫って移動を開始。
今の会話で大体把握したが、この狙撃手はまだ若く平常心を失いやすい。
ダークを演じたゴーストの挑発に易々と乗り、引鉄を引いてしまったのが証拠。
「先越されて悔しいか。淫乱シスターにホの字か」
「彼女を侮辱するな」
怒りを凝縮した低い声が鼓膜を打ち、ゴーストは邪悪に笑む。
「遠慮すんなて、たっぷり話を聞かせ」
返事は銃声だ、続けざまに来た。
ゴーストは咄嗟に刀を立て、めまぐるしく傾けて銃弾を弾く。
刀に跳ね返った弾丸が駐車場に転がった男の四肢を抉り、不規則な痙攣を引き起こす。
ゴーストは守り防ぎ、ダークは背後から忍び寄る。
これが二人の狩りの手口だ。
兄が狙撃手を引き付けている間、廃車の下をかいくぐって回り込み、鉄骨でできた倉庫の階段を上って行く。足音は極力立てず息を殺して慎重に、遂に上りきってゴールに至る。
モッズコートを羽織り、屋上の縁に伏せ、ライフルを撃ち続ける狙撃手がいた。
怒りに駆り立てられて背中ががら空きだ。
ダークは生唾を呑み、無防備な背後に接近する。思ったより若い……十代後半だろうか。かき曇った空が晴れ、青白い月が狙撃手の素顔を暴く。
「綺麗な目ェしとるやん、自分」
赤々と冴えた眸。爛々と光る瞳。唐突に声をかけられ、平凡な顔に驚愕が走る。
「お前は」
振り返りざま慄然と剥かれた目に、不吉な影が覆い被さる。
ダークは歯の間から呼気を吐き、力一杯腕を振り抜く。
メリケンサックで武装した拳を突き抜ける固い衝撃、モッズコートを広げた狙撃手がライフルを水平に寝かせダークを押し返す。
「お前たちが主犯格か!」
「ゴースト&ダークネスや。なんでここがわかったん?」
「お、教えてくれた人がいたんだ」
「誰や」
「言えるか。そんな事より子どもたちを返せ、全員無事にっ……今までさらった子たちも元の孤児院に帰すんだ!」
「無理な相談やな、売ってもうたもん。袋に放りこんどるんは間に合うけど」
上にのしかかるダークの返答を聞き、両手でライフルを持った狙撃手の顔がみるみる歪んでいく。
嘘だ。
声を伴わず唇が紡ぐ疑問を、外道な悪党の笑みで肯定する。
「!?ぐはっ、」
鳩尾に衝撃が爆ぜる。狙撃手の膝頭がダークの腹にめりこんだのだ。
「やりよったな!」
ダークが怒り狂って拳を振り上げ振り下ろす、狙撃手はライフルで顔を守り抵抗するが反撃の糸口が掴めない、腕力と握力に加えて体格差が致命的だ。
凄まじいパンチラッシュに意識が飛び、切れた唇から血が滴る。
肩で息をし一旦離れるダーク。
襟ぐりの弛んだシャツの首元に覗く鎖を鷲掴み、力ずくで引きずり起こす。
「しゃれたもん付けとるやん」
「うっ、が、はな、せっ」
首に鎖が食い込み赤黒く鬱血、気道を塞き止められて苦しげに喘ぐ。完全にマウントをとり、ダークは油断していた。だから狙撃手が手探りしてライフルを持ち直したのにも気付かず、反応が遅れた。
「!?痛ッあがっあ、」
狙撃手が振り抜いたライフルがこめかみを殴打、脳震盪を引き起こす。
瞼の裏で火花が炸裂、自らの上から転げ落ちたダークをライフルの柄で滅多打ち、めちゃくちゃに蹴りまくる。
「本当に売り飛ばしたのか、あの子たちが何したっていうんだ!」
「知るかボケっ、遊ぶカネ欲しさじゃ!!」
鼻血に塗れた顔で怒鳴り、泣き叫び、ライフルの柄と足でダークを突き回す。
ダークは無我夢中で狙撃手の足にしがみ付き、体重をかけて引きずり倒す。
二人揉み合って屋上を転げ、胸ぐら掴んで頭突きをかます。狙撃手が片手でダークを掴み起こし、額の中心に銃口を抉りこむ。
「R.I.Pの意味知ってるか?」
「わけわからんこと!」
「お前は、お前たちだけは、安らかに眠らせたくない」
堕天の兆しの如くモッズコートの尾羽が膨らむ。
夜風に靡くピンクゴールドの髪の下、鳩の血色の双眸が断罪の輝きを放ち、引鉄をゆっくり押し込んでいく。
「ぐっ……」
ダークの額に玉の汗が浮かび、尖った犬歯が唇に沈む。
死角から飛来した白刃が、モッズコートの裾を射止めた。
「ビッグブラザー!」
「一丁上がり」
コートを縫い付けられ前傾した一瞬の隙にダークが腹筋を使って跳ね起き、ライフルを強引にひったくるや銃筒で顎を突く。
「ぐはっ、あ」
垂直に脳を揺らされ、意識を刈り取られる。
屋上に突っ伏した狙撃手。撓む鼓膜に二重の声が反響する。
「……教会の……ガキどもを……」
「ふんじばって……」
「思い知らせたれ……」
ゴーストが地面に刺さった刀を抜き、ダークが鉄錆びた唾を吐き捨て、仰向けた首に纏わり付く鎖をちぎりとった。
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