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頭がガンガンする。
「ッでー……」
完ぺキ二日酔いだ。安穏とした雀の囀りさえ頭に響く。
こめかみを片手で押さえて起き上がりゃ隣はもぬけの殻だが、数分前まで人がいた証拠に寝乱れた跡とぬくもりがまだ残る。
半端に捲れたカーテンの隙間から燦燦と注ぐ朝日が眩しい。下半身が怠いのは一夜のお楽しみの代償、セックスの余韻特有の虚脱感。
首筋や胸板、太腿にゃキスマークが散らばり、二人分の汗を吸って乾いたシーツには真っ赤な口紅が掠ったあと。
「ん―――――……」
ぐずって反転した拍子に華奢な鎖が首筋を滑り落ち、半ば無意識に掴んだドックタグにキスをする。
たいした意味はない。ガキの頃からの癖、一日のスタートを切るまじないみたいなもんだ。隣にアイツが寝てりゃ順番は逆になってた。
ピジョンにキスするとたまに寝ぼけて返してくるのが面白い。先越された朝はイタズラもお預けだが、興がのりゃそのままおっぱじめたりもする。で、あとから腰が痛いだの盛り過ぎだの文句を言われるのだ。
まどろみから覚醒に至る助走の時間、薄靄がかった頭で昨晩の記憶をたどる。
クラブで知り合った女を酔ってトイレの個室に連れ込み一発、抱き足りずにお持ち帰りで二発、都合三発。ベッドの傍らに置かれたクズ籠にゃ萎んだコンドームがひっかかってる。
それを弾いて中に落とし、寝癖だらけの髪を乱暴にかきまわす。
「帰ったのか……?」
所詮名前も覚えてねえ行きずりの女、とっとと消えてくれりゃ後腐れずに助かる。
中には勘違いして責任とれだの恋人になれだの戯言ぬかし、図々しく居座る奴もいる。なもんで、なるべく家に上げないようにしてたんだが酔いも手伝って久しぶりにやらかした。
セックスは大好きだ、よってセフレは多くキープしとくに越したことない。連絡先くらい交換しとくんだったかと惜しむ気持ちはすぐ薄れ、空腹を自覚して朝飯に心が飛ぶ。
人生を楽しむコツはほどほどに不実であることだ、どこかの駄バトみてえに真面目なだけじゃ息が詰まる。アイツは人生楽しいのかね?
「くあ……」
かったりぃ……けどそろそろ起きだすか。
素足を床におろし、蹴り上げたトランクスを穿いて部屋を突っ切る。
洗面所の方でうるさい物音。不審がってドアを開けるや、ずれたズボンをひきずりながらピジョンがフレームイン。
特別な祝い事の時だけ開けるシャンパンみてえなピンクゴールドの髪、俺と揃いのラスティネイルの瞳。
平凡な顔立ちと釣り合いとれたお人好しな表情にゃ、世界中の貧乏くじを後生大事にコレクションしてるような苦労性が滲み出てやがる。
「るっせえな、もう少しお行儀よく歩けねーのか響くだろ。こちとら二日酔いで頭がくわんくわんすんだ」
「それどころじゃない!!」
何故だか起き抜けからおかんむりのピジョンが、尻をかいて立ち尽くす俺の下半身に視線を落とし、世にも忌々しい形相に豹変。
「パンツくらいちゃんと穿け」
「穿いてんじゃんか」
理不尽な言いがかりに鼻白めば、ピジョンが小賢しく腕を組む。
「俺的に恥骨の露出はアウト。ローライズにもほどがある」
「見えそうで見えねーチラリズムがウリ」
「誰にサービス」
「兄貴」
トランクスの片端をずりさげ恥骨を覗かす。ピジョンがさも嫌そうな顔になる。
「押し売りの間違いだろ。朝っぱらから見苦しい、萎える」
さすがにカチンとくる。壁に片手を付いて生意気なピジョンを通せんぼ、ずいと詰め寄る。
「随分な言い草だなえぇオイ、てめえだってこれが大好きなくせに」
「お前の卑しん棒が?冗談よせよ、時と場所をわきまえないやんちゃっぷりにさんざん手こずらされたけど恋しくなったことは一度もないね。パンツの中でお行儀よくしてるなら別だけど」
「俺の倅は起立しちまうんだよ、元気だかんな」
「躾がなってない」
「リップサービスで付け上がらせっからだ。即ちテメェの自業自得だピジョン、わかったらとっととキッチン行って飯用意してこい、今日はベーコンエッグと直搾りオレンジジュースな。目玉焼きは黄味がとろりと流れ出る半熟、ベーコンは両面こんがり焼いて」
「お前が当番だろ!!」
くどい注文にピジョンがキレる。朝から興奮すると血圧が上がる。と、洗面所の方から軽い足音が近付いてくる。
「捕まえた」
「わっ、とと」
ピジョンの背中に覆い被さったのは亜麻色の髪の女……確か昨日クラブで見た。振り返ったピジョンの顔が引き攣るのに頬ずり、艶っぽく耳朶に囁く。
「逃げるなんてツレないわね、せっかく遊んであげようって言ってんのに」
「それはいい、いいから離れて」
「下半身は準備万端よ」
「体内時計が正しく働いた生理現象」
「股間の鳩時計は正確だな」
「誰がハメたせいでこんな羽目に」
「朝になりゃ元気よく飛びだして時を告げる」
「女の子の前で下品な発言禁止」
「かまわないわよ、昨日はもっと下品なことしまくったし」
首に絡む細腕を振りほどこうと紳士的にばた付く傍ら、股間に潜る一方の手を引っぺがしと大忙しのピジョンをからかえば、ありったけの憎悪をこめて睨まれる。
「あ、スワロー起きたんだおはよ」
「よ」
ピジョンにおんぶにだっこした女の挨拶におざなりに手を振り返しゃ、一旦離れてこっちに来て、俺の首ったまにかじり付く。
上目遣いに媚びた表情……俺と寝た奴は大抵この顔をする。与えられた快楽に味をしめ、次を期待して打算を働かせる。
見返りを求めず、下心を伴わず、何もせずただ寝たのは母さんとピジョンだけ。俺にとって特別な二人、特別な川の字。
「昨日はすごかったわ、評判通りね。みんながすごいすごい言うもんだからどんだけよって内心思ってたけど……あんなのどこで覚えたの?」
「母親の仕事場」
「冗談上手いわね。あっちも絶倫でテクも上々……店の子がほっとかないはずよ、アタシもはまっちゃいそ」
「アンタも悪くなかったよ、抱き足りずに持ち帰った女は久しぶりだ」
「まさかトイレでヤッて放り出す魂胆だったの?酷い男」
「そこに惚れたんだろ」
女に褒められるのは悪い気分じゃない、テクにかけちゃ賞金稼ぎを廃業してもジゴロでやってけるほどの自信がある。
後戯の延長でじゃれあって、顎を摘まんで機嫌をとる。女がうっとりと瞳を潤ませ、俺の首筋を手の甲で撫で上げる。
目の端で挑発がてら反応を観察すりゃ、初対面の女と俺の乳繰り合いを見せ付けられたピジョンがぶーたれている。口じゃ倅をこきおろしたくせにいっちょまえに嫉妬してやがるのだ、可愛いヤツめ。
女が悪戯っぽく含み笑い、俺にしなだれかかったまんまピジョンを仰ぐ。
「ちょうどよかった、3Pしない?」
「だとさ、どうするよ」
「そんな気分じゃない」
「え~」
「減るもんじゃなしいいじゃん」
「ふざけるなよスワロー、洗面所で跨ってきたんだぞ?お前が連れ込んだんだから最後まで責任もて」
「家は聖域か」
「あちこち泊まり歩くのはもう諦めてるけど喘ぎ声と物音がうるさくて寝付けないのはごめんだよ、近所迷惑だし。こないだの娘なんて部屋間違えて俺のベッドにもぐりこんできたぞ、股ぐらまさぐられて飛び起きた身になれ」
「寸止めで残念だったな、ぐーすぴ寝たふりしてりゃフェラに預かれたのに律義か」
「真面目に聞けって」
「割と頻繁に訪れる貞操の危機を乗り切れてよかったじゃねーか、テメェの場合バック狙われる頻度のが高ェけど。前も使わねーと錆びるぜ、ただでさえオナ禁期間長くてフニャってんだ」
「なっ……」
ピジョンが赤面して絶句、どうやら図星だったみてえだ。怒りに任せて叫ぼうとして女の存在を憚り、小声で器用になじる。
「……んで知ってるんだよそんなこと!?」
「お前の好きな聖書に書いてあんじゃん。汝、姦淫するなかれ……不真面目な俺だって知ってる有名な戒律。熱心な信者はオイタしねーように寝る前に手ェ縛ってもらうんだよな?SMかよ、よくやるぜ」
ピジョンの胸元に手をやり、わざといやらしく十字架をもてあそぶ。
「で?熱烈リスペクトする神父様に毎晩縛ってもらったのか」
「先生を侮辱するな」
即座に奪い返した十字架にキスをし、毅然と俺を睨み据える。
「俺をコケにするのはいいけど先生を巻き込むのはやめろ。今度やったら絶交だ」
十字架を握り締め、神父を庇い立てるピジョン。怒りに燃える赤錆の瞳。
たいした意味はない、俺とおなじだ。今のキスにゃ何の意味もないと頭じゃわかっていても、嫉妬の念が止まらない。
今すぐ胸ぐら締め上げて、目障りなロザリオを窓からぶん投げたい衝動を制す。
俺と揃いのタグをさしおいて、兄貴の胸のど真ん中を占めてるのが気に入らねェ。
誰の許しを得て居座ってやがる?
そこは俺の席だぞ。
「お取込み中?出直す?足代ない。ねー車呼んでー私の部屋遠いんだよね」
兄貴と言い争うあいだ、蚊帳の外にほっぽりだされた女は退屈そうに枝毛をいじり、それにも飽きて爪を翳し見はじめる。さすが俺のセフレ、切り替えが早い。
ピジョンが心底軽蔑しきった顔で吐き捨てる。
「今度という今度は本当に愛想が尽きた、今のお前を見たら母さんががっかりする」
「デジャビュるセリフ、創意工夫が見られねー減点。母さんならさすが私の息子ねって諸手あげて喜ぶさ、二十年近く生きててろくにスケコマシも覚えねー長男のが期待外れだ」
「女の子を日替わりでとっかえひっかえする薄情にはわからないだろうけど、俺は本当に好きになった子と一対一で向き合いたいんだ。恋愛はプロセスが大事、身体から入るなんて論外だね」
「誠意は正常位のカタチってか」
「体位をさして言ったんじゃない、もっとこーメンタル的な心構えだ。……そもそもお前、彼女の名前知ってるのか」
「さあ?忘れちまった」
ピジョンが愕然とし、マニキュアの剥げを気にする女にゃ間違っても聞こえねえように声を落とす。
「名前も知らない子と寝たのか。正気を疑うね」
「たいした問題じゃねー、気持ち良けりゃ万々歳」
「よく知りもせず失礼だろ」
「兄貴は恋人の名前血液型誕生日3サイズ家族構成ぜーんぶチェックした上で母さんに報告すんの?ハッ、傑作だな!世界一の娼婦におめもじ叶えば幻の彼女もさぞ喜ぶだろうな、序でに上手な尺八や素股のやりかた教えてもらえ。いいかピジョン、テメェが売女の血筋って忘れんな。お前はまだ一人っきゃ女を知らねーからしれっと構えてられっけど、セックスにハマったらあとは坂道転がり落ちるだけさ。なんたって俺と血を分けた兄貴だ、お上品ぶったって根っこは同じ、前おっ勃ててえらっそうに非難できる立場か」
あえて地雷を踏み抜きにいくのが俺のスタイルだ。
「……言っても無駄だな」
母さんを持ち出され案の定憤慨、大股に自室に消えるやモッズコートを羽織って引き返し、几帳面に折り畳んだ紙幣と小銭、次いで清潔なバスタオルを女の手に押し付ける。
「足りるかい」
「どーも。見た目どおりいい人ね」
褒めてるのか馬鹿にしてるのか微妙な評価。「いい人」の前に「都合の」って幻聴すら聞こえる。
ぺたぺた廊下を歩いてキッチンへ行き、冷蔵庫から牛乳パックを取り出す。片手を腰にあて仁王立ちでがぶ飲み、のどを潤す。
「朝飯まだかよ。腹減ってんだ、察しろ」
「ピザの平箱の蓋裏にひっ付いたチーズなめてろ」
続いてキッチンへ駆け込んだピジョンがカウンターに置いてあるシリアルの箱を手早く没収。
「おい待てどこ持ってく」
「お前の胃袋におさまる位なら鳩に施した方がマシだね、せいぜいひもじさを耐えることを学ぶんだな」
どういう理屈だ。力ずくで取り返すのは簡単だが、たかがシリアル一箱でドヤってる兄貴と同じ次元に落ちたくねえ。女に格好悪いところを見せたくねえ意地も働く。
あきれ顔の俺を置き去りに玄関へ向かうさなか、すれ違った女に性懲りなくお節介を焼く。
「お金は次きた時に」
「返さなくていいから。あと、コイツは君のこと遊びとしか思ってないから。帰りの足代ないって喚く女の子を下着姿でアパートの廊下に蹴り出すようなクズだから、きっぱり別れた方が利口だよ。君と君を本当に好きになってくれる人の為に自分を粗末にするのはやめたほうがいい」
あっけにとられて二の句も継げない女の顔が目に浮かぶようだ。
荒々しくドアが閉じて静寂が舞い戻る。
牛乳パックを戻して廊下にでりゃ裸にバスタオルを纏った女が苦笑い。
「行っちゃった。いいの?」
腕に抱えているのは俺の部屋から回収した服。ったく、底抜けのお人好しめ。
「ほっとけ、ヒステリーなんだ」
「ホントに血が繋がってるの?全然似てない」
「半分だけな」
「あの誠実さ、スワローと兄弟なんて思えない」
「兄貴の半分は誠意でできてるんだ」
「残り半分は?」
「俺」
女の腕を掴んで壁に磔、唇を奪えば一瞬面食らうも、口ん中を犯されて次第に脱力。歯茎の裏を舌でなぞり、頬の内側の粘膜をくすぐれば、たちまち粘っこい唾液があふれだす。
「ん、はァ、あむ……ちょっとスアロ」
「邪魔者は消えた。延長戦といこうぜ」
脳裏にチラ付く不愉快な残像を払拭したい一心で嗜虐心が駆り立てるがまま追い上げる。
「あッ、ちょ、やァっそこぉ」
舌足らずに名前を呼ばれ征服欲が高ぶる。
潤んだ粘膜で唾液を捏ね、唇を軽く噛んで押さえ、鍛えた技巧で舌を絡めにいく。火照りを持て余した女があっさりバスタオルを払い落とし、一糸纏わぬ肢体で密着。
足元の衣服を蹴りどかし、形良い乳房を揉みしだく。手のひらで潰れる柔い弾力。片手で乳房を捏ね回し、反対の手でゆっくりと割れ目をなぞる。
「あッ、ふァ」
クリトリスを剥いて指圧、まめに転がして可愛がる。指の狭間で揉み絞り、蜜で先細り尖った恥毛をかきわけ膣へ潜らす。じれったげな内股でもぞ付き、官能の吐息を漏らす女。その間もキスは続ける。
一番敏感なクリトリスへの刺激ですっかり潤った膣は、二本指の根元まで深々咥えこむ。
「欲張りなお口だな、ぎっちり食い付いてくる」
「ここじゃやだ、ベッドに連れてって」
「洗面所で襲ったんだろ」
「アタシが上ならいいの、痛くないでしょ」
しっとり汗ばむ柔肌を夢中で貪る。膣のぬかるみを激しくかきまぜれば、女の背筋がしなやかに撓り、丸めた爪先が結んで開いてをくりかえす。
「あッ、ああッ、あ―――――ッ」
ひく付く内腿を伝う愛液がたまらなく欲情をそそる、最高にエロい眺め。指だけで軽く達し、びくびくと爪先が床をひっかく。
息を荒げる女に押し被さり、指に絡んだ濃厚な蜜を舐めとる。
「挿れる前にイッちまった?」
「意地悪」
女が俺を抱擁、甘ったるく囁く。
「ピル飲んだから生でいいわよ」
「よしきた」
この年で父親になんのはまっぴらだしドブさらいの代金せびられるのも願い下げ。心優しい俺の小鳩はdrop a babyというと物凄く嫌な顔をする。
立ってヤるのは嫌いじゃねえが廊下でさかると後始末が面倒だ。
「あッ、やァっスワローきたァ」
肉付きのいい両足を割り開き、抱え上げて突っこめば、語尾が甘く蕩けビクビク痙攣。
「大股開きでしがみ付け、落ちても知らねーぞ」
「この姿勢恥ずかしい……フツーに連れてってよばかァ」
むっちりした両足が腰を挟み込み、振り落とされちゃなるまいと必死に縋り付く。
「あッあッあああああああッひあッァ―――――――!!」
尻肉を鷲掴み、弾みを付けてのし歩く。乱暴に揺すり立てられた女が仰け反り絶叫、大量の涎を撒いて喘ぎまくる。
「あッヤだァっスアロ―奥、いちばん奥ゴリゴリあたってすご、あはっ」
「キュウキュウ波打ってら」
挿入の角度が一際深くなり、ペニスの先端が子宮口のしこりを突く。
締め付けがキツくて気持ちいい。手が離せねえから代わりに足でドアを開け、繋がったまんま自室のベッドに倒れこむ。
「わけわかんねーくらいイかせてやる」
「もっと優しく……」
「知るか」
レイプ紛いの行為にマットレスが弾み、よすぎておかしくなった女が俺の胸板に手を伸ばす。
ドッグタグの鎖を掴もうとした手を掴み、捻じ伏せ、断固としてもぎはなす。
「あっやっそこおっ、もーだめィくっィっちゃ、許してスワロー!」
「泣けよ叫べよ、ぶっ壊してやる」
快楽渦巻く腹の底で凶暴な感情が咆哮する。
ピジョンのくそったれが、知ったかぶってほざきやがって。全部全部アイツが悪い、俺を気持ちよくさせねーのが悪い、他の女に目移りすんのがイヤなら自分が相手すりゃ済む話だ。
『女の子を日替わりでとっかえひっかえする薄情にはわからないだろうけど、俺は本当に好きになった子と一対一で向き合いたいんだ。恋愛はプロセスが大事、身体から入るなんて論外だね』
じゃあ俺と向き合えよ。
片時たりともよそ見せず、四六時中向き合えよ。
『コイツは君のこと遊びとしか思ってないから。帰りの足代ないって喚く女の子を下着姿でアパートの廊下に蹴り出すようなクズだから、きっぱり別れた方が利口だよ。君と君を本当に好きになってくれる人の為に自分を粗末にするのはやめたほうがいい』
じゃあテメェごときに本気で惚れてる俺様の立場はどうなんだ。よその女の世話焼く暇あんならこっち見ろ、朝から晩まで俺に尽くせよ。
自分を粗末にするなだと?
どの口で言いやがる阿呆が、テメェが修行から帰還した日のことは一日だって忘れちゃない。トラムの駅で久しぶりに再会した兄貴、顔中に貼られた絆創膏と手足に巻かれた痛々しい包帯、生傷だらけの顔でほわわんと笑いくさって……
『俺をコケにするのはいいけど先生を巻き込むのはやめろ。今度やったら絶交だ』
「あっあッあぁ―――――――――ィやっ死ぬっ死んじゃうっ、おねがいもうやめっ、ァあっふァああっ許して!!」
「ほらよイケっイッちまえ、テメェが一度も味わったことねーようなすげェの呼んでやる!!」
求めてこねーのが悪い縋ってこねーのが悪い俺ん中がアイツで満たされてるほどアイツん中が俺で満たされてねえのが全部悪い
「ッ……」
絶頂へ駆け上がる締め付けに快感が襲い、胎内で勢いよく射精する。汗で濡れそぼった髪が邪魔だ。ふと見下ろしゃ女はぐったりしている、失神しちまったみてえだ。
セックスして腹が減った。トランクスを穿き直しジーパンに足を通す。廊下を歩いてキッチンへ行き、ボウルへシリアルをぶっこもうとして失態に気付く。
「~~~~~~~~あンの野郎」
床に匙を投げ付け、椅子に掛けてから卓上に足をのっける。
アイツのこった、どうせすぐ帰ってくる。でももし教会へ戻ってたら……いや、それはない。ピジョンは他人を頼るのがド下手くそだ、そんなアイツが自分から迷惑かけにいくもんか。
『今度という今度は本当に愛想が尽きた』
『……言っても無駄だな』
虚しい気休めを吹き飛ばす決別のフレーズが、硬質な響きを伴い耳の奥に響き渡る。
あの時のピジョンのツラときたら。
「チッ」
履き古したスニーカーの踵で思いきり机を蹴り付ける。
だれが探しにいくもんか。絶交は口癖だ。女に足代貸して一文なし、どうせすぐ戻ってくる、きっとそうに決まってる……
苛立ち紛れに鎖を弄べば、複雑に絡まり合って外れなくなる。
力任せに引きちぎりたい衝動を堪え、指を纏めて締め上げる鎖に唇を触れさせれば、嫌な予感が騒ぎだす。アイツがほかのだれかにとられちまうような―
にわかに落ち着きをなくし、椅子を蹴立てて玄関へ赴く。
力一杯ドアを開け放ち、アパートの廊下を走り抜け、故障中のエレベーターはスルーし三段とばしで階段を駆け下りながら、俺が考えていたのは兄貴のことだけだ。
アイツはきっと何も期待してない、俺が探しに来るなんて思っちゃない。俺はただ椅子にふんぞり返って待ってるだけだと決めこんで、今頃はのんきに鳩に餌でもやってやがるのだ。
「……見損なうんじゃねえよ」
「ッでー……」
完ぺキ二日酔いだ。安穏とした雀の囀りさえ頭に響く。
こめかみを片手で押さえて起き上がりゃ隣はもぬけの殻だが、数分前まで人がいた証拠に寝乱れた跡とぬくもりがまだ残る。
半端に捲れたカーテンの隙間から燦燦と注ぐ朝日が眩しい。下半身が怠いのは一夜のお楽しみの代償、セックスの余韻特有の虚脱感。
首筋や胸板、太腿にゃキスマークが散らばり、二人分の汗を吸って乾いたシーツには真っ赤な口紅が掠ったあと。
「ん―――――……」
ぐずって反転した拍子に華奢な鎖が首筋を滑り落ち、半ば無意識に掴んだドックタグにキスをする。
たいした意味はない。ガキの頃からの癖、一日のスタートを切るまじないみたいなもんだ。隣にアイツが寝てりゃ順番は逆になってた。
ピジョンにキスするとたまに寝ぼけて返してくるのが面白い。先越された朝はイタズラもお預けだが、興がのりゃそのままおっぱじめたりもする。で、あとから腰が痛いだの盛り過ぎだの文句を言われるのだ。
まどろみから覚醒に至る助走の時間、薄靄がかった頭で昨晩の記憶をたどる。
クラブで知り合った女を酔ってトイレの個室に連れ込み一発、抱き足りずにお持ち帰りで二発、都合三発。ベッドの傍らに置かれたクズ籠にゃ萎んだコンドームがひっかかってる。
それを弾いて中に落とし、寝癖だらけの髪を乱暴にかきまわす。
「帰ったのか……?」
所詮名前も覚えてねえ行きずりの女、とっとと消えてくれりゃ後腐れずに助かる。
中には勘違いして責任とれだの恋人になれだの戯言ぬかし、図々しく居座る奴もいる。なもんで、なるべく家に上げないようにしてたんだが酔いも手伝って久しぶりにやらかした。
セックスは大好きだ、よってセフレは多くキープしとくに越したことない。連絡先くらい交換しとくんだったかと惜しむ気持ちはすぐ薄れ、空腹を自覚して朝飯に心が飛ぶ。
人生を楽しむコツはほどほどに不実であることだ、どこかの駄バトみてえに真面目なだけじゃ息が詰まる。アイツは人生楽しいのかね?
「くあ……」
かったりぃ……けどそろそろ起きだすか。
素足を床におろし、蹴り上げたトランクスを穿いて部屋を突っ切る。
洗面所の方でうるさい物音。不審がってドアを開けるや、ずれたズボンをひきずりながらピジョンがフレームイン。
特別な祝い事の時だけ開けるシャンパンみてえなピンクゴールドの髪、俺と揃いのラスティネイルの瞳。
平凡な顔立ちと釣り合いとれたお人好しな表情にゃ、世界中の貧乏くじを後生大事にコレクションしてるような苦労性が滲み出てやがる。
「るっせえな、もう少しお行儀よく歩けねーのか響くだろ。こちとら二日酔いで頭がくわんくわんすんだ」
「それどころじゃない!!」
何故だか起き抜けからおかんむりのピジョンが、尻をかいて立ち尽くす俺の下半身に視線を落とし、世にも忌々しい形相に豹変。
「パンツくらいちゃんと穿け」
「穿いてんじゃんか」
理不尽な言いがかりに鼻白めば、ピジョンが小賢しく腕を組む。
「俺的に恥骨の露出はアウト。ローライズにもほどがある」
「見えそうで見えねーチラリズムがウリ」
「誰にサービス」
「兄貴」
トランクスの片端をずりさげ恥骨を覗かす。ピジョンがさも嫌そうな顔になる。
「押し売りの間違いだろ。朝っぱらから見苦しい、萎える」
さすがにカチンとくる。壁に片手を付いて生意気なピジョンを通せんぼ、ずいと詰め寄る。
「随分な言い草だなえぇオイ、てめえだってこれが大好きなくせに」
「お前の卑しん棒が?冗談よせよ、時と場所をわきまえないやんちゃっぷりにさんざん手こずらされたけど恋しくなったことは一度もないね。パンツの中でお行儀よくしてるなら別だけど」
「俺の倅は起立しちまうんだよ、元気だかんな」
「躾がなってない」
「リップサービスで付け上がらせっからだ。即ちテメェの自業自得だピジョン、わかったらとっととキッチン行って飯用意してこい、今日はベーコンエッグと直搾りオレンジジュースな。目玉焼きは黄味がとろりと流れ出る半熟、ベーコンは両面こんがり焼いて」
「お前が当番だろ!!」
くどい注文にピジョンがキレる。朝から興奮すると血圧が上がる。と、洗面所の方から軽い足音が近付いてくる。
「捕まえた」
「わっ、とと」
ピジョンの背中に覆い被さったのは亜麻色の髪の女……確か昨日クラブで見た。振り返ったピジョンの顔が引き攣るのに頬ずり、艶っぽく耳朶に囁く。
「逃げるなんてツレないわね、せっかく遊んであげようって言ってんのに」
「それはいい、いいから離れて」
「下半身は準備万端よ」
「体内時計が正しく働いた生理現象」
「股間の鳩時計は正確だな」
「誰がハメたせいでこんな羽目に」
「朝になりゃ元気よく飛びだして時を告げる」
「女の子の前で下品な発言禁止」
「かまわないわよ、昨日はもっと下品なことしまくったし」
首に絡む細腕を振りほどこうと紳士的にばた付く傍ら、股間に潜る一方の手を引っぺがしと大忙しのピジョンをからかえば、ありったけの憎悪をこめて睨まれる。
「あ、スワロー起きたんだおはよ」
「よ」
ピジョンにおんぶにだっこした女の挨拶におざなりに手を振り返しゃ、一旦離れてこっちに来て、俺の首ったまにかじり付く。
上目遣いに媚びた表情……俺と寝た奴は大抵この顔をする。与えられた快楽に味をしめ、次を期待して打算を働かせる。
見返りを求めず、下心を伴わず、何もせずただ寝たのは母さんとピジョンだけ。俺にとって特別な二人、特別な川の字。
「昨日はすごかったわ、評判通りね。みんながすごいすごい言うもんだからどんだけよって内心思ってたけど……あんなのどこで覚えたの?」
「母親の仕事場」
「冗談上手いわね。あっちも絶倫でテクも上々……店の子がほっとかないはずよ、アタシもはまっちゃいそ」
「アンタも悪くなかったよ、抱き足りずに持ち帰った女は久しぶりだ」
「まさかトイレでヤッて放り出す魂胆だったの?酷い男」
「そこに惚れたんだろ」
女に褒められるのは悪い気分じゃない、テクにかけちゃ賞金稼ぎを廃業してもジゴロでやってけるほどの自信がある。
後戯の延長でじゃれあって、顎を摘まんで機嫌をとる。女がうっとりと瞳を潤ませ、俺の首筋を手の甲で撫で上げる。
目の端で挑発がてら反応を観察すりゃ、初対面の女と俺の乳繰り合いを見せ付けられたピジョンがぶーたれている。口じゃ倅をこきおろしたくせにいっちょまえに嫉妬してやがるのだ、可愛いヤツめ。
女が悪戯っぽく含み笑い、俺にしなだれかかったまんまピジョンを仰ぐ。
「ちょうどよかった、3Pしない?」
「だとさ、どうするよ」
「そんな気分じゃない」
「え~」
「減るもんじゃなしいいじゃん」
「ふざけるなよスワロー、洗面所で跨ってきたんだぞ?お前が連れ込んだんだから最後まで責任もて」
「家は聖域か」
「あちこち泊まり歩くのはもう諦めてるけど喘ぎ声と物音がうるさくて寝付けないのはごめんだよ、近所迷惑だし。こないだの娘なんて部屋間違えて俺のベッドにもぐりこんできたぞ、股ぐらまさぐられて飛び起きた身になれ」
「寸止めで残念だったな、ぐーすぴ寝たふりしてりゃフェラに預かれたのに律義か」
「真面目に聞けって」
「割と頻繁に訪れる貞操の危機を乗り切れてよかったじゃねーか、テメェの場合バック狙われる頻度のが高ェけど。前も使わねーと錆びるぜ、ただでさえオナ禁期間長くてフニャってんだ」
「なっ……」
ピジョンが赤面して絶句、どうやら図星だったみてえだ。怒りに任せて叫ぼうとして女の存在を憚り、小声で器用になじる。
「……んで知ってるんだよそんなこと!?」
「お前の好きな聖書に書いてあんじゃん。汝、姦淫するなかれ……不真面目な俺だって知ってる有名な戒律。熱心な信者はオイタしねーように寝る前に手ェ縛ってもらうんだよな?SMかよ、よくやるぜ」
ピジョンの胸元に手をやり、わざといやらしく十字架をもてあそぶ。
「で?熱烈リスペクトする神父様に毎晩縛ってもらったのか」
「先生を侮辱するな」
即座に奪い返した十字架にキスをし、毅然と俺を睨み据える。
「俺をコケにするのはいいけど先生を巻き込むのはやめろ。今度やったら絶交だ」
十字架を握り締め、神父を庇い立てるピジョン。怒りに燃える赤錆の瞳。
たいした意味はない、俺とおなじだ。今のキスにゃ何の意味もないと頭じゃわかっていても、嫉妬の念が止まらない。
今すぐ胸ぐら締め上げて、目障りなロザリオを窓からぶん投げたい衝動を制す。
俺と揃いのタグをさしおいて、兄貴の胸のど真ん中を占めてるのが気に入らねェ。
誰の許しを得て居座ってやがる?
そこは俺の席だぞ。
「お取込み中?出直す?足代ない。ねー車呼んでー私の部屋遠いんだよね」
兄貴と言い争うあいだ、蚊帳の外にほっぽりだされた女は退屈そうに枝毛をいじり、それにも飽きて爪を翳し見はじめる。さすが俺のセフレ、切り替えが早い。
ピジョンが心底軽蔑しきった顔で吐き捨てる。
「今度という今度は本当に愛想が尽きた、今のお前を見たら母さんががっかりする」
「デジャビュるセリフ、創意工夫が見られねー減点。母さんならさすが私の息子ねって諸手あげて喜ぶさ、二十年近く生きててろくにスケコマシも覚えねー長男のが期待外れだ」
「女の子を日替わりでとっかえひっかえする薄情にはわからないだろうけど、俺は本当に好きになった子と一対一で向き合いたいんだ。恋愛はプロセスが大事、身体から入るなんて論外だね」
「誠意は正常位のカタチってか」
「体位をさして言ったんじゃない、もっとこーメンタル的な心構えだ。……そもそもお前、彼女の名前知ってるのか」
「さあ?忘れちまった」
ピジョンが愕然とし、マニキュアの剥げを気にする女にゃ間違っても聞こえねえように声を落とす。
「名前も知らない子と寝たのか。正気を疑うね」
「たいした問題じゃねー、気持ち良けりゃ万々歳」
「よく知りもせず失礼だろ」
「兄貴は恋人の名前血液型誕生日3サイズ家族構成ぜーんぶチェックした上で母さんに報告すんの?ハッ、傑作だな!世界一の娼婦におめもじ叶えば幻の彼女もさぞ喜ぶだろうな、序でに上手な尺八や素股のやりかた教えてもらえ。いいかピジョン、テメェが売女の血筋って忘れんな。お前はまだ一人っきゃ女を知らねーからしれっと構えてられっけど、セックスにハマったらあとは坂道転がり落ちるだけさ。なんたって俺と血を分けた兄貴だ、お上品ぶったって根っこは同じ、前おっ勃ててえらっそうに非難できる立場か」
あえて地雷を踏み抜きにいくのが俺のスタイルだ。
「……言っても無駄だな」
母さんを持ち出され案の定憤慨、大股に自室に消えるやモッズコートを羽織って引き返し、几帳面に折り畳んだ紙幣と小銭、次いで清潔なバスタオルを女の手に押し付ける。
「足りるかい」
「どーも。見た目どおりいい人ね」
褒めてるのか馬鹿にしてるのか微妙な評価。「いい人」の前に「都合の」って幻聴すら聞こえる。
ぺたぺた廊下を歩いてキッチンへ行き、冷蔵庫から牛乳パックを取り出す。片手を腰にあて仁王立ちでがぶ飲み、のどを潤す。
「朝飯まだかよ。腹減ってんだ、察しろ」
「ピザの平箱の蓋裏にひっ付いたチーズなめてろ」
続いてキッチンへ駆け込んだピジョンがカウンターに置いてあるシリアルの箱を手早く没収。
「おい待てどこ持ってく」
「お前の胃袋におさまる位なら鳩に施した方がマシだね、せいぜいひもじさを耐えることを学ぶんだな」
どういう理屈だ。力ずくで取り返すのは簡単だが、たかがシリアル一箱でドヤってる兄貴と同じ次元に落ちたくねえ。女に格好悪いところを見せたくねえ意地も働く。
あきれ顔の俺を置き去りに玄関へ向かうさなか、すれ違った女に性懲りなくお節介を焼く。
「お金は次きた時に」
「返さなくていいから。あと、コイツは君のこと遊びとしか思ってないから。帰りの足代ないって喚く女の子を下着姿でアパートの廊下に蹴り出すようなクズだから、きっぱり別れた方が利口だよ。君と君を本当に好きになってくれる人の為に自分を粗末にするのはやめたほうがいい」
あっけにとられて二の句も継げない女の顔が目に浮かぶようだ。
荒々しくドアが閉じて静寂が舞い戻る。
牛乳パックを戻して廊下にでりゃ裸にバスタオルを纏った女が苦笑い。
「行っちゃった。いいの?」
腕に抱えているのは俺の部屋から回収した服。ったく、底抜けのお人好しめ。
「ほっとけ、ヒステリーなんだ」
「ホントに血が繋がってるの?全然似てない」
「半分だけな」
「あの誠実さ、スワローと兄弟なんて思えない」
「兄貴の半分は誠意でできてるんだ」
「残り半分は?」
「俺」
女の腕を掴んで壁に磔、唇を奪えば一瞬面食らうも、口ん中を犯されて次第に脱力。歯茎の裏を舌でなぞり、頬の内側の粘膜をくすぐれば、たちまち粘っこい唾液があふれだす。
「ん、はァ、あむ……ちょっとスアロ」
「邪魔者は消えた。延長戦といこうぜ」
脳裏にチラ付く不愉快な残像を払拭したい一心で嗜虐心が駆り立てるがまま追い上げる。
「あッ、ちょ、やァっそこぉ」
舌足らずに名前を呼ばれ征服欲が高ぶる。
潤んだ粘膜で唾液を捏ね、唇を軽く噛んで押さえ、鍛えた技巧で舌を絡めにいく。火照りを持て余した女があっさりバスタオルを払い落とし、一糸纏わぬ肢体で密着。
足元の衣服を蹴りどかし、形良い乳房を揉みしだく。手のひらで潰れる柔い弾力。片手で乳房を捏ね回し、反対の手でゆっくりと割れ目をなぞる。
「あッ、ふァ」
クリトリスを剥いて指圧、まめに転がして可愛がる。指の狭間で揉み絞り、蜜で先細り尖った恥毛をかきわけ膣へ潜らす。じれったげな内股でもぞ付き、官能の吐息を漏らす女。その間もキスは続ける。
一番敏感なクリトリスへの刺激ですっかり潤った膣は、二本指の根元まで深々咥えこむ。
「欲張りなお口だな、ぎっちり食い付いてくる」
「ここじゃやだ、ベッドに連れてって」
「洗面所で襲ったんだろ」
「アタシが上ならいいの、痛くないでしょ」
しっとり汗ばむ柔肌を夢中で貪る。膣のぬかるみを激しくかきまぜれば、女の背筋がしなやかに撓り、丸めた爪先が結んで開いてをくりかえす。
「あッ、ああッ、あ―――――ッ」
ひく付く内腿を伝う愛液がたまらなく欲情をそそる、最高にエロい眺め。指だけで軽く達し、びくびくと爪先が床をひっかく。
息を荒げる女に押し被さり、指に絡んだ濃厚な蜜を舐めとる。
「挿れる前にイッちまった?」
「意地悪」
女が俺を抱擁、甘ったるく囁く。
「ピル飲んだから生でいいわよ」
「よしきた」
この年で父親になんのはまっぴらだしドブさらいの代金せびられるのも願い下げ。心優しい俺の小鳩はdrop a babyというと物凄く嫌な顔をする。
立ってヤるのは嫌いじゃねえが廊下でさかると後始末が面倒だ。
「あッ、やァっスワローきたァ」
肉付きのいい両足を割り開き、抱え上げて突っこめば、語尾が甘く蕩けビクビク痙攣。
「大股開きでしがみ付け、落ちても知らねーぞ」
「この姿勢恥ずかしい……フツーに連れてってよばかァ」
むっちりした両足が腰を挟み込み、振り落とされちゃなるまいと必死に縋り付く。
「あッあッあああああああッひあッァ―――――――!!」
尻肉を鷲掴み、弾みを付けてのし歩く。乱暴に揺すり立てられた女が仰け反り絶叫、大量の涎を撒いて喘ぎまくる。
「あッヤだァっスアロ―奥、いちばん奥ゴリゴリあたってすご、あはっ」
「キュウキュウ波打ってら」
挿入の角度が一際深くなり、ペニスの先端が子宮口のしこりを突く。
締め付けがキツくて気持ちいい。手が離せねえから代わりに足でドアを開け、繋がったまんま自室のベッドに倒れこむ。
「わけわかんねーくらいイかせてやる」
「もっと優しく……」
「知るか」
レイプ紛いの行為にマットレスが弾み、よすぎておかしくなった女が俺の胸板に手を伸ばす。
ドッグタグの鎖を掴もうとした手を掴み、捻じ伏せ、断固としてもぎはなす。
「あっやっそこおっ、もーだめィくっィっちゃ、許してスワロー!」
「泣けよ叫べよ、ぶっ壊してやる」
快楽渦巻く腹の底で凶暴な感情が咆哮する。
ピジョンのくそったれが、知ったかぶってほざきやがって。全部全部アイツが悪い、俺を気持ちよくさせねーのが悪い、他の女に目移りすんのがイヤなら自分が相手すりゃ済む話だ。
『女の子を日替わりでとっかえひっかえする薄情にはわからないだろうけど、俺は本当に好きになった子と一対一で向き合いたいんだ。恋愛はプロセスが大事、身体から入るなんて論外だね』
じゃあ俺と向き合えよ。
片時たりともよそ見せず、四六時中向き合えよ。
『コイツは君のこと遊びとしか思ってないから。帰りの足代ないって喚く女の子を下着姿でアパートの廊下に蹴り出すようなクズだから、きっぱり別れた方が利口だよ。君と君を本当に好きになってくれる人の為に自分を粗末にするのはやめたほうがいい』
じゃあテメェごときに本気で惚れてる俺様の立場はどうなんだ。よその女の世話焼く暇あんならこっち見ろ、朝から晩まで俺に尽くせよ。
自分を粗末にするなだと?
どの口で言いやがる阿呆が、テメェが修行から帰還した日のことは一日だって忘れちゃない。トラムの駅で久しぶりに再会した兄貴、顔中に貼られた絆創膏と手足に巻かれた痛々しい包帯、生傷だらけの顔でほわわんと笑いくさって……
『俺をコケにするのはいいけど先生を巻き込むのはやめろ。今度やったら絶交だ』
「あっあッあぁ―――――――――ィやっ死ぬっ死んじゃうっ、おねがいもうやめっ、ァあっふァああっ許して!!」
「ほらよイケっイッちまえ、テメェが一度も味わったことねーようなすげェの呼んでやる!!」
求めてこねーのが悪い縋ってこねーのが悪い俺ん中がアイツで満たされてるほどアイツん中が俺で満たされてねえのが全部悪い
「ッ……」
絶頂へ駆け上がる締め付けに快感が襲い、胎内で勢いよく射精する。汗で濡れそぼった髪が邪魔だ。ふと見下ろしゃ女はぐったりしている、失神しちまったみてえだ。
セックスして腹が減った。トランクスを穿き直しジーパンに足を通す。廊下を歩いてキッチンへ行き、ボウルへシリアルをぶっこもうとして失態に気付く。
「~~~~~~~~あンの野郎」
床に匙を投げ付け、椅子に掛けてから卓上に足をのっける。
アイツのこった、どうせすぐ帰ってくる。でももし教会へ戻ってたら……いや、それはない。ピジョンは他人を頼るのがド下手くそだ、そんなアイツが自分から迷惑かけにいくもんか。
『今度という今度は本当に愛想が尽きた』
『……言っても無駄だな』
虚しい気休めを吹き飛ばす決別のフレーズが、硬質な響きを伴い耳の奥に響き渡る。
あの時のピジョンのツラときたら。
「チッ」
履き古したスニーカーの踵で思いきり机を蹴り付ける。
だれが探しにいくもんか。絶交は口癖だ。女に足代貸して一文なし、どうせすぐ戻ってくる、きっとそうに決まってる……
苛立ち紛れに鎖を弄べば、複雑に絡まり合って外れなくなる。
力任せに引きちぎりたい衝動を堪え、指を纏めて締め上げる鎖に唇を触れさせれば、嫌な予感が騒ぎだす。アイツがほかのだれかにとられちまうような―
にわかに落ち着きをなくし、椅子を蹴立てて玄関へ赴く。
力一杯ドアを開け放ち、アパートの廊下を走り抜け、故障中のエレベーターはスルーし三段とばしで階段を駆け下りながら、俺が考えていたのは兄貴のことだけだ。
アイツはきっと何も期待してない、俺が探しに来るなんて思っちゃない。俺はただ椅子にふんぞり返って待ってるだけだと決めこんで、今頃はのんきに鳩に餌でもやってやがるのだ。
「……見損なうんじゃねえよ」
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