バンダースナッチ

まさみ

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三十一話

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「上映終了です」
ライブ配信のアーカイブを閉じる。カウンター越しのスツールには遊輔が腰掛け、銜え煙草で書き物をしていた。
「お疲れさん」
「同接と再生回数は記録更新、急上昇ランキングにも入ってました」
新宿二丁目のバー『Lewis』にて、ささやかな打ち上げを催す。寝不足由来の肌荒れに悩むマスターは、自ら進んで閉店作業を買って出た薫に感謝し、いそいそ帰ってしまった。指定席に遊輔が居残っているにもかかわらず。
「常連ほったらかしてお先に失礼って接客業的にアリなの」
「お客として認識されてないんじゃ」
「その心は」
「触らぬ神に祟りなし。あ、神は神でも疫病神とか貧乏神の方で」
「知りたくなかった」
「もっとやなこと教えてあげましょうか」
「何」
「今のマスターの口癖です」
「嫌われてんの俺?」
「それなら出禁にしますよ」
「だよな」
「ここは金銭と引き換えにアルコールを提供するお店なんで、さんざん飲み倒した挙句出世払いの空手形を切る人には、体でツケを払ってもらってるんです」
「掃除手伝ったろ」
「腰遣いが甘いから床汚れ落ちないんですよ、絞りが甘くて水浸しだしかえって手間増えました」
「営業時間までにゃ乾くって」
「滑ったら危ないじゃないですか」
「いちいちうるせえな、俺とお前っきゃいねえのにコケるかよ」
夜一時を過ぎた街はネオンも消えて静まり、別世界のような非日常感を漂わせている。
「飲みましょ。オーダーは」
「まかせる」
「かしこまりました」
バーテンダーのベストに身を包む薫が、きびきびした動作で支度にとりかかる。
ドライジンをベースにジンジャエールを加え、レモンジュースを継ぎ足し攪拌。
銀色に輝くシェイカーを傾け、炭酸の泡が弾けるカクテルをグラスに二等分注ぐ。
瑞々しいカットライムを縁に添え、雫を切れば完成だ。
「ジンバック、別名ロンドンバックです」
脚を持って差し出されたカクテルを受け取り、勢いよく嚥下する。
「苦。カクテル言葉は?」
「『正しき心』」
「皮肉か」
「不屈のジャーナリスト魂に敬意を表して」
一口飲んだ薫が残念そうに呟く。
「今回も出番なかったですね、猫ちゃん」
「きしょい言い方すな」
「次こそ一緒に出ません?」
「やだ」
「バンダースナッチが二人組ってわかったら皆驚くだろうな」
「チームって思われてんじゃねえの」
「コメント見ました?」
「バレて……ねえよな」
「たまに勘の鋭い人いますもんね」
中村悠馬の車から逃亡した男の正体は謎のまま。彼こそがバンダースナッチじゃないかと最初に言い出したのは誰だったか、匿名掲示板やSNS、動画のコメント欄に書き込まれたその仮説に「だったら面白い」とお祭り好きな人々が乗っかり、バンダースナッチをダークヒーローと崇める熱狂的ファンは増加の一途を辿っている。
二人が犯罪者の逮捕に貢献したのは事実なので、視聴者の考察はあながち間違いでもないのだが……。
「浮かない顔ですね。心配事でも」
「サツがガメた中村のスマホ」
「撮られたんでしたっけ、動画」
薫が意地悪く面白がる。
「男のプライドぐちゃぐちゃですね」
「身元が割れる」
「手ブレが激しくて顔わからないこと祈りましょうか」
「運頼みかよ」
「一応聞いときました」
「え?」
「警察に知り合いがいるんです。その人に確認頼んだんですけど、遊輔さんの動画、最初から撮ってなかったみたいですよ」
「は?」
困惑する遊輔に微笑み、耳元で囁く。
「『ホモじゃあるまいし誰が男のエロ動画なんか撮るか』」
「中村がそういったの?」
「取調室で」
「あの野郎……」
悠馬は撮るまねをしただけ、もとより録画する気などなかった。あるいは撮ってすぐデータを消したのか。
薫がグラスの中身を飲み干す。
「中村は利益至上主義のヘテロセクシャル、もといホモフォビアでした。女の子のレイプ動画は有料サイト転載で荒稼ぎできてもゲイビ市場は守備範囲外、趣味じゃないポルノなんて保存したところで持て余すだけ」
「スナッフフィルムは」
「レアリティが段違い。持ってるだけで畏怖られるのは快感だったと思いますよ」
「見せびらかしてマウント取りたあイカレてんぜ」
「遊輔さんの恥ずかしい姿ばら撒いたら社会的に殺してたんで、ギリ命拾いしましたね」
「参考までに聞かせろ。どんな仕返し考えた」
「中村が屈強な男たちとハードSMに耽るディープフェイクポルノを拡散」
「えぐっ」
「パドックで牝馬と交尾、タイトル『馬並とはイかず』」
「笑いのセンス狂ってんな」
「それ位してもいいでしょ」
貴方にしたことを考えれば。
皆まで言わず微笑む薫に少し引き、紫煙と一緒にため息を吐く。とりあえずは一安心、ローターで責められる映像が流出したら最後引きこもらざる得なかった。
にしても、だ。事件から数日経ち、今漸く恥ずかしい声を聞かせてしまった実感が湧いてきた。
当時は薫を巻き込むまいと思い詰め、顔から火が出るような戯言を色々口走った。
薫の表情が曇る。
「予想外の展開ですね、被害者が他にもいたなんて」
「春人は三人目改め六人目」
「そして最後。打ち止めラストオーダー
やりきれなさを煙に乗せて吐き出す。
フェアリー・フェラー……本名平坂務の自宅からは、被害者たちの体の一部が押収された。
平坂は過去二十年に亘り、好みの家出少年やホームレスを地下室に連れ込んで嬲りものにしてきたのだ。その中には無戸籍の未成年も含まれる。
「名前もわからない子に比べれば、遺族にきちんと供養してもらえる春人は幸運かもしれません」
「公開が吉と出るか凶と出るか」
「世論は動くでしょうよ、アレを聞いた上で平坂の精神異常を信じるほど大衆は馬鹿じゃありません。警察にも音声ファイルのコピーを送り付けておきました」
「匿名で?」
「もちろん」
遊輔がスマホを起こし、ニュース動画を再生する。
憔悴しきった平坂夫妻が横切る映像を眺め、薫はどうでもよさげに言った。
「母親はね、息子への虐待を見て見ぬふりしてたそうですよ。気難しい旦那に逆らうのが怖かったんでしょうね」
「大人しそうな人だもんな」
「春人の元友人のインタビュー見ましたか」
「泣いてたな」
「嘘っぽいですよね。全部終わった後で懺悔したって遅いのに、そんなにカタルシスが欲しいんでしょうか」
「本気で後悔してるように見えたけど」
「遊輔さんはお人好しだから」

マスコミの過熱報道に比例し、被害者やその遺族に注目が集まるのは世の習い。
自称春人の友人や同級生がテレビに出演し、涙ながらに故人の思い出を語るのを、薫は冷めた目で眺めていた。
春人の故郷に報道陣が殺到する中、母親の和美だけは一切の取材を断り、沈黙を守り続けている。
静かに息子を悼みたい、というのが彼女の意向である。

「間宮和美の独占音声、今ならテレビ局や出版社に高く売れるんじゃないですか」
試すように遊輔を覗き込む。
「公開する当てもない記事、ずっと書いてたんでしょ」
「ありゃ自己満足で」
「USBメモリの肥やしで終わらせる気ですか。いい加減報われてくださいよ」
情熱的な口説き文句にたじろぎ、カットライムの果肉を齧る。
「借金返したくないんですか。ウチだってツケで飲ませるわけには」
「世に出すのはまとめてから」
薫がきょとんとする。
「春人だけじゃねえぞ、被害者ん中にはまだ名前もわかってねーヤツがいる。他の奴はどこでどうやって生まれ育ったのか、どうして平坂なんかに殺られなきゃなんなかったのか、きっちり調べ上げて書かなきゃ手落ちだろーが」
遊輔の手元には何かを書き付けた『Lewis』のロゴ入りナプキンが敷かれていた。
隙を突いてナプキンを奪い、読む。
「進藤倫・小暮彰・長谷部昴・木瀬大貴・間宮春人……現在判明してる被害者の名前、殺された順。手書きの備忘録とはアナクロな」
「こっちのが覚えやすい」
「暗記してるでしょ。進藤と小暮の間の空きは」
「二人目の場所」
新たな供述をもとに奥多摩から掘り出された遺体は白骨化しており、未だ性別と年齢以外判明してない。この人物に関しては遺族や友人に聞き込んで掘り下げようがない為、ニュースは「平坂務の二人目の犠牲者」「十代後半から二十代前半の身元不明男性」とだけ報じていた。
表面がでこぼこしてるのは繰り返しなぞり書きしたせいか、筆圧の強い字は不格好に震えている。
「ここが埋まるまで発表はお預け」
ナプキンの空欄を指す。
「ミミズの盆踊りみたいな字ですけど、早速酔っ払ってます?」
「返せ」
取り返すなり苛立たしげに握り潰す……と見せかけ、丁寧に折り畳む。
「毎回これを?」
「……ああ」
「俺と会うまえからずっと?本当に?」
「癖なんだ、ほっとけ」

事件関係者の氏名を手近な紙に綴るのは、駆け出しの頃から変わらず続けてきた習慣。
一画一画力を込めて彼等彼女等の名を書き記すことで、歳月の経過に伴い忘れられゆく事件事故を一過性の悲劇として消費せず、利き手に刻み付けようとあがいてきた。

「何にメモしてきたんですか」
「手帳の余白、レシートの裏、文庫本の栞」
「まめですね」
感心半分呆れ半分の顔が豹変、遊輔の右手を掴む。
「中村がやったんですか」
手の甲には丸い火傷の痕。
「おかしいと思った、見かけによらず字が綺麗なのが数少ない取り柄なのに今日に限ってガタガタだし」
「地味に傷付く」
「見かけによらずの方ですか、数少ないの方ですか」
「両方って発想ねえの」
「なんで言ってくれなかったんですか」
「もうふさがった。根性焼きは別に初めてじゃねえし」
「西高の狂犬時代に?」
「忘れろそのだせーあだ名。なんで知ってんの」
「ストーカーですから」
「開かずの間に俺の写真べたべた貼ってたり」
「……」
「黙んなオイ、目を見ろ」
「冗談です冗談。そんなことあるわけないじゃないですか」
軽口が的を射たとは知らず、結露したグラスを左手で傾け、右手をくるくる回して苦笑い。
「二・三年前かな。取材中にヤクザとトラブって、事務所に監禁されちまって」
「その時に?」
「タフさにゃ自信あり」
押し付けられた煙草の痛みに耐えられたのは、あれ以前に経験があったから。
ジンバックをちびりと啜り、眼鏡の奥の瞳に尖った反骨精神を覗かせる。
「ヤクザに半殺しにされんのと比べりゃ根性焼きの一個二個ガキの火遊びの延長」

それは概ね事実だが、ほんの少しの嘘も含まれる。
初めて煙草を押し付けられたのは小三の時。相手は母の愛人。ある日突然転がり込んできた若い男は、酒を飲んでは遊輔を小突き、足の裏を煙草で焼いた。
わざわざ足裏を選んだ理由は一番ばれにくいから。もとより無関心で放任主義の母は、自分のヒモが遊輔を虐待していることに別れるまで気付かずじまいだった。
面倒くさくて気付かぬふりをしていただけか。
当時は足裏の火傷のせいで歩くのがこたえた。学校の行き帰りは地獄だった。家に帰ったら帰ったで男がいる。
自然放課後の図書室や雑誌を纏めたアパートの階段で過ごす時間が増え、活字に慣れ親しんでいった。

遊輔が住むアパートには錆びた鉄筋階段が付いており、ゴミの回収日には最下段脇に束ねた雑誌が置かれていた。
勝手に紐をほどき、それを読み漁った。
やがて漫画類を読み尽くし、大人向けの週刊誌に手を出す。ヌードグラビアには赤くなった。難しい漢字は飛ばした。早熟な少年の心を最も掴んだのは、週刊リアルの誌面に連載されていた、凄惨な事件のルポルタージュだった。

あの記事を読んでる間だけはアスファルトを灼く夏の熱さや鉄筋を凍て付かせる冬の寒さ、ひもじさを忘れていられた。

だが今、擦り切れた大人になった遊輔は記者を目指すきっかけとなった出来事を薫に伝えはしない。
不幸自慢はかっこ悪いから。
挫折を重ねたぶん図太くなったはずなのに、虚勢さえ張れなくなったらおしまいだから。

故に手の火傷も見せまいと気を付けてきたのに、酒が入った途端警戒心が緩んでバレてしまった。
薫がカウンターを回り、物思いに沈む遊輔の傍らに跪く。
「消毒します」
手の甲に口付ける。
「な」
「動かないで」
ゆっくり舌を浸し、赤く爛れた皮膚に唾液をまぶす。
「膝濡れるぞ」
「ほっときゃ乾きます」
「さっきと言ってること逆じゃねえか」
限りない優しさで唇が触れ、舌先が繊細に動き、丸い火傷が濡れ光る。
「……これが本当のアルコール消毒ってか」
「裏も」
真ん中にできた赤い穴を凝視し、綺麗な顔が歪む。
「殺してやりたい」
「物騒だな」
「本音ですよ」
しっとり湿ったてのひらに顔を埋め、くぼみに唇を押し当て、ニコチンよりもなお劇毒な悪意の残滓を唾液で希釈し吸い出す。
「この手で鍵開けるの大変だったでしょうに」
「構ってらんねーから」
「痕になりますよ」
「誰も気にしねえよ」
「俺は?」
「気にしてくれんの?」
「物凄く」
道具を投げたくなる激痛を押さえ込み、限界まで集中力を振り絞り解錠に取り組んだのは、ただただ扉の向こうの青年を助けたい一心で。
「痛くありませんか」
「ピリッてする程度」
「よかった。よくないけど」
「どっちだよ」
「書斎で声聞かされた時、どんな気持ちだったかわかりますか」

他の奴が貴方に触れてると思うだけで、貴方が辱められてると思うだけで気が狂いそうだった。

「殺意で息が詰まった。嫉妬でどうにかなりそうだった」

中村悠馬を憎んだ。
その仲間を憎んだ。

「すいません役立たずで」
「薫」
「大事な手が。俺のせいで」
ひたすら詫びる薫を見かね、顔を挟んで起こす。
「ヤバかったのはお互い様だろ」
きっと酒のせいだ。悪酔いしてるんだ。だからなんだ?構うもんか。
「慰めてやる」
指に馴染む体温に箍が緩む。薫の腕を掴んで立たせ、今度は自分の方から跪く。
「何の真似ですか」
薫の顔に浮かぶ疑問符を無視し、ズボンのジッパーを下げていく。
「上手くできっかわかんねーけど」
「正気ですか。ゲイじゃないんでしょ」
「してもらった事あるし思い出しながらやる」
「女性に、ですよね」
「当たり前」
嘲りめかし鼻を鳴らし、タイトなボクサーパンツを脱がす。
「強姦魔は口じゃしてくんねーだろ」
苛立ちまぎれに噛んだ煙草を吐き捨て、萎縮しきったペニスを包む。
「せっかく掃除したのに」
薫のペニスは長く形がいい。太さは然程でもないが、しなやかな反りと上品な色合いは美しいとさえ言えた。遊輔は口を開け、また閉じ、おそるおそる先端を含む。
「~~~~ッ、」
少し塩辛いのは汗の味か。吐き出したくなるのを堪え、最初は唇でなぞるように、徐々に大胆に舌を使い、巻き付け、ペニスを太く育てていく。
「っ、ふ」
カウンターを背にした薫が喘ぎ、股ぐらで上下する頭をかき抱く。遊輔は股間に顔を埋め、太さ固さを増したペニスを舐め回す。
舌の粘膜とペニスの粘膜が触れ合い、大量のカウパーが分泌され、気持ちがむらむら高ぶっていく。
「手、汚れちゃいますよ」
「後で洗うさ」
「でも」
「ぐちぐち言うな。萎える」
「遊輔さんはいいんですか、俺の物しゃぶるの嫌じゃないんですか」
「お前ならいい」
「ッ、それどーゆー」
「もっとグロいの想像してたけど、これならイケそうだ」
薫が悠馬に嫉妬したように、遊輔も平坂に嫉妬していた。
「気持ちいい、か?」
時折息継ぎをし、上気する表情を窺い、感じているか確かめる。粘っこい唾液を拭い、性急に陰茎を頬張る様子は、必死さが際立ち痛々しい程。
「まず……」
左手でぎこちなく撫で擦り、ひりひり疼く右手をそこに添え、丸い雫が膨らむ鈴口を舌でほじる。
ずれた眼鏡越しに睨み上げる双眸は湿り気を帯び、悔しげに引き歪む。
「どうしてほしいか言え、わかんねーんだよ」
「察してください」
「ああ゛?こちとら素人だぞざけんな」
「~~~どうされたら気持ちよかったか思い出してください」
片手でカウンターを掴み、片手で顔を覆った薫が叫ぶ。指の隙間から垣間見える顔は赤く、すかした余裕が消し飛んでいた。
仕方ない。
両手に吐いた唾を伸ばし、それをペニスに刷り込み、ぐちゃぐちゃに揉んで伸ばす。窄めた舌で鈴口をくすぐり、くびれのたるみを指で掻く。
「ぁ、ふ」
快感に腰が上擦り、カウンターを掴む手が強張る。薫の肌が上気しているのは羞恥によるものか、粘膜接触でアルコールが染み渡ったからか。
「ンぐ、う゛ッぇ」
口の中のペニスが急激に肥え太り、涙目でえずく。
「無理しないで、ご褒美なら十分なんで」
「寸止めなんかしてやんねえ」
気持ち悪い。苦しい。顎を拭って強がり、引き攣る笑顔で再び咥え、根元を手でしごく。
「どうしてほしいか言ってみ」
「ッ、ぐ」
「薫」
「奥まで飲み込んで。下品に舌絡めて」
「よしきた」
「手、サボらないで。ちゃんと持って、押さえて、裏筋くすぐってください」
「こうか」
奥手な青年を追い上げる悦びに目覚め、次第に大胆に、積極的になっていく。
「は、ふ」
勃起した陰茎を揉み搾りながら唇で愛撫し、物欲しげに舌を這わせ、ぐちゃぐちゃ抜き差しする。
「も、出ます」
薫が遊輔の頭を押さえ込み、縋り付くように抱き締めた途端、口内のペニスが痙攣した。
「!待、」
慌てて口を離すも間に合わず、顔面に濃厚な白濁が飛び散った。
「あー……」
眼鏡のレンズをツーッと伝い落ちる雫に、薫がみるみる青ざめていく。遊輔は無言無表情のまま眼鏡を外し、束ねたティッシュで拭きまくる。
「初フェラ初顔射くらっちまうとは」
「だって上手いから意外と」
「意外は余計」
「失礼しました、見かけどおりお上手です」
「元カノの実技研修に感謝だな」
「風俗嬢への取材も生きてますね」
「二丁目のウリ専にも取材したぜ」
遊輔が眼鏡を掛け直すのを待ち、薫がズボンを引き上げる。
「……まだ足りないって言ったら、気が済むまで付き合ってくれますか」
切羽詰まった眼差しに欲情の火が弾け、炎となって燃え広がる。遊輔は一瞬押し黙り、ややあってため息を吐き、すれ違いざま薫の肩を叩いた。
「続きは部屋で」
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