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12.奇跡、起こる。
しおりを挟む思わず声が飛び出してしまった。と、言ってもいい。
お腹の底からせりあがってくるような緊張感。ただ、あたし自身にも何が言いたかったのかは分からなくて。
「えっと、その…………こ、子供達は、少しでも好きに……?」
会話を続けなくては。
その思いだけで、思いついたままを質問する。
そんな場違いな質問にもフェイスリート様は、「好きになりましたよ」と、目を細めて言ってくれた。
「な、なら、また遊びにいらしてください!!」
あたしはすかさず言い、そして勢いのまま続ける。
「あたし、皆に自慢しておきますから!! あたしの事を騎士様のように助けて下さったって!」
フェイスリート様は「そんな、大げさな」と言ったが、全然大げさなんかじゃない。
「いいえ! 本当に素敵です! フェイスリート様!!」
そう言ったあたしに、フェイスリート様は苦笑いを向けた。
「……でも、眼鏡に髭。この顔じゃあ、貴女のナイトにはなれないんでしょう?」
一瞬何を言ってるのかと思った。
でもそれは、すぐ何の話か思い当たって。
「ひょっとして、さっきの話、本気にしたんですか?」
「……違うのですか?」
「うーんと……なんていうか……」
あたしはベンゲルとの会話をフェイスリート様に伝えた。
多分この方が正確に伝わるって思って。
そうしたら、何故かフェイスリート様の顔に赤みがさした。
彼は目をきょろきょろさせ、何かを考えているようだった。
落ちつきなく動く瞳は、なんだか可愛らしくて、思わず笑みが零れる。
そんな風にしばらく観察していると、「貴女は……」とフェイスリート様が口を開き。
「貴女は……幼い顔立ち……の方が好みなんですね」と、一言。
う!!
そ、そこ!? そこに引っ掛かってたの!?
あたしは突然投げられた爆弾で吹き飛ばされる思いだった。
その話は事実……だけど、なんだか彼の口から言われるといたたまれなくなる。
フェイスリート様はあたしの間抜け面を見て、微笑んだ。
初めて見る……といっても過言ではない優しい笑みは、あたしの心をきゅんと締めつける。
『眼鏡で髭でも素敵な人もいるんだから!』
『その人はあたしの事嫌いだけどっ、でも、あたしは彼が笑うところが好きよ!!』
自分で叫んだ言葉を思い出して、顔が熱くなる。
……だって、こんなに素敵なんだもん。だから、ドキドキするのは仕方がない――……
あたしはいたたまれない気持ちとドキドキを隠すためにギュッと口を引き結ぶ。
だって自分は嫌われている。なのに、こんな事を考えているなんて、フェイスリート様に知られる訳にはいかない。
そう考えた矢先。
「貴女は、眼鏡で髭でも素敵だと言ってくれました。でも……」
フェイスリート様が髪を触った。
その仕草はちょっと色っぽくって。後ろに流していた前髪がはらりと顔の前に現れる。
少しだけ目にかかるぐらいの前髪は見た目年齢を少し若返らせた。
あ、前髪がある方が……もっと、素敵。
そう思って眺めていると、フェイスリート様はその手で髭を触り…………なんと、ぺリッと取ってしまった。
……って! つけヒゲ!?
あたしが取れた髭に目を奪われていると、その髭を掴んでいる手は流れるように眼鏡も取ってしまった。
「――――………」
眼鏡の奥に隠れていたのは、くるりとしたまん丸の蒼い瞳。
その瞳にかかる前髪は少し整髪料が残っていたけれど、きっと本来は柔らかいんじゃないかと思う。
髭があった場所も少し赤くはなっていたが、よく見たらツルツルのスベスベだ。
あたしは再びフェイスリート様に目を奪われていた。
「こちらの方が、貴女の好みに近づいたでしょうか?」
そう言って、フェイスリート様は目を細め優しげに笑った。
(ち、ちょっと待って!!)
眼鏡を取ったら美人でしたって、それはたまにある!
でも、眼鏡と髭取って、前髪垂らしたら童顔って!!
どこにいるんだ、そんなやつ!! いや、目の前にいるっ!?
あたしは自問自答しながら、はたと気がついた。
「……フェイスリート様?」
「はい。なんですか?」
「あの、失礼ですがお歳は……」
「今年で二十七です」
「!!」
き、奇跡だ……!
ここに……ここに奇跡が起こっている!!
あたしは目の前のフェイスリート様を崇めたくなった。
二十七歳になるのに少年のような可愛らしい顔立ち。
それなのに年相応の表情で微笑むそのアンバランスは見ている者を惹きつける。
「歳が離れているのはイヤかな」
「い、いいえ!! そんなのは、全く気になりません!!」
「……そうか。よかった」
うわあああっ……この顔で大人スマイルっ……!
……ダメだ、思考がついて行けない!!
あたしはプシュッーっと頭から湯気が出た気がして、もうその後の事は何にも覚えていなかった。
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