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第2章 『手繰り寄せた終焉』
第17話 『護る者』
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「……あ……あの……」
「ん~? どしたの~?」
「いや……えっと……その…………こ、これは……」
「愛情表現だよ? 何か疑問?」
「──んなもん俺に見せつけんな」
少女と少女を抱き締めるシルヴァがソファに座り、その2人と向かい合ったソファにフレイムが座っていた。
人前でもお構いなく少女を愛でるシルヴァは、フレイムには目に余るようで、何かあれば即座にツッコミが入る。
「てか、お前らがイチャイチャすんのを見たくて部屋に入れたわけじゃねえぞ。シルヴァ、何でお前は俺にこいつの境遇を教えなかった?」
「それよ! 先に言っとくけどね! アタシは別にアンタが弱いだとか頼りないだとかなんてこれっぽっちも思ってないから! 勝手に勘違いしないで! 謝って!」
「な、何で俺が怒られてる……?」
眼前までとはいかずとも、それくらいの勢いを伴って突きつけられたシルヴァの人差し指にフレイムは動揺した。
「現にアタシはアンタにミズカちゃん預けたでしょ? この子はアタシの宝物なの。宝物を預かれる人間がそんな雑に扱われてるわけないでしょ!?」
「いや……だから何で俺が──」
「……グレイスさんが……止めてたんですよね……?」
少女でさえも、そのことに気づいていた。
シルヴァの勢いが強い時は、決まって何かを隠そうとしている時だった。
乃ち、自分を護ろうとしていたもう1人に、原因があるのだと。丁度それが血縁ともなれば、納得のしやすい話である。
「あちゃ~、ミズカちゃんは正直者で困っちゃうなぁ」
「やっぱ兄貴も知ってんのかよ……くそッ……!」
憤りを禁じ得ないフレイムの様子に、少女は思わず微かに戦くが、それを瞬時に感じ取ったシルヴァが、回していた腕の力を少し強めた。
「女子2人の前でそんな態度はダメだよ~少年? それに、あの捻くれ者がアンタにこの件を相談してないのには真っ当な理由がある。弟のアンタの方がよく分かるでしょ? 弱いとか頼りないとかじゃないちゃんとした理由が、ね?」
「……お前も兄貴も、これだから気に入らねえ……! アイツはどうせ、俺を巻き込みたくないとか気取ったこと言ったんだろ!? それなら、頼りにならないってはっきり言われた方がマシだ!! 俺はいつも護られる側かよ!!」
「……一言一句は差異あれど、大体分かってるじゃな~い? そこまで思考回路が似てて、どーしてその言葉の真理に気づけないかなぁ~。ま、私もどっちかと言えばアンタ寄りの立場だけどさ? きっとアンタが思ってるより、よっぽど単純な話よ? 唯一の家族を失いたくないから……とかね?」
『唯一』という言葉が疑問に残る少女だったが、黙り込んだ2人の間に走る戦慄した空気が、少女にそのまま沈黙を貫かせた。
その戦慄した空気を再び揺らしたのは、フレイムだった。
「──フルミネは……強かったんだろ?」
初耳の単語に、当然少女は無反応だったが、シルヴァに当てられたその疑問は彼女を震撼させた。
「グレイスから聞いたの?」
「イグニスだ。アイツがこの部屋に来る度、この名前を聞かされる。俺と入れ替わりで消えた、元勲一等だってな?」
「……はぁ……アイツも昔っから変わんないわね~。それこそ、フルミネ嬢もイグニスによく噛み付かれてたっけなぁ~。代わりにされてるみたいね、アンタ」
フレイムの舌打ちは、雨音を遮っている静寂な室内によく響いた。
またもや少女の中に疑問が生まれたが、シルヴァが間髪入れずに続けたことで、暫く押し黙っていた。
「別にアンタがフルミネ嬢に成り代わる必要なんてないわよ? さっきも言ったけど、私もグレイスも、ミズカちゃんだって、アンタを弱いなんて思ってない。それよりも、この子の境遇知っちゃったことだし、アンタがこの子をどうする気なのか。アタシはそっちの方が気になるけど?」
「…………コイツを護ったら……国を裏切ることになるんだよな?」
「ええ、そうよ?」
「随分代償が洒落になんねえ護衛任務だな。しかも、相手はお前と兄貴を抜いた『十の聖剣』か……ハハッ、考えれば考えるほど正気じゃねえし勝機もねえ」
唖然失笑するフレイム。しかし、次第にその笑みは彼の意志を見せ始めた。
「──ま、何にせよ選択肢は1つしかねえな。今ここでお前らに斬られるのは御免だ」
その言葉に2人は安堵した。
大きなため息を吐くシルヴァと微笑む少女の顔を見たフレイムは、何かを決心したかのように突然立ち上がった。
そのまま窓際まで移動し、外で降り頻る雨を見つめ始めた。
「この際だ。俺の意志表示がてらお前らに話しとく」
「ん? 何を?」
「お前は……グレイスから聞いてるかも知れねえが……まあ多分詳しくは知らねえだろ。それに、特に聞かせておきたいのはミズカの方だからな。今から丁度1年前の話だ」
その数字を聞いて、シルヴァは真っ先に察した様子だった。
「その話すんのはまだちょ~っと時期尚早じゃない? ミズカちゃんに背負わせる話でもないと思うけど?」
「勘違いすんな。戦争の話をするわけじゃねえ。今から話すのはその戦禍にいた馬鹿な2人の兄弟の話……
──ただの昔話だ」
「ん~? どしたの~?」
「いや……えっと……その…………こ、これは……」
「愛情表現だよ? 何か疑問?」
「──んなもん俺に見せつけんな」
少女と少女を抱き締めるシルヴァがソファに座り、その2人と向かい合ったソファにフレイムが座っていた。
人前でもお構いなく少女を愛でるシルヴァは、フレイムには目に余るようで、何かあれば即座にツッコミが入る。
「てか、お前らがイチャイチャすんのを見たくて部屋に入れたわけじゃねえぞ。シルヴァ、何でお前は俺にこいつの境遇を教えなかった?」
「それよ! 先に言っとくけどね! アタシは別にアンタが弱いだとか頼りないだとかなんてこれっぽっちも思ってないから! 勝手に勘違いしないで! 謝って!」
「な、何で俺が怒られてる……?」
眼前までとはいかずとも、それくらいの勢いを伴って突きつけられたシルヴァの人差し指にフレイムは動揺した。
「現にアタシはアンタにミズカちゃん預けたでしょ? この子はアタシの宝物なの。宝物を預かれる人間がそんな雑に扱われてるわけないでしょ!?」
「いや……だから何で俺が──」
「……グレイスさんが……止めてたんですよね……?」
少女でさえも、そのことに気づいていた。
シルヴァの勢いが強い時は、決まって何かを隠そうとしている時だった。
乃ち、自分を護ろうとしていたもう1人に、原因があるのだと。丁度それが血縁ともなれば、納得のしやすい話である。
「あちゃ~、ミズカちゃんは正直者で困っちゃうなぁ」
「やっぱ兄貴も知ってんのかよ……くそッ……!」
憤りを禁じ得ないフレイムの様子に、少女は思わず微かに戦くが、それを瞬時に感じ取ったシルヴァが、回していた腕の力を少し強めた。
「女子2人の前でそんな態度はダメだよ~少年? それに、あの捻くれ者がアンタにこの件を相談してないのには真っ当な理由がある。弟のアンタの方がよく分かるでしょ? 弱いとか頼りないとかじゃないちゃんとした理由が、ね?」
「……お前も兄貴も、これだから気に入らねえ……! アイツはどうせ、俺を巻き込みたくないとか気取ったこと言ったんだろ!? それなら、頼りにならないってはっきり言われた方がマシだ!! 俺はいつも護られる側かよ!!」
「……一言一句は差異あれど、大体分かってるじゃな~い? そこまで思考回路が似てて、どーしてその言葉の真理に気づけないかなぁ~。ま、私もどっちかと言えばアンタ寄りの立場だけどさ? きっとアンタが思ってるより、よっぽど単純な話よ? 唯一の家族を失いたくないから……とかね?」
『唯一』という言葉が疑問に残る少女だったが、黙り込んだ2人の間に走る戦慄した空気が、少女にそのまま沈黙を貫かせた。
その戦慄した空気を再び揺らしたのは、フレイムだった。
「──フルミネは……強かったんだろ?」
初耳の単語に、当然少女は無反応だったが、シルヴァに当てられたその疑問は彼女を震撼させた。
「グレイスから聞いたの?」
「イグニスだ。アイツがこの部屋に来る度、この名前を聞かされる。俺と入れ替わりで消えた、元勲一等だってな?」
「……はぁ……アイツも昔っから変わんないわね~。それこそ、フルミネ嬢もイグニスによく噛み付かれてたっけなぁ~。代わりにされてるみたいね、アンタ」
フレイムの舌打ちは、雨音を遮っている静寂な室内によく響いた。
またもや少女の中に疑問が生まれたが、シルヴァが間髪入れずに続けたことで、暫く押し黙っていた。
「別にアンタがフルミネ嬢に成り代わる必要なんてないわよ? さっきも言ったけど、私もグレイスも、ミズカちゃんだって、アンタを弱いなんて思ってない。それよりも、この子の境遇知っちゃったことだし、アンタがこの子をどうする気なのか。アタシはそっちの方が気になるけど?」
「…………コイツを護ったら……国を裏切ることになるんだよな?」
「ええ、そうよ?」
「随分代償が洒落になんねえ護衛任務だな。しかも、相手はお前と兄貴を抜いた『十の聖剣』か……ハハッ、考えれば考えるほど正気じゃねえし勝機もねえ」
唖然失笑するフレイム。しかし、次第にその笑みは彼の意志を見せ始めた。
「──ま、何にせよ選択肢は1つしかねえな。今ここでお前らに斬られるのは御免だ」
その言葉に2人は安堵した。
大きなため息を吐くシルヴァと微笑む少女の顔を見たフレイムは、何かを決心したかのように突然立ち上がった。
そのまま窓際まで移動し、外で降り頻る雨を見つめ始めた。
「この際だ。俺の意志表示がてらお前らに話しとく」
「ん? 何を?」
「お前は……グレイスから聞いてるかも知れねえが……まあ多分詳しくは知らねえだろ。それに、特に聞かせておきたいのはミズカの方だからな。今から丁度1年前の話だ」
その数字を聞いて、シルヴァは真っ先に察した様子だった。
「その話すんのはまだちょ~っと時期尚早じゃない? ミズカちゃんに背負わせる話でもないと思うけど?」
「勘違いすんな。戦争の話をするわけじゃねえ。今から話すのはその戦禍にいた馬鹿な2人の兄弟の話……
──ただの昔話だ」
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