生贄公爵と蛇の王

荒瀬ヤヒロ

文字の大きさ
上 下
42 / 98

第42話

しおりを挟む

***


 領地へ戻る途中、ダニエルはふと思い立って馬車の行く先を変えさせた。
 向かうのは、クレメラ子爵の住む家。
 パメラには近づくなと言われたが、王都で出会ったパメラの様子がどうにもおかしいように思えて、ダニエルの胸は不安でざわめいていた。

 パメラは若い令嬢らしく着飾り華やかなパーティーを楽しんでいた。それだけなら、おかしいとはいえない。パメラはこの家にいる時より幸せそうだった。

 なのに、ダニエルには不吉な予感がしてたまらないのだ。
 何かがパメラを変えてしまったような、パメラの中に別人がいるような、そんな気がするのだ。

 馬鹿げた想像だと自分を笑いながらも、それでもダニエルはクレメラ子爵家を訪ねずにはいられなかった。

 扉を叩くが、中から反応は帰ってこない。人の気配もない。誰もいないようだ。
 いないのなら仕方がないと諦めかけたが、何故かダニエルはその場から立ち去り難かった。
 パメラは売られそうになって逃げ出したと言っていた。しかし、パメラが王都で華やかに暮らしていてい、あの義母と義姉が黙っているはずがない。

 ダニエルは思い切って扉に手をかけた。
 すると、扉は軋んだ音を立てて開いた。
 室内は暗い。だが、テーブルが倒れ、テーブルクロスがぐしゃぐしゃになって床に落ちているのが見える。
 ダニエルは息を飲んで室内に足を踏み入れた。
 何があったのだろう。ただならぬ雰囲気に背筋を震わせたその時、足下で何か音がした。
 床の軋んだ音とは違う。何か重いものを引きずったような音が、足の下から聞こえてきた。

(……地下?)

 ダニエルが恐る恐る地下に向かうと、扉には閂がかけられていた。
 少しの間逡巡したが、ダニエルは閂に手をかけた。
 扉を開くと、むわっと嫌な臭いが漏れ出てくる。思わず顔をしかめたダニエルは、真っ暗な地下室で何かが蠢いているのに気づいた。

「……っ、子爵!?」

 床に倒れて力なく動いている男を見て、ダニエルは驚愕した。

「子爵っ」

 駆け寄って様子を見ると、子爵は苦しそうに呻いていた。

「一体何が……」

 閂がかかっていたことを思うと、彼はここに閉じ込められていたに違いない。

(誰の仕業だ? あの義母と義姉か?)

 だとしたら、パメラの身も危ないのではないか。ダニエルは青ざめた。
 とにかく子爵から何があったかを聞かねばならないと、ダニエルは人を呼ぶために地下室から駆け出した。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

騎士志望のご令息は暗躍がお得意

月野槐樹
ファンタジー
王弟で辺境伯である父を保つマーカスは、辺境の田舎育ちのマイペースな次男坊。 剣の腕は、かつて「魔王」とまで言われた父や父似の兄に比べれば平凡と自認していて、剣より魔法が大好き。戦う時は武力より、どちらというと裏工作? だけど、ちょっとした気まぐれで騎士を目指してみました。 典型的な「騎士」とは違うかもしれないけど、護る時は全力です。 従者のジョセフィンと駆け抜ける青春学園騎士物語。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

普通の勇者とハーレム勇者

リョウタ
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞】に投稿しました。 超イケメン勇者は幼馴染や妹達と一緒に異世界に召喚された、驚くべき程に頭の痛い男である。 だが、この物語の主人公は彼では無く、それに巻き込まれた普通の高校生。 国王や第一王女がイケメン勇者に期待する中、優秀である第二王女、第一王子はだんだん普通の勇者に興味を持っていく。 そんな普通の勇者の周りには、とんでもない奴らが集まって来て彼は過保護過ぎる扱いを受けてしまう… 最終的にイケメン勇者は酷い目にあいますが、基本ほのぼのした物語にしていくつもりです。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

高校球児、公爵令嬢になる。

つづれ しういち
恋愛
 目が覚めたら、おデブでブサイクな公爵令嬢だった──。  いや、嘘だろ? 俺は甲子園を目指しているふつうの高校球児だったのに!  でもこの醜い令嬢の身分と財産を目当てに言い寄ってくる男爵の男やら、変ないじりをしてくる妹が気にいらないので、俺はこのさい、好き勝手にさせていただきます!  ってか俺の甲子園かえせー!  と思っていたら、運動して痩せてきた俺にイケメンが寄ってくるんですけど?  いや待って。俺、そっちの趣味だけはねえから! 助けてえ! ※R15は保険です。 ※基本、ハッピーエンドを目指します。 ※ボーイズラブっぽい表現が各所にあります。 ※基本、なんでも許せる方向け。 ※基本的にアホなコメディだと思ってください。でも愛はある、きっとある! ※小説家になろう、カクヨムにても同時更新。

処理中です...