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「継承は成功した! 勇者サガ・ハルミヤと聖女ルーシー・ホロウスターは魔王退治のために旅立つ! 女神アルテミジアの加護のあらんことを!」

 ポンコツ女神の加護にどれほど期待できるかは置いておいて、勇者と聖女を見た群衆はざわめいていた。

「あれが勇者様……?」
「聖女様、ごつくないか……?」
「ていうか、勇者様、小さいな」
「いや、あれは聖女様がでかいのでは?」

「コフーッ コフーッ」と息の荒い勇者と、今にも胸元の布がはちきれそう(筋肉による)な聖女へ、大神官が声をかける。

「勇者よ! 太陽の剣を抜くのじゃ!」

 声に答えて、「コフーッ コフーッ フゴッ」と息をしながら勇者が太陽の剣を鞘から引き抜いた。

「聖女よ! 浄化の炎を!」

 聖女がリンゴ丸ごと握りつぶせそうな分厚い手を空中にかざすと、そこに白い炎が現れ空へ燃え上がった。

「おお、太陽の剣を抜いたってことは、本物の勇者様だ……」
「聖女様も、浄化の炎を出したということは、本物だ……」

 群衆がざわめく。「光の力」と「浄化の力」を使えるのは何よりの証拠だ。では、彼らは正真正銘の勇者と聖女なのだ。
 たとえ、勇者が酸欠でふらふらしていようとも。聖女の法衣の裾から見える足のサイズが28センチぐらいありそうでも。

「では、国王陛下よりお言葉を!」

 貴賓席に座っていた国王が戸惑いつつも立ち上がる。

「ゆ、勇者サガ・ハルミヤよ。鎧が重そうだが大丈夫か?」
「コフーッ」
「聖女ルーシーよ。その……健康的でいいと思う」
「……(喋るとバレるので大きく頷く)」

「で、では、二人が魔王を倒してくれることを祈って……二人に女神アルテミジアの加護のあらんことを!」
「「おおおおお!」」

 国王の声に応えて、群衆から喝采が上がる。

「では、勇者と聖女は退場します」
「大神官よ。前に見た時、聖女は勇者より小さかった気が……」
「遠近法です!!」

 大神官は勇者と聖女を連れて馬車へ戻り、扉を固く閉めた。
 時には強引に相手を丸め込むぐらいの話術と大胆さがなければ、この世界では生き抜けない。それがビジネスの基本だ。
 デキる男、大神官にはこれぐらい朝飯前なのだ。

「はあはあ……よ、鎧が重い、暑い……」
「あっ……」

 馬車の中ではルーシーが息も絶え絶えで座席に沈み込み、サガの来ていた法衣の胸元がぱつーんと弾けた。


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