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しおりを挟む待ちに待った休暇の日、約束通りクロウが来てくれて、ここ数日のごたごたで疲れていた私は一気に気分が回復した。
「おかえり、クロウ!」
「ああ……」
お母さんと一緒に作った料理をテーブルに並べて、久しぶりにクロウと一緒にご飯を食べる。
クロウは平凡な容姿で、レイナード王子みたいな華やかさはないのに、私にとってはクロウと一緒の食卓の方が遙かに明るく楽しいものだった。
「今日は何時までいられる? お父さんとお母さんは出かけているけど、夕方になる前に戻ってくるから……」
二人も会いたがっていた、と伝えようとしたのだが、その前に玄関の扉がノックされた。
「誰かしら?」
私は首を傾げて玄関に向かった。
「はい、どなた……」
「よう、ジェナ」
そこに立っていたレイナード王子を見て、私は唖然とした。
なんで、ここに王子が……邪魔しないでほしいってはっきり言ったのに……
「邪魔するぞ」
「あっ、ちょっと……!」
強引に家の中に入られて、私は焦った。
「困ります!」
止めようとしたけれど、レイナード王子は勝手に中に入って食卓に座っていたクロウと鉢合わせしてしまった。
クロウは王子を見て目を瞬いている。
「お前がジェナの婚約者か」
レイナード王子が不敵な表情でクロウを見下ろした。
「よく聞け。ジェナは俺の妻にする! お前は潔く身を引くんだな」
はああ? 何言ってんだ、この人!
相手が王子だからと遠慮して接していたが、クロウにまで勝手なことを言われて私は滅茶苦茶に腹が立った。
「出て行ってください!!」
「そう怒るな。お前の婚約者に忠告しにきただけだ」
レイナード王子はふっと笑って、食卓の皿から肉を挟んだパンを摘んで噛みちぎった。
「今度は二人で食事をしようぜ、ジェナ」
芝居がかった仕草で身を翻し、レイナード王子は出ていった。
何なの?
「いったい何なのよ! なんで私につきまとうのよ!」
我慢できなくなって、私は怒りを口にした。クロウは黙ったままだ。
どう考えても、私がレイナード王子に気に入られる理由がない。騎士団には入ったばかりで、ろくに会話をしたこともないのに、なんで私を妻にするなんて言い出したのか。
「ジェナ」
「クロウ!」
宥めるように名を呼ばれて、私はクロウに泣きついた。
ぐすぐすとぐずる私に、クロウは「心配するな」と言った。
「王族だからって、嫌がる相手を無理矢理囲うことは出来ねえんだから、あの王子と二人きりにならなきゃ平気だろ」
「クロウ……」
私が嫌がっていることをちゃんとわかってくれているクロウに、私は感激した。
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