7 / 10
7
しおりを挟む待ちに待った休暇の日、約束通りクロウが来てくれて、ここ数日のごたごたで疲れていた私は一気に気分が回復した。
「おかえり、クロウ!」
「ああ……」
お母さんと一緒に作った料理をテーブルに並べて、久しぶりにクロウと一緒にご飯を食べる。
クロウは平凡な容姿で、レイナード王子みたいな華やかさはないのに、私にとってはクロウと一緒の食卓の方が遙かに明るく楽しいものだった。
「今日は何時までいられる? お父さんとお母さんは出かけているけど、夕方になる前に戻ってくるから……」
二人も会いたがっていた、と伝えようとしたのだが、その前に玄関の扉がノックされた。
「誰かしら?」
私は首を傾げて玄関に向かった。
「はい、どなた……」
「よう、ジェナ」
そこに立っていたレイナード王子を見て、私は唖然とした。
なんで、ここに王子が……邪魔しないでほしいってはっきり言ったのに……
「邪魔するぞ」
「あっ、ちょっと……!」
強引に家の中に入られて、私は焦った。
「困ります!」
止めようとしたけれど、レイナード王子は勝手に中に入って食卓に座っていたクロウと鉢合わせしてしまった。
クロウは王子を見て目を瞬いている。
「お前がジェナの婚約者か」
レイナード王子が不敵な表情でクロウを見下ろした。
「よく聞け。ジェナは俺の妻にする! お前は潔く身を引くんだな」
はああ? 何言ってんだ、この人!
相手が王子だからと遠慮して接していたが、クロウにまで勝手なことを言われて私は滅茶苦茶に腹が立った。
「出て行ってください!!」
「そう怒るな。お前の婚約者に忠告しにきただけだ」
レイナード王子はふっと笑って、食卓の皿から肉を挟んだパンを摘んで噛みちぎった。
「今度は二人で食事をしようぜ、ジェナ」
芝居がかった仕草で身を翻し、レイナード王子は出ていった。
何なの?
「いったい何なのよ! なんで私につきまとうのよ!」
我慢できなくなって、私は怒りを口にした。クロウは黙ったままだ。
どう考えても、私がレイナード王子に気に入られる理由がない。騎士団には入ったばかりで、ろくに会話をしたこともないのに、なんで私を妻にするなんて言い出したのか。
「ジェナ」
「クロウ!」
宥めるように名を呼ばれて、私はクロウに泣きついた。
ぐすぐすとぐずる私に、クロウは「心配するな」と言った。
「王族だからって、嫌がる相手を無理矢理囲うことは出来ねえんだから、あの王子と二人きりにならなきゃ平気だろ」
「クロウ……」
私が嫌がっていることをちゃんとわかってくれているクロウに、私は感激した。
81
お気に入りに追加
522
あなたにおすすめの小説
【完結】一途な恋? いえ、婚約破棄待ちです
かのん
恋愛
周囲の人間からは一途に第一王子殿下を慕い、殿下の浮気に耐え忍ぶ令嬢に見られている主人公リリー。
(あー。早く断罪イベント来て婚約破棄してくれないかな)
公爵家の麗しの姫君がそんなこと思っているだなんて、誰も思っていなかった。
全13話 毎日更新していきます。時間つぶしに読んでいただけたら嬉しいです。 作者かのん
【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫
紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。
スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。
そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。
捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。
可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?
絶対に離縁しません!
緑谷めい
恋愛
伯爵夫人マリー(20歳)は、自邸の一室で夫ファビアン(25歳)、そして夫の愛人ロジーヌ(30歳)と対峙していた。
「マリー、すまない。私と離縁してくれ」
「はぁ?」
夫からの唐突な求めに、マリーは驚いた。
夫に愛人がいることは知っていたが、相手のロジーヌが30歳の未亡人だと分かっていたので「アンタ、遊びなはれ。ワインも飲みなはれ」と余裕をぶっこいていたマリー。まさか自分が離縁を迫られることになるとは……。
※ 元鞘モノです。苦手な方は回避してください。全7話完結予定。
デートリヒは白い結婚をする
毛蟹葵葉
恋愛
デートリヒには婚約者がいる。
関係は最悪で「噂」によると恋人がいるらしい。
式が間近に迫ってくると、婚約者はデートリヒにこう言った。
「デートリヒ、お前とは白い結婚をする」
デートリヒは、微かな胸の痛みを見て見ぬふりをしてこう返した。
「望むところよ」
式当日、とんでもないことが起こった。
【完結】用済みと捨てられたはずの王妃はその愛を知らない
千紫万紅
恋愛
王位継承争いによって誕生した後ろ楯のない無力な少年王の後ろ楯となる為だけに。
公爵令嬢ユーフェミアは僅か10歳にして大国の王妃となった。
そして10年の時が過ぎ、無力な少年王は賢王と呼ばれるまでに成長した。
その為後ろ楯としての価値しかない用済みの王妃は廃妃だと性悪宰相はいう。
「城から追放された挙げ句、幽閉されて監視されて一生を惨めに終えるくらいならば、こんな国……逃げだしてやる!」
と、ユーフェミアは誰にも告げず城から逃げ出した。
だが、城から逃げ出したユーフェミアは真実を知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる