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しおりを挟む「クロウ!」
騎士団の真新しい制服に袖を通した私は、婚約者のクロウを見つけて駆け寄った。
「今日から一緒だよ~! ねえねえ、嬉しい?」
「一緒じゃねえだろ。部隊は別だ」
同じ騎士団に所属することを喜ぶ私に、クロウはいつもの通りに素っ気ない。
騎士の娘である私の修行相手に連れてこられた孤児の男の子がクロウだった。
二歳年上の彼とは兄弟みたいに育ったけれど、私はクロウのことが大好きで、彼が一足先に騎士団に入団した時に泣きながら告白してしまった。
大泣きする私に呆れながらも気持ちを受け入れてくれて、私の気持ちを知っていたお父さんはその場の勢いで私達を婚約者にしてしまった。
もちろん、私は嬉しかったんだけど、実はちょっと心配なことがある。
クロウは婚約まではするつもりがなかったのに、お父さんが盛り上がったせいで言い出せなかったのかもしれないということだ。
でも、なんだかんだでこの二年間、ちゃんと婚約者でいてくれるので、私のことを好きでいてくれるのは確かだ、と思う。
「ほら、自分の部隊に行けよ」
「うう、帰る前にまた話そうね!」
お願いすると、溜め息を吐きながらも「わかったわかった」と言ってくれる。それだけでも十分嬉しくなった私は、えへえへ笑いながらクロウに手を振った。
私が所属するのは、この国の第二王子レイナード殿下が率いる第五部隊だった。
殿下と知り合うために未婚の女の子が所属したがる人気部隊だ。もちろん、そんな不純な希望は通らないので、私の他の女子騎士は二人だけだった。
「私はタラ。よろしくね」
「私はイリーナよ」
「私はジェナ。よろしく!」
仲良くなれそうでほっとした。
「よーし、よく聞け新人ども! 俺の部隊に弱い奴はいらねえ! 死ぬ気でついてきな!」
「「「きゃーっ!」」」
第二王子が自分の部隊を前に激励を飛ばすと、周りから黄色い悲鳴が上がる。
見学の少女達のものだが、他の部隊の女騎士らしき姿もちらほら混ざっていた。
この国は長年戦火に巻き込まれておらず、平和を享受している。
そのためか、騎士団の雰囲気もどこか緩んで浮ついている。
でも、私は訓練も任務も真面目にやるんだ!
何故なら、真面目なクロウに嫌われたくないから!
……あれ? もしかして、私が一番浮ついているのかしら。
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