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第84話 ルナマリア④

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 ***


 ムーン男爵と手を組んだ私は、この国の王侯貴族に同じ苦しみを味わわせてやりたいと考えた。

 大切な人を失う苦しみを――失うかもしれないという恐怖を味わわせたい。

 復讐を誓った直後に、私は自分が魔女になっていることを知った。
 死の淵から生還したことと、すべてを失った絶望と怒りがきっかけで魔力に目覚めたのだろう。

 それから、魔力を操る練習と、学園に通うための勉強をがむしゃらに頑張った。
 都合のいいことに、この国の第一王子は私と同い年だった。学園に入って、第一王子を始め貴族の子供達を魔力で支配下に置き、親達を苦しませてやる。
 王侯貴族の誇りも見栄もぐちゃぐちゃにして、醜い本性を暴いてやる。
 この国を、めちゃくちゃにしてやる。
 私は、復讐の魔女となったのだ。

「でも、思ったより早く倒されちゃったな……つーか、なんだったのよ、あのオッサン」

 私の最後の記憶は、私が操る兵士達をなぎ倒して突進してくる男の姿だ。
 誰だか知らないけど、すごく怖かった。

「この前、様子を見にいった時、マリーはまだ孤児院にいた。ということは、巻き戻ったのは私だけで、男爵には記憶がないのかしら」

 私が倒された後、男爵が無事でいたわけがない。処刑か自殺かはわからないけれど、生きてはいないだろう。

「まあいいわ。今回は、絶対にみんなを死なせたりしない。王族だろうが貴族だろうが、薬を奪いにきた連中を後悔させてやるわ」

 私は瓶を床下に戻すと、手のひらを上に向けて集中した。
 バチバチッ、と、小さな火花が手のひらの上で弾けた。

 前の私は熱病で死にかけて、すべてが手遅れになってから魔力に目覚めた。
 けれど、それじゃ遅いのよ。

 記憶が戻った日から、私は自分の体に眠る魔力を目覚めさせるために修行をしていた。魔力を使う感覚を思い出し、前回味わった絶望と怒りで魔力を目覚めさせるのだ。

「ようやく、ここまで……」

 前の時のように自由自在に魔力を使いこなすにはまだ時間がかかるだろうが、魔力を目覚めさせることはできた。

 熱病が流行るまでに、もっと強い魔力を扱えるようになってみせる。

「今度こそ、私がみんなを守るわ……っ!」




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