死に戻りの公爵令嬢は嫌われ者の下僕になりたい

第71話 呼び声

　ケイルヒーが元気になった。

　それはいいのだが、せっかく作らせたベッドカバーが「研究する」とか言って教会に持っていかれてしまった。後で返してくれるらしいが。

　ケイルヒーは「ご飯が美味しいです」とおかわりするぐらい元気になったのでもう大丈夫だろう。
　この分だと学園にも通えるだろう。学園に通わせることは諦めていたのに、と母上が嬉し泣きをしていた。

　周りはみんな僕が起こした奇跡だと言っているが、やはりこれは活性炭の力なのでは？

　なんて偉大なんだ、活性炭……

　そうだ。今度、炭焼きの生業を営む者が安定した生活を送れるように社会保障を見直してみようか。ああいった生業で山に住まざるを得ない暮らしはとても厳しいと聞いたことがある。

「よーし。明日も頑張るぞ」

　新たな課題をみつけて、僕はわくわくしながら眠りについた。


　＊＊＊


　なんだかふわふわした視界の中で、誰かがなにか言っている。

　これは、誰の声だ？

　女の子の声も聞こえる。
　女の子の声をかき消すように大きくなるのは……僕の声だ。
　僕はその女の子になにか言っている。
　叱っているのか。

　いいや、なにかひどいことを言っている。
　どうしてだ。なんでそんなひどいことを言う？

　僕の口から、どうしてそんな言葉が。

　おかしいな。僕はその女の子を、大事な子だと思っているはずなのに。

　そうだよ。僕は彼女を、大事な妹みたいに思っていて、守ってやらなければと、思っていたはずなのに。

　なのに、僕自身が僕の心を裏切って、彼女を傷つけている。

　どうしてだ。そんなこと望んでいないのに。僕の心はやめろと叫んでいるのに。

　どうしてなんだ。やめろ。やめろ。

　だれか止めてくれ。
　どうして、誰も止めてくれない。
　僕の周りにいる、誰も。

　嗚呼。どうしよう。守れなかった。
　なにもかも、もうおしまいだ。
　僕も、ここで終わる。


　……いや、まだ終われない。

　まだ、終われない。

　こんなことは間違っている。

　激しい後悔が僕の中のなにかを目覚めさせる。

　このままでは、終われない。

　そのために、

　お前の力も必要だ！　――　――


　＊＊＊


　妙な夢を見て目が覚めた。
　夢の内容は起きた時には忘れてしまっていたが、僕は夢うつつのぼんやりした思考回路で、夢の中の自分がなにかをひどく後悔していたことだけは理解した。