上 下
22 / 26

22

しおりを挟む




 たどたどしい説明を聞いたマリアさんは、すぐに修司さんに連絡してくれた。だが——

「……おかしいわね。つながらないわ」

 修司さんが電話に出ない。嫌な予感がした。

「探しに行きましょう!」
「ダメよ。先輩なら大丈夫。心配しないで」

 そう言うマリアさんも、不安を隠し切れていなかった。

「でも、兄さんが狙われて……っ」
「そうだとしても、子どものあなた達を危険にさらすわけにはいかないの」

 必死に食い下がる悠斗に、マリアさんは少し強い口調で言った。
 悠斗はうつむいて拳を握りしめた。

 あたしは少し後悔した。悠斗に「狙われているのは修司さんじゃないか」なんて言うんじゃなかった。

「悠斗……」

 声をかけて肩を叩こうとした。
 その瞬間、きっと顔を上げた悠斗の姿が、消えた。

「悠斗?」

 肩を叩こうとした手が空を切った。

「……あの馬鹿っ!」

 涼が窓に駆け寄って外をのぞいた。あたしも涼を追いかけて外を見る。

 家の前の道路に、悠斗の姿が現れた。そして、すぐにまた消える。

 瞬間移動だ。

「悠斗っ!」
「ちっ……連れ戻すぞ!」

 涼は階段を駆け下りていって家を飛び出した。あたしも迷わず追いかける。

「時音?どこへ行くの!」
「待ちなさいっ!」

 おかあさんとマリアさんの声が追いかけてきたけれど、あたしはそれを無視した。
 外に出ると、激しい雨が顔を叩いた。

「悠斗!どこ!?」
「時音、悪霊を探せ!」
「え?」
「そこに悠斗の兄貴もいるはずだ!悠斗もそこに現れるだろ!」

 確かにそうだ。

「でも、どうやって……」
「お前は霊能系だ!やればできる!悪霊の気配を感じ取れ!」

 涼に言われて、あたしは走りながらあたりを見回した。
 どこかに、あの悪霊がいる。
 突き落とされた時の感覚、追いかけられた時の恐怖、部屋に侵入してきた気配。
 これまでに感じた悪霊の気配を思い出す。

 背中がぞくりと震えた。

「……ダメだよ、涼。わかんない……あたし、落ちこぼれだもん」

 情けない泣き言が口から漏れた。
 涼は足を止めて振り向いた。

「時音。お前になら、絶対にわかる。お前はただ、怖いから見ないふりをしているだけだ。見ようとすれば、ちゃんと見える」

 涼はあたしの手をぎゅっと握った。雨で冷えきった手だけれど、心がほっとあたたかくなる。

「俺が一緒にいる。だから、怖くないぞ」

 いつもあたしを守ってくれる涼にそう言われて、あたしはその手を握り返して目を閉じた。

(集中しろ……)

 あの悪霊の気配を探す。
 すると、ゆらゆらと、炎のように立ちのぼる嫌な気配をみつけた。

「……あっちよ!」

 あたしは目を開けて、川の方角を指さした。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

高貴な血筋の正妻の私より、どうしてもあの子が欲しいなら、私と離婚しましょうよ!

ヘロディア
恋愛
主人公・リュエル・エルンは身分の高い貴族のエルン家の二女。そして年ごろになり、嫁いだ家の夫・ラズ・ファルセットは彼女よりも他の女性に夢中になり続けるという日々を過ごしていた。 しかし彼女にも、本当に愛する人・ジャックが現れ、夫と過ごす夜に、とうとう離婚を切り出す。

処理中です...