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 修司さんに送ってもらって家に帰り、その日の夜に悠斗から電話がかかってきてとても心配されてしまった。

『まったくもう、すっごく心配したし、驚いたんだから!』

 がみがみと叱られてしまって、あたしは電話に向かって頭を下げた。

「ごめん……ねぇ、今日は涼、授業受けてた?」
『受けてたよ。涼も心配してた……ていうか、いつだって涼が一番に時音の心配をしているんだよ?』

 悠斗の言葉に、あたしは洋館で見た過去の夢を思い出してうなずいた。

「うん。そうだった……」
『明日はちゃんと涼に謝りなよ』
「うん」

 電話を切ると、おかあさんに「お風呂に入りなさい」と言われた。返事をしてパジャマを持ってお風呂場に向かい、服を脱ごうとして、ふと気づいた。
 いつも、襟元につけている校章バッジがない。

「うそ。どこかに落とした?」

 あたしは頭を抱えた。落としたとしたら、黒い影から逃げて走っていた時か、マコトくんのいる洋館の中のどちらかだ。

 校章バッジはグロウスの生徒であることを証明するもので、悪用されないようにきちんと生徒番号が刻まれて管理されている。だから、誰かに拾われたとしても問題はないだろうし、「なくした」と言えば新しいのがもらえるだろうけれど、生徒の誇りである校章バッジをなくしたという事実にあたしはがっくりと落ち込んだ。

(何やってんだろ、あたし。余計なことしてみんなに心配かけて、涼を傷つけて、危ない目にあって、バッジをなくして……いいとこないじゃん)

 もっとちゃんと考えてから行動しよう。
 あたしはそう決意した。



 ***



 朝一番に職員室に行って校章バッジをなくしたと告げると、米田先生に呆れた顔をされてしまった。

「危ないことをした自覚はあるの?」
「はい」
「そう。なら反省しなさい」

 新しく校章バッジを作るのに三、四日かかると言われたので、その間はバッジなしだ。仕方がない。

「あっ、涼!」

 教室に戻ったあたしは、涼の姿をみつけて飛びついた。

「涼、ごめんね、ありがとう、怖かった~っ!」
「……謝るか礼を言うか泣くか、どれか一つにしろ」

 わんわんと泣きつくあたしに呆れた顔をしながらも、涼はあたしを突き放そうとはしなかった。
 その代わり、悠斗とふたりがかりで昨日の行動を説教される羽目になったけれど。

「犯人が人魚姫の知り合いだって言うのか?」

 あたしの話を聞いて、涼と悠斗は信じられないという顔をした。

「わかんないけど、犯人は確かに「人魚姫」って言ってたの。それに、マリアさんの様子も変だったし」

 もしかしたら、マリアさんにはあの女の人に恨まれる心当たりがあるのかもしれない。
 でも、マリアさんがあんなにたくさんの悪霊が集まってくるぐらい、すごい悪意を持たれているなんて想像ができない。
 それに、「みんなだまされてる」とか「本当は私の能力」ってどういう意味だろう。

「まあ、なんだかわからないけど、後は悠斗の兄貴に任しときゃいいだろ」
「うん、そうだね。時音、もう危ない真似しちゃダメだよ」

 二人に念を押されて、あたしは首をすくめて小さくなった。




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