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第四話「五月雨に濡れるなかれ」
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教室に入ってきたクラスメイトに席の前に仁王立ちになられて「おはよう」と言うより先に「俺に何か取り憑いてるか!?」と尋ねられて、稔はすっかり嫌になってしまった。今日はもう帰りたい。
「朝っぱらからなんだよ?」
教室に入ってくるなり爽やかさの欠片もない質問を繰り出してきた石森を睨んで、稔は口を尖らせた。
「なに? 取り憑かれるようなことしたのか?」
稔の背後からお馴染みのオカルトマニアが首を突っ込んでくる。
石森は眉根を寄せて稔の反応を窺っていたが、やがてふうっと息を吐いて肩の力を抜いた。
「……悪い。昨日、ちょっと変なもん見ちゃって」
稔は一応石森の全身を眺めてみたが、特に何も見えない。もちろん、稔にもすべてものが見える訳ではないが、石森からは何も嫌な気配も感じないし大丈夫だろう。
そう伝えると石森は安堵したようだったが、すぐにまた顔を引き締めた。
「じゃあ、樫塚を見てくれないか? あいつ、何かに取り憑かれてないか?」
「いや、なんでだよ?」
「俺じゃなかったら樫塚かもしれないんだよ!」
本日も休みの親友を案じて、石森は力説した。
「昨日、黒い頭を見たんだよ。……たぶん、小さな子供の。それで思い出したんだけど、樫塚の見舞いに行った時に窓にちらっと子供の手みたいなのが見えた気がしたんだよ。一瞬だし、気のせいだと思ってたけど」
大透が見を乗り出してきて稔の肩を掴んだ。
「でも、倉井が何も気づいていないんだから、何もいなかったんだろ」
「いや、俺だって何もかもに気づく訳じゃないからな」
本物の霊能力者でもないのに、そこまで過信されても困る。
そこで本鈴が鳴って担任が教室に入ってきたため、石森は渋々自分の席に向かっていった。
(小さな子供……?)
稔は首を傾げて思い返したが、文司の部屋でおかしなものを見た記憶はない。文司も怪我をして痛々しいとは思ったが、何かに取り憑かれているようには見えなかった。もちろん、稔は霊能力者ではないので、稔に見えていないだけということはあるかもしれないが。
(やだなぁ。石森の気のせいでありますように)
絶対関わりたくねぇと思いながら、稔は祈った。
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