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九十六、
しおりを挟む最初は真っ黒い管の中を通っているようで、身を屈めて手探りで進まなければならなかったが、しばらく進むうちに、広也と広隆は前方がわずかに明るくなっていることに気付いた。目を凝らしてみると、わずかに青く見える空間に黒々とした影がいくつも並んでいるのが見えた。と、前を進んでいた広隆が先にその正体に気付いた。
「岩だ」
「岩?」
「岩がたくさん並んでるんだ」
広隆の体が邪魔になってよく見えないが、確かに人の背丈ほどの岩らしきものが並んでいるようにも見えた。
「おい、だんだん天井が高くなってきてるぞ」
広隆が頭上に手を伸ばして言う。入ってきたときは四つん這いになって進むのがやっとだったというのに、どんどん縦のスペースが広がっていき、いくらも行かないうちに立って歩けるまでになった。とても大蛇の抜け殻の中とは思えない。
広也は広隆の背中を見て歩きながら、どうやったらトハノスメラミコトを捕まえられるのか考えていた。秘色も長もトハノスメラミコトを見つけろとは言っていたが、捕まえろとは言っていなかった。広也は幻の正体を見破ったというのに、幻はそのまま逃げてしまった。
(トハノスメラミコトは僕たちに見つけてほしいんじゃなかったのか?)
それとも、あれでは見つけたことにならないのだろうか。
広也が考え込んでいると、前を歩く広隆が感嘆の声を上げた。
「うわっ、すげぇ!」
思考を中断して顔を上げると、足を止めて前を見つめる広隆がいた。
どうしたの、と言いかけて、広也もまたその光景に気付いて声をなくした。
両側にあったはずの黒い壁がそこで途切れていた。細い道が途切れたその先に広がっていたのは、どこまでも続いていそうな途方もなく広い空間と、それを埋め尽くす無数の岩の姿だった。人の背丈ほどの大きな岩が、何百、何千、もしかしたら何万か、あるいはもっと多く——聳え立っている。
その場所は夜の色をしていた。天井を見上げると、明るい月夜と同じような青さが広がっていたが、月らしきものはどこにも見あたらない。そもそも天井なのか空なのか、ここが内なのか外なのかもわからない。
あまりにも圧倒的な迫力を持つその光景に、二人はしばらくの間言葉をなくして立ち尽くした。
(まるで岩の墓場みたいだ)
広也は思った。夜の青さの中に無数に立ち並ぶ岩々は、迫力もあったが同時に少し寂しい光景のようにも感じられた。
「岩の森みたいだな」
広隆が広也とは少し違う感想をぽつりと漏らした。
その時、かすかな笑い声が聞こえたような気がして、広也は手前の岩と岩の間に目をやった。
そこに、赤いちゃんちゃんこを着た子供が立っていた。
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