マヨヒガ

荒瀬ヤヒロ

文字の大きさ
上 下
97 / 107

九十六、

しおりを挟む




 最初は真っ黒い管の中を通っているようで、身を屈めて手探りで進まなければならなかったが、しばらく進むうちに、広也と広隆は前方がわずかに明るくなっていることに気付いた。目を凝らしてみると、わずかに青く見える空間に黒々とした影がいくつも並んでいるのが見えた。と、前を進んでいた広隆が先にその正体に気付いた。

「岩だ」
「岩?」
「岩がたくさん並んでるんだ」

 広隆の体が邪魔になってよく見えないが、確かに人の背丈ほどの岩らしきものが並んでいるようにも見えた。

「おい、だんだん天井が高くなってきてるぞ」

 広隆が頭上に手を伸ばして言う。入ってきたときは四つん這いになって進むのがやっとだったというのに、どんどん縦のスペースが広がっていき、いくらも行かないうちに立って歩けるまでになった。とても大蛇の抜け殻の中とは思えない。
 広也は広隆の背中を見て歩きながら、どうやったらトハノスメラミコトを捕まえられるのか考えていた。秘色も長もトハノスメラミコトを見つけろとは言っていたが、捕まえろとは言っていなかった。広也は幻の正体を見破ったというのに、幻はそのまま逃げてしまった。

(トハノスメラミコトは僕たちに見つけてほしいんじゃなかったのか?)

 それとも、あれでは見つけたことにならないのだろうか。
 広也が考え込んでいると、前を歩く広隆が感嘆の声を上げた。

「うわっ、すげぇ!」

 思考を中断して顔を上げると、足を止めて前を見つめる広隆がいた。
 どうしたの、と言いかけて、広也もまたその光景に気付いて声をなくした。

 両側にあったはずの黒い壁がそこで途切れていた。細い道が途切れたその先に広がっていたのは、どこまでも続いていそうな途方もなく広い空間と、それを埋め尽くす無数の岩の姿だった。人の背丈ほどの大きな岩が、何百、何千、もしかしたら何万か、あるいはもっと多く——聳え立っている。

 その場所は夜の色をしていた。天井を見上げると、明るい月夜と同じような青さが広がっていたが、月らしきものはどこにも見あたらない。そもそも天井なのか空なのか、ここが内なのか外なのかもわからない。

 あまりにも圧倒的な迫力を持つその光景に、二人はしばらくの間言葉をなくして立ち尽くした。

(まるで岩の墓場みたいだ)

 広也は思った。夜の青さの中に無数に立ち並ぶ岩々は、迫力もあったが同時に少し寂しい光景のようにも感じられた。

「岩の森みたいだな」

 広隆が広也とは少し違う感想をぽつりと漏らした。
 その時、かすかな笑い声が聞こえたような気がして、広也は手前の岩と岩の間に目をやった。
 そこに、赤いちゃんちゃんこを着た子供が立っていた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

処理中です...