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八十二、
しおりを挟む映画のスクリーンのように流れていく映像に、ときわは思わず顔を近付けて見た。白い布にくるまれた誰かはそのまま動かず、布はやがて硬質な繭へと変化していく。自分の時と同じだとときわはごくりと唾を飲んだ。
しばらくの後、繭がぱあっと光ったかと思うと、その光の中からいくつもの白い光の玉が飛び出してきて空へと舞い昇り始めた。光の玉は次々と生み出されて空へと昇っていき、やがて光が消えた時にはそこに繭は跡形もなくなっていた。繭に包まれていた人間ごと。
ときわはぞくっと寒気がした。もしも、あの繭の中から脱出していなければ、今見た映像の通りになっていたのかもしれない。
「あのまま繭の中にいたら、繭と一体化して僕の体も白い光に変わってしまったってこと?」
ときわの問いに答えるように、スクリーンに新しい映像が浮かんだ。ガラスの林に少年が一人立ち尽くしている。知らない少年だ。
少年の足元はガラスに固められて動けずにいるようだ。足元を固めるガラスは見る間に少年の全身を覆っていき、顔まで覆ってしまった次の瞬間、ガラスの塊は白く発光しだした。
先程と全く同じ光景が繰り返される。ガラスの塊は少年の体ごと白い光へと変化し、飛び去ってしまう。
そしてまた別の光景、別の少年の姿が映し出される。何度も何度も。
映し出される場所や少年の姿はその都度違えど、結果はすべて同じ。
「……そんな」
ときわは呻いた。この白い光、ときわとかきわをこの世界に導いたこの光は——
「この白い光は、僕らの前のときわとかきわだったのか!」
ときわは信じられない気持ちで叫んだ。この世界に溢れている白い光は元は自分と同じ人間だったというのか。
「なんで?どうしてっ」
混乱するときわの頭の中に、冷ややかな声が響く。
(ここは迷ひ家。迷い子の為の場所。迷い子が創った場所だからだ)
「迷い子が創った……?」
(この世界は、お前のいた世界の者達の「迷う心」が形作ったもの。「迷う心」が白い光となりこの世界を創った。だから、迷い子が白い光へと姿を変えるのも当然のこと)
頭の中に響く少年の声を聞きながら、ときわはかきわのことを思った。かきわはガラスの林に落とされたはずだ。先程の映像の中にガラスの林もあった。ときわが繭に包まれたように、かきわもガラスに全身を捕らわれているのではないか。
嫌な想像をしてしまいそうになって、ときわは頭を振った。
「かきわは……兄さんは白い光になんかなったりしない!僕が抜け出せたんだから、兄さんだって——」
そこまで言ってから、兄はちゃんと元の世界で生きていたことを思い出して、ときわはほーっと息を吐いた。
(そう。お前は抜け出した)
安堵するときわに少年の声は言った。
(あのまま眠りにつけばこの世界と同化出来たのに、お前はそれを拒否した。お前はこの世界ではなく元の世界を必要とした。だから、お前にはここにいる資格がない。ここは迷い子のための場所だ。己れのいるべき場所を知っているものはここにいてはいけない)
少年の台詞に聞き覚えがあるような気がして、ときわは記憶を探った。
——己が己の世界に生きる理由をみつけた者だけが己の世界に戻れるのだ。
ぐえるげるの声がよみがえった。
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