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六十九、
しおりを挟む洞窟はすぐにみつかった。
緑溢れる森の中で、そこだけが土も石も黒々と光っていた。まるで闇を切り取って嵌め込んだように洞窟の入口は真っ黒で、ブラックホールのようだと広隆は思った。
恐る恐る近付いてみるが、闇の濃さは何も変わらない。この中に足を踏み入れるのかと思うと、さすがの広隆も躊躇した。こんなに暗いのでは中に入ったとしても何も見えないだろう。それでは秘色をみつけることなど不可能だ。
広隆は辺りを見回して適当な枯れ枝をみつけようとした。松明が欲しかったのだが、燃やせそうな木の枝は見当たらなかった。広隆は溜め息をついてもう一度洞窟を見た。
黒々と口を開ける洞窟に入って無事に出てこれるとはとても思えない。本当にこの奥に秘色がいるのだろうか。広隆は子供の言葉を疑った。あの子供の正体もわからないのだ。敵か味方かわからない者の言葉を信じて危険に足を踏み入れていいものだろうか。
(何を今更。ここまで来たっていうのに)
広隆は自分を叱りつけた。
(秘色を助けるんだ)
広隆は目を閉じた。緋色の姿が浮かんできた。この世界に迷い込んだ時、祭壇の上の自分を見て輝くような笑顔を見せた少女。彼女を自分は守れなかった。目の前で死なせてしまった。緋色は死んだ。母も死んだ。父も死んだ。
(これ以上、大切な人に死んでほしくない)
広隆は大きく息を吸い込むと、意を決して闇の中に足を踏み入れた。やわらかい膜を通り抜ける感覚がして、次の瞬間には広隆の周囲は真っ黒く染まった。振り返っても洞窟の外のあかりが見えなかった。手を伸ばしてみても指先に触れるのは光ではなく闇ばかり。
広隆はごくりと唾を飲んだ。それから、用心深く足を踏み出した。何しろ周囲が黒い闇なので、広隆は手探りで洞窟の壁に沿って前に進んだ。闇の中をゆっくりと進んでいくと、ずっと向こうにかすかなあかりが見えた。
広隆は足を速めた。光との間がどんどん縮まっていく。どうやら、この先はふたまたに分かれており、一方の道は明るく、もう一方の道は黒く続いているらしい。広隆は子供の言葉を思い出した。
(暗いほうを選べって言っていたな)
しかし、自分の手さえ見えない闇の中で目にした光にはあらがいがたい魅力があった。
もしも子供の言葉がなければ、広隆は迷わず明るいほうへ進んだだろう。
やがて分かれ道にさしかかった広隆は足を止めて明るい道を見た。長い洞窟が続いていくのが見える。どこからも日は差さないのに明るさあふれる洞窟の奥には何も脅威がないように見えた。
広隆は少し迷ったが、子供の言うことに従って闇の中に進もうとした。だがその時、聞き覚えのある声が響いた。
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