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五十九、
しおりを挟むしゃらしゃらと音をたててガラスの葉が揺れる。
薄く透き通った葉は一葉、また一葉と広隆の足下に降り積もった。
広隆は己の姿をみつめて思った。暗い目をした自分を、秘色が信用出来なかったのは仕方のないことなのかもしれない。
ガラスの葉は後から後から落ちてきて広隆の足首を埋める。落ちた葉は溶け合って再び固まり徐々に広隆の足を地面に縫い付けていく。それは足首から膝へ、じわじわと這い上った。
膝から太ももへ、太ももから腰へ、少しずつ広隆の動きが封じられていく。それでも、広隆は目の前に映った自分の像をみつめ続けた。
自分は父に似ていた。誰もがそう言ったし自分でもそう思っていた。弟はあまり父に似ていない。だから、自分のほうが父に近いような気がして、何かに勝ったような気になっていた。
だけど、父は死んでしまった。
固い音をたてて広隆の体をガラスが包んでいく。いつしかガラスは一本の木になり、広隆はその中に閉じ込められた。
ガラスを通して見る像はひどく歪んで、何故だかひどく老けて見えた。
「………父さん」
広隆はガラス越しに見る自分の像に向かって呼びかけた。
「どうして死んじゃったんだよ………」
それはずっと誰かに問いたかったことだった。
何故、父は死んだのか。何故、父が死ななければならなかったのか。
だが、そんな問いに答えてくれる相手は広隆の周りには誰もいなかった。
「どうして側にいてくれなかったんだよ。俺、いい子にしてたじゃないか。わがままも言わなかったのにっ………なのになんで俺を置いていったんだよ父さんっ」
一度口に出した言葉は、堰をきったようにあふれだした。
「なんで再婚なんかしたんだよっ。光子さんなんか大嫌いだ!広也も嫌いだよっ………大嫌いだ」
それは閉じ込めてなくしたはずの言葉だった。言ってはいけないと自分に言い聞かせた言葉だった。それが今更、抑えることが出来ずにあふれてくる。
「なんで父さんも母さんも死んじゃったんだよっ。なんで俺だけひとりぼっちなんだよぉっ」
広隆の声に揺らされたかのように周りの葉がしゃらしゃら鳴った。
「俺なんか、もうどうなったっていいんだ。ここで死んだって、誰も悲しまないさ。広也がいればいいんだ。光子さんもじいちゃんもばあちゃんも、広也さえいれば、俺なんかいらないんだ」
涙で視界が歪んだ。
ガラスに映った像も、歪んで遠くなった。父の姿が、歪んで消えていくように見えた。
(行ってしまう。父さんが、行ってしまう)
広隆は己を戒めるガラスの円柱に拳を打ち付けて叫んだ。
「行っちゃやだあああっ」
叫んだ瞬間、周囲のガラスの木がぱぁんっと音をたてて砕け散った。
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