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三十七、
しおりを挟むたき火の明かりに照らし出されて、洞穴の壁面に影が踊る。
その時、洞穴の外でじゃりっという足音がした。ときわと秘色はぎくりとして入り口を見た。あの化け物が再びやって来たのかと思い、二人は体を強ばらせた。
だが、闇の中から現れたのは、見覚えのある赤いちゃんちゃんこだった。
「あれ、君」
昼間出会ったあの子供だった。
「もう一人の若子に会ったようじゃの」
子供は全てを見透かしているような目をときわに向けて言った。まるで責められてでもいるような気がして、ときわは思わず目をそらした。秘色が怒った声を出す。
「何しに来たのよあんた。ときわに近寄らないで」
子供はふんと鼻で笑った。それが癇に障ったのだろう。秘色は目を吊り上げて立ち上がった。
「一体なんなのよっ。もう、あたし達は里を出てからというものの奇態なことの連続で疲れてるのよ。どっか行ってちょうだいっ」
「待ってよ。秘色」
ときわは慌てて秘色をなだめた。
「外は危ないから……」
先程の狒狒を思い出したのか、秘色も言葉をつまらせた。
「聞きたいことがあるんだ」
ときわは子供に向き直った。なんだか、この子供はなんでも知っているような気がするのだ。
「何を聞きたいのだ」
何を聞きたいのか、と問われ、ときわは口をつぐんだ。聞きたいことは腐る程あるのだが、それがうまく言葉にならない。子供に目で促されて、ときわは焦った。落ち着け、落ち着け。自分が一番聞きたい、知りたいことはなんだ?
「元の世界に戻る方法……」
口に出してはみたが、それは驚く程弱々しい問いかけだった。ときわは首を傾げた。これは本当に一番知りたいことだろうか。
「それが本当に知りたいことか」
ときわの心を見透かしたように子供が言った。そう言われて子供にじっと見られると、なんだか嫌な気分になった。
「おぬしは何故ここへ来たのだ?」
「え?」
「おぬしは何故ここへ来たのだ?」
子供は繰り返した。ときわはぽりぽり頭をかいた。
「何故って言われても、僕は来たくて来たわけじゃないんだよ」
しかし、ときわのこの答えを、子供はあっさり否定した。
「いいや。おぬしは望んでここへ来たのだ。おぬしはここへ来たかったのだ」
断定的に言い放たれてときわはあっけに取られた。
「なんでそんなことがわかるのよ」
それまで黙っていた秘色が横から口をはさんだ。
「そもそも、あんたは何者なのよ」
その時だった。
けたたましい叫び声が森を揺るがすように響いた。
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