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四、
しおりを挟む広也は今年の春に中学生になった。広也の住む地域では有名な私立中学。難関と呼ばれる狭き門を突破した喜びよりは、受験勉強の疲ればかりが残る体に溜め息をつきたくなった。
しかし、本当に大変なのはそれからだった。
授業の速度が、小学生の時とは比べ物にならない程速く、しかも内容も一気に難しくなって広也を大いに戸惑わせた。
小学校でも塾でも、優秀の内に数えられていた自分が、どんどん周りから取り残されていく。
今まで味わったことのないその感覚に、広也は焦り、戸惑い、すさまじい——受験勉強中にも感じなかった程の——重圧に襲われたのだった。
広也は必死で勉強した。休み時間も、寝る間も惜しんで——その過酷な生活とプレッシャーが広也を押しつぶすのに、さほど時間はかからなかった。
五月の半ば頃からか、授業に出ると必ず気分が悪くなるようになった。ひどい時には吐き気やめまいまでした。神経性のものだ。と、医者は言った。ストレスだの自律神経だのという単語が飛び交う医者の話を、広也はほとんど聞いていなかった。じっと指先をみつめながら、なんだかうつろな気持ちになった。
遠野に来い。と言ったのは広隆だ。
光子からの電話で広也の状態を聞いた広隆は、夏休みになったら遠野にやってくるべきだと断言した。
「ずっとこもってばかりいたから、体が腐っちまったんだ。遠野のきれいな空気で腹の中洗い流せば治る」
かくて、広也は三年ぶりに遠野の土を踏むことになった。
(でも、ここに来たからといって、なんになるんだろう。兄さんと母さんに言われてついてきたけれど、ほんの五日間ここにいたぐらいで、元気になるはずがない。兄さんの僕のこのぐじぐじした神経を、森林浴でどうにかできると思ったんだろうか)
三年ぶりに会った兄の顔を思い浮かべた。日に焼けて健康そうな、銀縁眼鏡をかけているせいでちょっととぼけた感じにみえるが、二十歳を過ぎてますます引き締まった男らしい顔。
(五日間じゃ、ああはなれない)
広也は大きく両手を広げて、畳の上に倒れ込んだ。
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