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しおりを挟むその日の夜、寝台に入ってから、私はふと昔のことを思い出した。
八歳か九歳か、そのくらいだったと思う。今では諦めているけれど、その頃の私はまだリリアンにものを奪われるのに多少は抵抗していたのだ。
その日は私の誕生日で、当然のごとくプレゼントは私の手を経由してリリアンに渡された。
それが不満で、悲しくて、私は家を飛び出して滅茶苦茶に走った。
そして、走り疲れて道にうずくまって泣いていた。
『どうしたんだ?』
子供の声がして、顔を上げると、どこかの家の鉄門の向こうに十歳くらいの男の子が立ってこちらを見ていた。
私は、初対面の男の子に何があったのかを洗いざらい吐き出した。泣きながら、要領を得ない話を聞かされて、さぞ訳が分からなかったこどだろう。
だけど、男の子は最後まで聞いてくれて、それで。
『大人になったら迎えに行って、そんな家から連れ出してやる。だから、待っていろ』
そう言ってくれたのだ。
恋ではないけれど、もしかしたら、私があの異常な家で壊れずに頑張れたのは、あの男の子の言葉に励まされたからかもしれない。
名前すら知らない男の子だけれど、私の恩人だ。
せっかく思い出したのだから、夢の中で会えないかな。と期待したけれど、夢の中に現れたのは美しい女性だった。
カレンス家の娘。
この家に来てから、実はたびたび彼女の夢を見ている。
彼女はどうやら私に何か伝えたいようで、口をぱくぱくさせている。でも、声は聞こえない。
私に何を伝えたいんだろう。
どうして、ディアンヌではなく私の夢に現れるのだろう。
私も彼女に言いたいことがあるけれど、夢の中で声が出せない。
もう、呪いなんてかけるのはやめようよ。
貴女を貶めた人々はもうとっくに亡くなっているのだから。
もう、自由になりましょうよ。
そう伝えたいのに、彼女に声が届かなくて、私は悲しかった。
そうして、いよいよ第二王子殿下の誕生日まで、あと一日となった。
喜ばしい日だと言うのに、ディアンヌと「親友」でいられるのがあと一日かと思うと、明日が来なければいいのに、と思ってしまう。
そんな私に反して、ディアンヌは朝からわくわくきらきらしていた。
「アデル! 届いた! 届いたわよ!」
お昼近くになって、ディアンヌが上機嫌に私に飛びついてきた。
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