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しおりを挟む「本当は帰したくないんだけど、一応まだフェザンディック公爵令嬢ですからねぇ。外泊はまずいのよね」
ディアンヌが不満そうに言う。
私がディアンヌの「親友」として働き始めてから早くも二週間が過ぎていた。
私の一日は朝起きると寝間着のまま迎えに来た馬車に乗って旧カレンス邸へ行き、ドレスを借りてディアンヌと共に一日を過ごし、夕食後に公爵邸へ帰って、自室でドレスを脱ぐとリリアンが勝手に入ってきてそれを奪っていく。
という毎日を繰り返している。
ディアンヌが何も言わずに放っておけというからそうしているけれど、あの貴重なドレスや靴やアクセサリーがリリアンに滅茶苦茶にされていないかと気が気でない。
全部台無しにされたら、たぶん我が家では弁償できない額になるんじゃないかしら。
リリアンの行動をどう思っているのか、寝に帰っているだけの状態のため最近両親と顔を合わせていないからわからない。
「そういえば、ディアンヌは次の夜会に出るの?」
あと一週間で第二王子殿下の誕生日だ。
「もちろん。出なくちゃいけないわ。アデルも一緒に、よ」
「え、私も?」
「当然でしょう!」
まあ、確かに一応公爵令嬢なので、王子殿下の誕生日を祝わないなんて不敬は許されない。
「ディートリフ王子殿下はこれまでずっと呪いに苦しんできたのよね。お気の毒だわ」
私がそう言うと、ディアンヌは苦いものを噛んだような顔になった。
「あのね、アデル。第二王子は……」
「アデル様。フルブライト侯爵家よりお手紙です」
ディアンヌが何か言い掛けた時、ちょうど侍女が手紙を持って入ってきた。
私宛の手紙が公爵家ではなくここに届いたということは、私が毎日ここに通っていることは皆既に知っているのだろう。
手紙の内容は訪問の許しを求めるものだったので、私ではなくディアンヌに手紙を送るべきなのにと思いつつ尋ねてみた。
二つ返事で了承してくれたので、翌日の午後、ジョーゼフ様はやってきた。
「カレンス様。アデル嬢。訪問をお許しいただきありがとうございます」
ジョーゼフ様は恭しく礼をしてくれた。さすが由緒ある侯爵家の御嫡男だ。
「ジョーゼフ様。今日は何用です?」
「ああ。アデル嬢の様子を見に来た。というのが一番なのだけれど」
ジョーゼフ様はちらりとディアンヌに目線を移した。
「実は、私の母は今でもアデル嬢の心配をしていてね。先日の夜会でやはりアデル嬢をあの家から救わなければと思ったらしい。私に「なんとしてでもアデル嬢と婚約しろ」と」
「ええ!?」
侯爵夫人……私を心配してくださるのは嬉しいですけど、ジョーゼフ様が気の毒ですよ。
「ですが、どうやらアデル嬢のことはカレンス様にお任せした方が良いようですね」
ジョーゼフ様がちょっと残念そうにふっと笑った。
「ええ。任せてちょうだい」
ディアンヌがむっつりとそう言った。
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