32 / 36
第7話 球拾いの天才⑹
しおりを挟む「野球部?」
「そう! さっきのスーパーキャッチを見て、キミなら守備で活躍できると思って」
人数の足りない野球部に、すでにバレー部に所属している人間を勧誘しに来たという。凄い度胸だな、と雨彦は呆れつつ感心した。
「悪いけど、僕は一応バレー部だから」
「ほらな野分、無理だって言っただろ」
雨彦が断ると、野分の後ろに立つ晴が顔をしかめて言った。
「う……だって、さっきのスーパーキャッチすごかったんだもん! 忘れられないの! 一目惚れしちゃった!」
野分が両の手を握りしめて訴えると、晴は何故か壮絶に嫌そうな顔をした。そして、何故か雨彦を睨んでくる。
「ありがたいけど、僕はこの身長だし、本格的にスポーツをやるつもりはないんだ」
一目惚れしたとまで言ってくれる相手には悪いが、期待に応えられそうにないと思いながら雨彦は答えた。
「小柄でも野球は出来るよ! もちろん無理にとは言わないよ。すでにバレー部に入っているんだし。でも、一応声かけておこうと思って……て」
熱心に言い募りながら、野分は途中でぱちくりと目を瞬いた。
「本格的にスポーツをする気はないって、バレーはやるんでしょ?」
「いや、バレー部には入ったけど、僕の仕事は球拾いと雑用と、あと……」
「誰だてめぇらっ!! 雨彦を狙うストーカーか!? そうか! そうなんだな!!」
「うわあっ」
突如として、雨彦の背後から飛びついてきて小柄な弟を腕の中に庇った霜枝 晴彦に、野分と晴は呆気にとられた。
「ストーカーが二人も……っ、やはりこの学校は危険だっ! 雨、逃げるぞ!!」
「どこにだよっ!?」
「ストーカーのいないところだっ!! 奴ら一匹見かけたら三十匹はいるからなっ!!」
霜枝に引きずられて抵抗する雨彦だが、体格差があるため逃げ出すことが出来ない。
「キャプテン! 霜枝先輩の発作です!!」
外の様子に気付いたバレー部員が大声で呼ばわる。
すぐさま駆けつけてきたレギュラー陣が三人がかりで霜枝を雨彦から引き剥がした。
「離せてめえら!! 俺は! 兄として! 雨の生命身体及び自由を守る義務があるんだよ!!」
「おめぇが一番雨彦の自由を侵害してんだよっ!!」
「間違った過保護もいい加減にしろっ!!」
「今のうちに逃げろ雨彦っ!!」
先輩達に指示された雨彦は、後も見ずに走り出した。呆気にとられていた野分と晴も彼の後を追って、阿鼻叫喚の現場から逃げ出した。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
それいけ!クダンちゃん
月芝
キャラ文芸
みんなとはちょっぴり容姿がちがうけど、中身はふつうの女の子。
……な、クダンちゃんの日常は、ちょっと変?
自分も変わってるけど、周囲も微妙にズレており、
そこかしこに不思議が転がっている。
幾多の大戦を経て、滅びと再生をくり返し、さすがに懲りた。
ゆえに一番平和だった時代を模倣して再構築された社会。
そこはユートピアか、はたまたディストピアか。
どこか懐かしい街並み、ゆったりと優しい時間が流れる新世界で暮らす
クダンちゃんの摩訶不思議な日常を描いた、ほんわかコメディ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
彩鬼万華鏡奇譚 天の足夜のきせきがたり
響 蒼華
キャラ文芸
元は令嬢だったあやめは、現在、女中としてある作家の家で働いていた。
紡ぐ文章は美しく、されど生活能力皆無な締め切り破りの問題児である玄鳥。
手のかかる雇い主の元の面倒見ながら忙しく過ごす日々、ある時あやめは一つの万華鏡を見つける。
持ち主を失ってから色を無くした、何も映さない万華鏡。
その日から、月の美しい夜に玄鳥は物語をあやめに聞かせるようになる。
彩の名を持つ鬼と人との不思議な恋物語、それが語られる度に万華鏡は色を取り戻していき……。
過去と現在とが触れあい絡めとりながら、全ては一つへと収束していく――。
※時代設定的に、現代では女性蔑視や差別など不適切とされる表現等がありますが、差別や偏見を肯定する意図はありません。
イラスト:Suico 様
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あやかし民宿『うらおもて』 ~怪奇現象おもてなし~
木川のん気
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞応募中です。
ブックマーク・投票をよろしくお願いします!
【あらすじ】
大学生・みちるの周りでは頻繁に物がなくなる。
心配した彼氏・凛介によって紹介されたのは、凛介のバイト先である『うらおもて』という小さな民宿だった。気は進まないながらも相談に向かうと、店の女主人はみちるにこう言った。
「それは〝あやかし〟の仕業だよ」
怪奇現象を鎮めるためにおもてなしをしてもらったみちるは、その対価として店でアルバイトをすることになる。けれど店に訪れる客はごく稀に……というにはいささか多すぎる頻度で怪奇現象を引き起こすのだった――?
世迷ビト
脱兎だう
キャラ文芸
赤い瞳は呪いの証。
そう決めつけたせいで魔女に「昼は平常、夜になると狂人と化す」呪いをかけられた村に住む少年・マーク。
彼がいつも気に掛ける友人・イリシェは二年前に村にやって来たよそ者だった。
魔女と呼ばれるイリシェとマークの話。
※合同誌で掲載していた短編になります。完結済み。
※過去話追加予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる