22 / 36
第6話 参戦!⑴
しおりを挟むエースの肩はもう限界だ。
ここでバッターは相手校の四番。カウントは9回裏ツーアウト。
この一球で勝負が決まる。
エースはバッターと静かに目線を交わし、ゆっくりと振りかぶった。そこで——次号に続く。
雲居はパタンと本を閉じた。じわじわと胸に満足感が広がっていく。
ほーっと息を吐いてうっとりと呟いた。
「はあ……やっぱりいいなあ。野球漫画は」
放課後の教室で夢中になってお気に入りの漫画を読んでいた雲居に、同じく教室に残っていたクラスメイトが感心したような呆れたような声を掛ける。
「雲居って、本当に野球漫画が好きだよな」
雲居は漫画に夢中になっていてずれた眼鏡を直しながら照れ笑いを浮かべた。
「そんなに野球が好きなら野球部に入ってやりゃいいじゃん。人数足んなくて大変らしいじゃん」
クラスメイトが窓の外を指しながら言う。
「無理無理!130キロとかのボールが飛んでくる球技なんて、僕は漫画を読んでるだけでいいんだ」
そう答えながら、雲居は窓の外の野球部を見やった。
正確には野球「部」ではないのだが、新一年生の間で野球部は嵐山 野分の名と共に結構有名だ。入学初日からしばらくの間、鬼気迫る形相で部員勧誘に走り回っていた姿を目にしていたからだ。
今でも絶賛部員募集中のようだが、最近では旧校舎付近でなにやらこそこそやっているようだ。
いつの間にか人数も四人に増えているらしいが、まともに練習しているのかは定かではない。現に今も。
「だっかっらーっ! なんで理解できねえんだよ!テメェの頭には何が詰まってんだ!? おがくずかっ!!」
「雷先輩! ブレイクブレイク!」
「俺は一日でルール覚えたぜ!」
「霧原くんのことは温かく見守ってあげて!」
強面の二年生が物覚えの悪い一年生にキレて、それをもう一人の一年生が必死で宥める。
ここ最近、毎日繰り返されている光景である。
キレられている当人はのほほんとした表情のまま、かかってきた電話に出ている。
「もしもし、かい」
「テメェこらっ!」
二年生が激怒して携帯を奪い取る。
「人が話してる最中に電話にでるんじゃねぇっ! お前の幼なじみに毎日かけてくんなって言ってやる……っ」
奪い取った携帯を見て、二年生が叫んだ。
「……って、これ簡単ケータイだーっ!!」
「どこまでも不憫な子っ!!」
およそ高校生が持つとは思えない短縮ボタン付きのデザインに、二年生は驚愕し、一年生はハンカチで涙を拭う。
(本当にやる気あるのか、あの連中……)
教室から眺める雲居がそう思ってしまうのも無理はない。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる