19 / 36
第5話 ロマンスは突然に⑴
しおりを挟む「雷 泰風。二年だ」
ぶっきらぼうに名乗る雷に、野分は目を丸くする。
「えー、先輩だったんだ。野球経験はなしですね」
勢いのまま旧校舎の裏で新たなメンバーとなった雷に銘々の自己紹介を済ませ、野分はとりあえず野球に関する雷の知識を尋ねる。
「打ったら点が入る。細かいことは知らん」
そう言う雷はどうやら野球はテレビ中継で目にする程度らしい。
「まあ、まかせとけ。ばんばんホームラン打ってお前らを甲子園に連れてってやるぜ。四番はイタダキだな!」
「うーん。それは人が集まってからでないとなんとも……」
自信満々の雷には悪いが、四人では野球が出来ない。野分は情けなく眉を下げ、辺りを見回した。
でこぼこした硬い土の地面。あちこちに転がる石。はびこる雑草。崩れた煉瓦が主張する園芸部の名残。その花壇の残骸はよく見ると土の中に不良が残していったタバコの吸い殻が混じっている。
とても野球の出来る環境ではない。
「最低でも、あと一人いないと部活申請もできないし……」
「場所も道具もないしな」
野分の言葉を晴が補足する。
「あ、もしもし、かい? うん、元気。今ね、新しい仲間が増えたとこ。えっと「明日、流行る風邪」さんっていう二年の人」
恒例の幼なじみからの電話に、本当にそれが人名だと思っているのかと問いただしたくなる聞き間違いを披露する日和。
「あーもう……グラウンドを明け渡すようにサッカー部とアメフト部を脅してくるぜ」
とりあえず練習できる場所を確保するのが先決とばかりに手っ取り早い方法に訴えようとする雷。野分は慌ててそれを止める。
「だめーっ! そんなんしたら部になる前に廃部になるよっ!」
腰にしがみついて訴える野分に、それもそうかと雷は思いとどまる。もちろん、脅すは言葉の綾で、ちょっと強引にお願いをするだけのつもりだったが。
そんならどうすんだよ、と口を尖らせる雷に、その腰にしがみついた野分をさりげなく引き剥がしながら晴が言う。
「あいにく、場所も部員も足りてねぇんだ。まともに部活なんか出来ねぇよ。せいぜい基礎練と体力づくり、霧原への野球教室ぐらいだな」
「ちっ……せっかくやる気になったっつーのに……」
頭をがしがし掻きながらぼやく雷。その様子を見てしゅんとする野分。
(せっかく部員が増えたのに……何も出来ないだなんて……)
部員勧誘も急務だが、練習場所の確保も同時に行わなければならない。たとえ九人揃っても、練習できる場所がなくては何も出来ない。
天木田の校庭は他の部で埋まってしまっている。今からあそこに食い込むのは難しいだろう。とすると、他の場所を探さなくてはならない。
とはいえ、広くて思いっきり走ったり投げたり打ったり出来る上に、この学校から通える場所などあるだろうか。
頭を悩ませながら肩を落とす野分だったが、その時、背後からか細い声が遠慮がちに掛けられた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
それいけ!クダンちゃん
月芝
キャラ文芸
みんなとはちょっぴり容姿がちがうけど、中身はふつうの女の子。
……な、クダンちゃんの日常は、ちょっと変?
自分も変わってるけど、周囲も微妙にズレており、
そこかしこに不思議が転がっている。
幾多の大戦を経て、滅びと再生をくり返し、さすがに懲りた。
ゆえに一番平和だった時代を模倣して再構築された社会。
そこはユートピアか、はたまたディストピアか。
どこか懐かしい街並み、ゆったりと優しい時間が流れる新世界で暮らす
クダンちゃんの摩訶不思議な日常を描いた、ほんわかコメディ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あやかし民宿『うらおもて』 ~怪奇現象おもてなし~
木川のん気
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞応募中です。
ブックマーク・投票をよろしくお願いします!
【あらすじ】
大学生・みちるの周りでは頻繁に物がなくなる。
心配した彼氏・凛介によって紹介されたのは、凛介のバイト先である『うらおもて』という小さな民宿だった。気は進まないながらも相談に向かうと、店の女主人はみちるにこう言った。
「それは〝あやかし〟の仕業だよ」
怪奇現象を鎮めるためにおもてなしをしてもらったみちるは、その対価として店でアルバイトをすることになる。けれど店に訪れる客はごく稀に……というにはいささか多すぎる頻度で怪奇現象を引き起こすのだった――?
パーフェクトアンドロイド
ことは
キャラ文芸
アンドロイドが通うレアリティ学園。この学園の生徒たちは、インフィニティブレイン社の実験的試みによって開発されたアンドロイドだ。
だが俺、伏木真人(ふしぎまひと)は、この学園のアンドロイドたちとは決定的に違う。
俺はインフィニティブレイン社との契約で、モニターとしてこの学園に入学した。他の生徒たちを観察し、定期的に校長に報告することになっている。
レアリティ学園の新入生は100名。
そのうちアンドロイドは99名。
つまり俺は、生身の人間だ。
▶︎credit
表紙イラスト おーい
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる