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 モニカの父は騎士団で働いている。今日は詰め所の方にいるというので、村の外れの建物まで歩いていった。

「すいませーん……あれ?」

 建物の中を覗くと、受付に誰もいない。通常はここで面会を申し込んで呼び出してもらうのだ。仕方がなく、モニカはその場で誰かが来るのを待った。
 ほどなくして、何人かの騎士が受付の奥を通る足音と声が聞こえた。そのうちの一人が、モニカに気付いてくれたらしく、奥から顔を出した。

「あれ? 何かご用っすか?」

 まだ若い騎士だった。制服が真新しいので、入団したばかりかもしれない。少年っぽさが多分に残っており、さらっとした茶髪がさわやかだ。もっと騎士団に馴染めば、男臭くなっていくだろう。

「あ、あの、ハリスを呼んでもらえますか? 娘のモニカです」
「あ~、娘さん? ハリスさんは団長に呼ばれて行っちゃったんで、たぶんしばらく戻ってこないっすよ」

 軽い感じの喋り方をする男に、モニカは「苦手なタイプだな……」と思った。
 しかし、顔立ちは整っているので、おそらく女性にはもてるのだろうと思った。

「俺で良かったら、伝えておきますよ?」

 にこにこと人当たりのいい笑顔で近づいてくるので、モニカはちょっと身を引いた。

「え、と……じゃ、じゃあこれ、渡しておいてもらえますか?」
「了解っす!」

 男はにかっと笑ってモニカの手から包みを受け取った。

「あ、俺、フォクシーって言います。入ったばっかの見習いなんで、どうぞよろしくお願いします」
「はあ……」

 いやに人なつっこい男だなと、モニカは呆れた。

「では、お願いします。ありがとうございました」
「は~い。また来てくださいね」

 ひらひらと手を振るフォクシーにお辞儀して、モニカは詰め所の戸口から外に出た。
 すると、午前中に教会で一緒だった友人達がそこにいて、詰め所から出てきたモニカにわっと寄ってきた。

「モニカ! 今の人、誰?」
「へ?」
「偶然通りかかったら、中にモニカがいるのが見えたのよ」
「男の人と話していたでしょ? 何か渡していたけど、もしかしてお弁当?」
「やだ! そんな仲のひとがいたの? 教えてよ! 水くさいじゃない!」

 きゃあきゃあと問いつめられて、モニカはぱちくりと目を瞬いた。
 一瞬、呆気にとられたが、すぐに彼女達が勘違いをしていることに気付いた。
 彼女達はモニカが若い男と話している姿を見て、彼がモニカの親しい人だと勘違いしたらしい。

「違うのよ。これは……」

 モニカは正直に否定しようとした。
 だが、その前に友人の一人が首を傾げて言った。

「でも、騎士団に入団するぐらい優秀な人なら、きっと良い縁談とか来てるわよね」
「それもそうね。顔も格好良かったし、きっとモテるわ」
「そうね。モニカの恋人なわけないわよね」
「恋人がいたらモニカだってもうちょっと色気づくわよね」
「ごめんね、モニカ。早とちりしちゃって」

 口々に同意する友人達に、さすがにモニカもむっとした。
 確かにその通りなのだが、まるで「モニカの恋人になる男が格好いいわけがない」と言われているみたいで、なんだか悔しくなってしまった。

 だから、つい勢いでモニカは言ってしまった。

「そうよ! 今の彼が私の恋人よ!」

 友人達はおしゃべりをやめてモニカを見た。

「恋人に会いにきたのよ! 何か文句ある?」

 勢いが止まらず、モニカの口からは嘘が滑り落ちてしまった。
 売り言葉に買い言葉。
 ついうっかり言ってしまったのだ。

「……へぇ?」

 背後で、不思議そうな声がした。
 ぎくりと体を強ばらせて恐る恐る振り向いたモニカの目には、詰め所から顔を出したフォクシーがいた。



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