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しおりを挟むルイゼルは前の生以上に強くなることにした。学園生活以外の時間は剣の腕を磨くことに専念した。
アクセルへの未練を断つためと、動きやすい格好をしたいのが理由で、兄のお下がりを着て過ごすことにした。両親はびっくりしていたがルイゼルのしたいようにさせてくれた。
アクセルや友人達とは、過去三回ほどには仲良くなれなかったが、クラスメイトとして程良い距離感で過ごした。
アクセルの隣にルイゼルではない令嬢がいるのを見たときは心が痛んだが、彼の命が救えるならそれでいいと未練を断ち切った。
そして、パーティーの日を迎え、アクセルを守ることは出来たが、代わりに友人達が命を落としてしまった。
アクセルは死ななかったが、また戻った。
今度は前より頑張ってみせる。そう決意して、男物の服を着るのに加えて長い髪をばっさり切った。流石にメリッサが失神した。
五度目の人生、ルイゼルは同じように体を鍛えつつも、同時に魔獣が現れた原因を探り始めた。
魔獣を召還できるのは闇の悪魔と契約した者だけだ。
実は、ルイゼルには一人疑っている人物がいた。
キャゼロス公爵家の嫡男であるカインだ。ルイゼル達より一学年上だが、彼にはアクセルをーー王家を恨む理由があった。
カインの亡くなった母親は、かつては国王の婚約者だったのだ。
だが、学生の時に下位貴族の令嬢を虐めた罪で婚約破棄され、無口な変わり者と敬遠されていた公爵家嫡男に嫁がされた。虐められた下位貴族の令嬢は王太子ーー後の国王ーーと結婚して王妃となり二人の王子を生んだ。
王妃を虐めたという理由で公爵夫人は社交界で孤立し、誰も味方がいないまま孤独に亡くなった。息子であるカインも、貴族達からは良く思われていなかった。
そのことで、カインは王家を逆恨みしてアクセルを魔獣に襲わせたのではないかと思ったのだ。
なんとか証拠を掴みたいと思ったが、相手は嫌われ者とはいえ公爵家の嫡男で学年も違う。接点がなさ過ぎて近づけなかった。
けれど、パーティー当日、カインを見張っていたルイゼルは彼が抜け出すのを見た。
慌てて行方を探すと、学園の地下で魔獣を呼び出す決定的瞬間を目撃した。
しかし、召還を阻止することは出来ず、結局またアクセルが死んでしまった。
だけど、これで犯人がわかった。
「覚えておきなさい! 次こそは、貴方の逆恨みからアクセルと皆を守ってみせる!」
そして、六度目。
ルイゼルは犯人とわかったカインに遠慮なくつきまとった。闇の悪魔と契約しないように見張るつもりだった。
周りからは変な目で見られたし、カインからも薄気味悪そうにされた。
けれど、一番辛かったのはアクセルや友人達の態度だ。事情を知らない彼らからはルイゼルの行動はカインにすり寄っているようにしか見えなかったのだろうから仕方がない。何度も彼と関わるのはやめるように忠告されたがルイゼルは「それは出来ません」と答えるしかなかった。
アクセル達と仲良くなれなかったのはとても悲しかった。皆から遠巻きにされて孤独な学園生活を送る羽目になったが、それでもアクセルと皆を守れるならとルイゼルは耐え忍んだ。
そうして、カインの近くにいたルイゼルは、初めてカインの事情を知ることになった。
王妃を虐めた女の子供と陰口を叩かれ、寄ってくるのは甘い汁を吸おうとする輩ばかり、公爵家でも後妻の子供が大事にされカインは冷遇されていた。
カインのしたことは許せない。
許せないが、ルイゼルはカインだけが悪いと言うことも出来なくなってしまった。
だって、親の世代の揉め事で何の関係もないカインまで周りから冷たくされるなんておかしい。
最初は悪魔と契約しないように見張るつもりだったルイゼルは、復讐を忘れるぐらいに楽しい生活を送ればカインは改心するのではないかと考え、自分が彼の友達になろうと決めた。
時間の許す限りカインと行動を共にし、行事の度に誘い遊びに連れ出し、家にも招待した。両親は娘が社交界の爪弾き者を連れ帰ってきたことに困惑していたが、ルイゼルが友達だと言うと温かく見守ってくれた。
しかし、長年積もった恨みを消すことは出来なかったらしい。
「俺はどうしても、自分が心変わりしたのに全部俺の母親のせいにした国王と、のうのうと幸せに生きているその家族を許すことが出来ない。ごめんな」
召還の場に駆けつけたルイゼルに、カインはそう言って謝った。
「カイン。次はこんなことさせないぐらい、もっと仲良くなって、止めてみせるからね」
ルイゼルはカインにそう約束した。
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