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〜メリーさんと義母のたしなみ〜

怪31

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(何があったんだ、いったい……っ?)

 授業の間も、ユリアンはアメリアのことしか考えられなかった。

(なんでいきなり男装なんだ? アメリアが僕の服を着ているだなんて……くっ!)

 ユリアンは上を向いて鼻を押さえた。行動の理由は察していただきたい。思春期の男の子なのだ。

(あの女、あの女だ……あいつが、何か吹き込んだに違いない……っ!)

 あの婚約破棄の日からずっと、アメリアの傍につきまとっている得体の知れない子供。あれくらいの齢の子供がいる貴族の家を調べてみたが、子供がいなくなったという家はなかった。ということは、あの子供は平民のはずだ。

(平民の子供が、さてはアメリアの同情を買って家に入り込んだのだな……許せん!)

 なんとしてでも、あの子供をアメリアから引き離さねばならない。ユリアンは決意を固めた。



 一方その頃、

「くっ……アメリアの奴め。男の格好をしてまで俺の気を引こうとするとは……」
「そこまでするかって感じー。みっともないわねぇ、クラウス」
「まったくだ。公爵令嬢が男の格好をするだなどと、品位のかけらもない!」
「きゃー! アメリア様がお通りになられるわ!」
「公爵令嬢にあるまじき醜態で……」
「素敵ねぇ、アメリア様」
「アメリアごときが何をしようと……」
「婚約破棄されて良かったわよねぇ。アメリア様の隣に余計なものがぶら下がっていないからすっきりしてますますお美しく見えるわぁ」
「……おのれぇぇぇアメリアァァ!!」

 王太子は一方的に憎悪を燃え上がらせた。逆恨みである。

「もう許せん! 今日こそは引導を渡してやる!」
「きゃー! クラウス素敵ー!」

 ちなみに、「引導を渡す」とは、仏道に導くこと、もしくは死者が成仏出来るように経を唱えることであり転じて最終的な宣告を下す意である。
 もう婚約破棄は宣告したのに、この上何を宣告することがあるんだろう、と、クラスメイト達は不思議に思った。


 女子達が騒いでいるのを横目で見て、騎士団長の息子であるショーンは頭を働かせていた。

(まさか、アメリア嬢が『紅きチャンジャール公』の一員を捕まえるとは……)

 婚約破棄まではどうにか上手く運んだ。だが、その後が些か予想外の方向へ進んでしまっている。

(アメリア嬢は関わっていないということなのか。それとも、トカゲのしっぽを切ったのか)

 ショーンは思案する。もしも何かを企んでいるのだとしたら。

(もう少し泳がせるべきか。そういえば、ユリアンが急にメルティへの態度を変えたのも不審だ)

 ショーンの場合は、王太子に婚約破棄させるという目的のためにメルティを持ち上げていたにすぎない。ユリアンもまた、何か目的があったということか。
 いずれにしろ、公爵家の姉弟にはまだ気を許すわけにはいかない。

(場合によっては、アメリア嬢を斬ることになる可能性もある)

 ショーン・アルテロイドは自らの役目を果たすためならば、どんなことでもする覚悟を固めていた。



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